桜目指して！　入学試験｜リアクション

桜目指して！　入学試験

◇木天蓼大学入学試験

　木天蓼大学寝子島キャンパス。
　去年の夏のＡＯ入試の入試補佐に続いて、城山水樹は教授から試験監督補佐を頼まれていた。
　今度も急病で一人欠員が出たらしい。
　幸いと言うべきか、入試当日には撮影などの予定も、友達や恋人とどこかへ行く予定もない。なので了解した。
（バレンタインデイを控えたこの時期は何かと出費がかさむのよね）

　背が高く均整のとれた身体つきをした読者モデルである水樹は、今回はごく控えめな服を着て、全体的に地味目に纏めた。
　それでも華のある容姿なので目立つのか、受験生からの自分への視線を感じる。
「ねえ、あの人どこかで見たことない？　芸能人かなあ？」
「えー、芸能人がこんなとこにいる？」
　女子がこちらを見ながらひそひそ話している。
「よそ見してたら受からないよ」
　とかツッコミ入れそうになるが、邪魔になってはいけないと黙っていることにした。
（入試か……私は大学へはＡＯ入試で入ったのよね。だから受験勉強で苦労した経験はなかったけど、一般入試に臨む同級生は物凄いプレッシャーで入試前後はすごくピリピリしていて、かえって申し訳ないような気がしたっけ）
　入学した後で苦労するかな……と思ったが、要領がよかったので実はそれほど苦労はしなかった。
（そうでなければモデルと学業、両立できないしね）
　ふと、受験生の中に見覚えのある顔を見かけた。
　セミロングの黒髪に眼鏡のクールそうな男子。
　海原茂は表情を変えないまま城山水樹にチラリと目を走らせていた。
（あの子確かＯＡ入試の時にも来たわね）
　今回もいるということは、再戦するのだろう。
（頑張れ！）
　水樹は心の中でエールを送った。　

　生来のたれ目と慢性的な寝不足で気だるそうな雰囲気を漂わて、壬生由貴奈も入試会場に入った。
（気づいたらもう2月……ってことは無いくらい濃密な一年だったけど、もう入試の時期なんだよねぇ）
　昔はいろいろあって留年したがっていたが、さらにいろいろあって今は進学へ前向きになっている。
　受験するのは理工学部。元々寝子高での試験成績は、（体育を除いて）非常に優秀だ。
（それじゃさっさと試験終わらせよっかぁ。……あっ、でもいつものように試験初っ端から寝るのは怒られちゃうかなぁ……）
　高校での試験は寝る→終了10分前に解くという離れ業をやってのけている由貴奈である。
（そうだ、なら逆に最初に解いちゃえばいいじゃん。10分くらいでさらさらーっと解いて、あとは終了時間まで寝れば睡眠時間も確保できるねぇ）　

「それでは、始め！」
　会場中に緊張が走る。
（……みんな、頑張ってね。春にはまたこのキャンパスで会おうね）
　入試補佐としてその様子を見守っている水樹は思う。
　普段のんびりしている由貴奈も、真剣に問題と向かい合う。
　会場には鉛筆の走る音、紙をめくる音だけが響く。
　……そして１０分後。
　計画通り試験を終わらせて寝息を立てる由貴奈。
　その様子を見ていた水樹は唖然とした。
（校内のテストならまだしも、この状況の中で寝る？　大物ね……）
　ある意味見習いたいかもしれない、と思う。　

「終了！　鉛筆を置いてください」
　試験が終わると、由貴奈はすぐに気持ちよく目を覚まし帰っていった。

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