【バレンタイン】学生達のValentine's Day!｜リアクション

【バレンタイン】学生達のValentine's Day!

●花咲く君の笑顔を

　たまたまだったのだ。
　月居歩は学校帰りに買い物に行き、花屋の前を通りかかって。
　そこで目についたのが『バレンタインに花を贈ろう』なんて書かれたポスターで。
　その時に浮かんだのは、芽森菜々緒の顔。
　もし花を贈ったら、アイツはどんな顔をするだろうか。
　ポスターの前でそんな事を考え、花屋を覗く。そこには色とりどりのミニブーケが並んでいて、歩は思わず見惚れてしまう。
　そしてハタと我に返った。
（……俺は何をしてるんだ）
　自分自身に苦笑して足早にその場を離れたのが、昨日の事。

　放課後。教室で頬杖をつきながら、歩は窓辺に佇む菜々緒の横顔を見ていた。
　結局、花は買わなかった。
　大きくないとはいえ流石に学校に持ってくる訳にもいかないし、そもそも花を贈るガラでもない。
　けれど菜々緒のぼんやりと遠くを眺める顔を見てると、なぜか胸の端っこが疼いた。
　俺は、どうしたいんだろう。

　すると、菜々緒がふと動いた。こちらに気が付いたのかとドキリとする。しかし、そうではなかった。クラスメイトの吉祥寺黒子が菜々緒に近付いてきたのだ。
　何やら黒子は菜々緒に話しかけ、持っていた紙袋から包みを取りだし、菜々緒に差し出した。菜々緒は驚いている風であったが、やがてふわりと笑うとその包みを受け取ったのだ。

　息が、止まった。

　まだ自分の気持ちを菜々緒に伝えるつもりはない。それは彼女が抱える色々な事が解決してからだ、と思っている。
　けれども、さっきの彼女の笑顔を見た時に。
　気障かもしれないが、花のようだと思った。昨日見た花屋の鮮やかな色彩が先程の菜々緒を面影を彩る。
　俺は何をしたいのか。俺は何が出来るのか。
　明確な答えはないのかもしれない。彼女に訊いても困らせてしまうだけだろう。
　でも、ただ純粋に。
　ただ純粋に菜々緒が喜んでくれたらいい、と思った。
　彼女が少しでも笑顔でいられる事が出来るなら。それが俺のしたい事なのだろう。
　
　物思いに耽っていた歩の横に人の気配がした。
　ふと気が付いて見上げれば先程まで菜々緒といた黒子が自分を見下ろしている。彼女は歩の目の前にチョコの包みを置くと、彼に囁いた。
「俺はもうチョコ渡せたから……お邪魔虫は退散してやんヨ」
　思わず歩は黒子を凝視する。彼女は悪戯っぽくはははと笑うと、手を振って教室を出て行った。

　その背中に歩は苦笑する。
（アイツの笑顔……先を越されちまったな）
　少しの嫉妬と、同志のような気持ちを黒子に抱く。お互い、本気で菜々緒の事を思っているからだろう。
　歩は軽く目を閉じ、ガタンと席を立った。
　菜々緒は今日の午後は何をするつもりだろうか。もし、予定が空いてるのだとしたら。
　俺は学校終わりに花を買いに行こう。
　そしてそれを持って、菜々緒の家に渡しに行こう。―――君は、笑ってくれるだろうか。
　歩はちょっと息を吸い込むと菜々緒を真っ直ぐに見た。

「菜々緒……今日、午後空いてるか？」

　全く、本当に……自分のガラじゃねぇな、こんなの。