闇からの使者｜リアクション

闇からの使者

●とんでもねえことになってしまった。
　炬燵。それは本来安らぎの場所であるはずなのに。
　炬燵。今回に限ってはまるで断頭台のような場所になってしまった。
「ここまでか！？　ここまでわたしの外見は幼いか！？」

なにやらぎゃあぎゃあと叫びながらその部屋にやってきたのは葉月朱真。覚悟を決めたらしくスパンと部屋の障子を開いた彼女の頭には、愛らしい黄色の帽子。視線を少し下に移せばそこには水色の……スモック。可愛らしいキャラもの（くまたんとうさぎさんがきゃっきゃしている感じの）の肩かけカバン。
　極めつけは、胸に「はづきしゅま」と書いてあるチューリップ型のバッジ。
どこからどう見ても立派な幼稚園児である。
「普段から中学生くらいに間違われる事は多々あるが……。恥ずかしいと言うか、屈辱だ。セクシー水着でも着せられた方がまだマシだ……」
がっくりと肩を落とし負のオーラを出しまくっている。海原茂は彼女を炬燵へと招き入れる。笑いが込み上げそうになりながら、彼は頭を下げた。
「これもフツウを死守するための事だ……頼む」
　次に障子を開いて入ってきたのは、白石妙子。

　普段はこのようにフツウの奥様なのだが、このゲームでの出で立ちは惨憺たるものであった。
　長襦袢。ここまでは許せるだろう。……腰にはほどけかけの帯。そろそろ危ないぞ。いつもの眼鏡はどこへやら。瓶底の鼻眼鏡を装着した間抜けな顔。　そして、トドメの
　　ハ　ゲ　ヅ　ラ。
　ブッと吹き出す茂と朱真。
「いやあっ！　見ないで！　子供にこんな姿見られたら……」
　顔を覆って後ろを向く妙子だが、後ろを向いても色々無駄である。あの強烈なインパクトは拭えない。
「フツウを守るためです、お辛いとは思いますがご協力をお願いします」
　がばっと勢いよく茂が頭を下げる。
「これで……世界が救えるの？　だったら私……でも、恥ずかしすぎる！」
　震えながら立ち尽くす妙子。そんなやりとりをしていると、背後の障子がまた開いた。

「こ、こんにちはー」
　あの時の水着もなかなかにせくすぃなのだが、今回は布面積が明らかに少　な　い！
　今年はわけのわからんことが多かった。
　ハロウィンパレードの時はバスケ部の陰謀で悪魔なバニーの格好をさせられ、寝子高前夜祭ミスコン水着部門にエントリーされて出場余儀なくされ。
　お三夜まつりでも三夜湖を泳いでお三夜さまのお社へ魚をお供えに行ったっけ。
　体張ってる。
　めっちゃ体張ってる。

　というか、それよりなにより　寒　い　！
　まずは炬燵に入りたい！
　サッと妙子の横をすり抜け、炬燵に潜り込んだ……ところ。

　少し接触しただけで妙子の帯が解けたのだ。

「～～～～～～～～～～～～～～～！！！！！！！！！」
　真っ赤になって咄嗟に顔を覆う茂。でも思いっきり指の間から見てるね？　見てるよね？
　長襦袢がはらりと落ちたその姿はとんでもないもので。
　穴の開いた白いタイツにバレエのチュチュ。股間からは白鳥の首が伸びている。
　っていうかさっき長襦袢から露出していなかったのが奇跡。
　上半身のあちこち破れた網タイツにはりつけられた『しろいし　たえこ』と『47kg』の文字が燦然と輝いている。
「お願い……誰にも言わないで。なんでもしますから……」
　なんでもって言った？　ねえ、今なんでもって言った？
「なんでもっていうか、とりあえず炬燵に入って鍋を食べましょう！　あと、大丈夫このことは多分ここにいる人間しか知らない！」
　茂はあたふたしながら妙子を炬燵へ手招きする。
　お尻が丸見えになるのを恐れてチュチュの後ろをグッと引っ張ると、間抜けな白鳥がキュッと上を向いた。
「ぶっっっ」
　茂が笑いを堪えきれずに後ろを向く。
「せめてお酒もらえませんか……素面でなんて」
　――酒は用意されていなかった。
　わずかな望み空しく、彼女は素面で、まともな精神のままこのとんでもない闇鍋ゲームに参加せざるを得なくなってしまったのである。

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