星ヶ丘駅前の白いベンチで、小麦色の肌の幼い女の子が顔を真っ赤にして俯いていた。
彼女の小さな手には不似合いなスマートフォンが握られている。
丁度ロータリー前に停まっていたタクシーの運転手が、何事かと思って女の子に声をかけた。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい? お父さんとお母さんは? 迷子なのかな?」
ぶんぶんと首を横に振って、女の子が顔を上げた。
「――……おにいちゃん、テンキンしちゃうんだって。ねこじまからいなくなっちゃうんだって」
一人勝手にしゃべりだした女の子の大きな目から、じわりと大粒の涙が浮かぶ。
「かほ、イイコにしてたもん。おにいちゃんがイイコにしてようねって、そういったからイイコにしてたんだもん。でも、イイコにしてたのに、おにいちゃんいなくなっちゃう」
頬を伝った涙がぽたぽたと零れ、スマートフォンを濡らす。
「……やだよぅ。おにいちゃん、ねこじまからいなくなっちゃいやだよぅ!」
そう言って、女の子はわあわあと声を上げて泣き出した。
タクシーの運転手は慌てて女の子を泣き止ませようとするが、その泣き声は大きくなるばかり。
困り果てた運転手は、ねこったーに助けを求めた。
『親戚のお兄さんが引越ししちゃうって言ってる女の子が泣き止まない。助けて!』
皆様、はじめましてまたはお久しぶりです。はと と申します。
今回もよろしくお願い致します。
以下、補足となります。
・笹山 嘉穂(ささやま かほ)
親戚のお兄ちゃんが大好き! なこばと幼稚園に通う小麦肌の5歳児。
三つ編みお下げと白と青のスプライトワンピースが良く似合う可愛い女の子です。
お兄ちゃんのスマートフォンを持ち出しており、これがなければおにいちゃんは寝子島から出て行けないかも? と思っています。
・嘉穂のお兄ちゃん
都市銀行勤務の営業マン。眼鏡の似合う26歳。
寝子島の実家から向かいの本土の銀行に勤めていたが、業績が認められこの夏に栄転決定。
嘉穂とははとこの間柄。
・タクシーの運転手
ねこじまタクシーの運転手。45歳の中年男性。
仕事のため、星ヶ丘駅からすぐに離れてしまいます。
嘉穂のお兄ちゃんの転勤は決定事項で覆りません。
お兄ちゃんは明日の昼には引越し、寝子島からいなくなってしまいます。
嘉穂の「おにいちゃんとずっといっしょにいたい」という思いは叶いません。
せめて、嘉穂の初恋が良い思い出になるよう力を貸してあげてください。
皆様のご参加をお待ちしております。