とある月の夜。
それなりに暗く、他に人は居ない。
九夜山の麓に広がる、ひまわり畑に さあっと、風が通り過ぎた。
ふと心がざわついて……犬飼 未央は足を止めた。
暗がりに目を凝らせば、老婆が一人、蹲っていた。
――もれいび?
老婆から、神魂の気配を感じる。
不用意に近づくのは少し ためらわれたが、やはり放置しておけなかった。
「あの、お婆さん……どうかしましたか?」
老婆の傍らに膝を突き、声を掛けた瞬間、意識を持っていかれて。
彼はそのまま、ひまわり畑に倒れこんだ。
目を覚ましたら、家の中だった。
ごくごく普通の、戸建ての住宅。 “自分の家” だ、そう認識する。
台所には “母” が居て、食事の支度をしている。
すぐ手伝いを申し出たものの、礼の言葉と共に「休んでいていいのよ」と、やんわり断られた。
「え、でも……」
何だろう、ひどく違和感を感じて落ち着かない。
それが何だか分からないまま、時間だけが流れた。
悩む未央を気遣い、 “母” は、ひたすら優しかった。
別の日。
未央は何気なく、居間のピアノに手を伸ばした。
フエルトの赤い布を取り払い、鍵盤に指を沈める。
「ん?」
ピアノは音程が狂って、酷い音だ。一体、いつから調律していないのだろう?
拭えない違和感が、顕著となった。
――これじゃあ、母さんが歌えな……。
「……!!」
息を呑む。
思い出した。 “本当の” 自分の母は、あの人じゃない。
「あら、どうしたの? そんな顔をして」
急に立ち上がった未央を振り返り、問うた “母” の顔は変わらず優しく、どこまでも柔らかい……。
けれど。
自分が居るべき場所は、ここではない。
胸は痛むが、この人に別れを告げて、帰らなければ――。
メシータです。
今回、PCの皆様には夢の世界で、かりそめの家族体験をしていただきます。
導入部など事件への関わりについて、特別こだわりがない方は、夢の中からアクションを書かれる事をお勧めします。
■場所・状況
九夜山の麓の、ひまわり畑です。
そこに吉江という名の老婆が蹲って眠っており、声を掛けた人はもれなく彼女の夢に意識を取り込まれ、現実を忘れてしまいます。
夢の中で吉江は、PCの皆さんの母親となります。とても暖かいお母さんです。
皆さんは年齢、性別について気にしなくて構いません。
すでに大人の方も、夢の世界に入れば、等しく吉江の子供達です。
★夢の中でのルール★
<現実とは全くの別人になっていても構いません>
ただし登録されているPC、NPC、実在する人物などは除きます。
GAを組まれている方と、そっくりの双子や三つ子などの設定にする事は可能です。
*特定のPC様と兄弟・姉妹プレイをご希望の方は、GA推奨です。
ご一緒のPC様とアクション欄に、GA【 (GA名) 】とご記入ください。
キャラクター目的欄には、PC様との夢の中でのご関係をお書きください。
【例】俺がアニキで、●●が妹 等
夢の中の家は、昭和40年代くらいに建てられたものをイメージしてください。
居間に音の狂ったピアノや、子供の玩具がある他は、ごくごく普通の家です。居間や水回りは洋風(板張り)ですが、その他は和室(畳)です。
夢の中でどれ程長い時間を過ごしても、外で流れている時間は、ほぼ一瞬です。
真実を思い出し吉江に別れを告げる、或いは誰かに外部から起してもらえれば、現実に戻る事が出来ます。
■ガイド登場NPC
・老婆(吉江)
もれいび。認知症がある、80歳の御婆ちゃんです。
夜、徘徊していて、ひまわり畑にたどり着きました。
彼女については捜索願いが出ており、いずれ警察官とおうちの人が迎えに来る予定です。
発動条件が厳しい ろっこんなので、おうちの人が迎えに来る頃には、発動できなくなっています。
夢の中では、彼女は40歳くらいになっています。
・犬飼 未央(いぬかい・みお)
16歳の少年、高2。もれいびです。
拙作 黒い指先シリーズに登場していますが、知らなくても全く問題ありません。
(未央が神魂を察知出来る能力を持っている事は、PL情報です)
ひまわり畑の老婆の傍で眠っていますが、自力で戻るので、放っておいて大丈夫です。何事も無ければ、皆さんと入れ替わりで、意識を回復します。
PCの皆様が帰る踏ん切りがつかず、かつ起してもらえるアテがない場合は、未央が強制的に起します。
・ルクス
盲導犬の幽霊、もれいびです。
月の光で実体化する ろっこんを持っており、PCの皆さんが通り掛かった時、霊感が無い人でも、見る事が出来る状態です。
未央を守っており、近辺をウロウロしているため、居場所の目印になります。
以上です、仲良し家族を体験するもよし、吉江と二人きりで母子の関係を見つめ直すも良し。
お気に召しましたら、ご参加くださいませ。