ようこそ!
木天蓼(またたび)大学略して
マタ大──の、本土キャンパスにほど近い
駅前へ!
より具体的に言えばそこにある、
最近できたイタリアンバルへ! ……略してイタバル? まあいい。
店名は『ブレッツァ・ディ・マーレ』、ひとことでいえばデート向けの店だ。外壁はくすんだテラコッタ色、窓枠は白く塗られ、入口には小さなオリーブの鉢植えが並んでいる。夜になるとキャンドルライトが灯り、なんとも小洒落た雰囲気となるのだ。学生街にしてはすこし背伸びした価格帯ではあるものの、木天蓼大の学生にも徐々に知られはじめていた。
バル店内奥の大テーブルに、木天蓼大学異世界探検部(通称イセ探)の面々が陣取っていた。
「というわけでナ」
イセ探部長
オルガ・オングストロームは、グラスの白ワインを片手にのたまう。
「次の作戦、考えてきたノ!」
「おお」
綺生 煌牙(きりゅう・こうが)は前のめりだ。テーブルに肘をついて身を乗り出し、「どんなでっか~」と言いながら、手元のパスタをスプーンでくるくるしている。巻けているかどうかは謎だ。
響 タルトも目を輝かせる。じつのところタルトは、ネコミケ合わせの薄い本締め切りが間近に迫っているのであるが、それはそれ、これはこれというやつだった。
いっぽう、
重 錘左衛門(おもし・すいざえもん)はなにやら不安そうな顔で左右の様子をうかがっていた。
「聞かせてください、部長!」
タルトが言うと、「フフフ」と部長はなにやら不穏な含み笑いを漏らした。
「実は寝子島に、『碧十字の館』と呼ばれる古びた洋館があってナー、入ると呪われるというウワサが……」
「
わーっ」
出し抜けに声を上げ、錘左衛門は頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまった。マッチョな巨漢のやることだから、これはなかなかの迫力だ。
タルトはギョッとしたが、オルガは慣れているようで首をすくめただけ、煌牙にいたっては眉を八の字にしただけだった。
「ブチョーあきまへんて、そないなオバケ屋敷探検みたいなんは。すいじゃえもんには絶対無理なシチュエーションでっせ」
前ワイらがやった夜中の校舎屋上調査かて「学校の怪談や~」ゆーて来れんかったもんな、とは煌牙の言である。
「オホー、やっぱり?」
オルガは後頭部をかいた。
「だったら、寝子島イリージョンランド行きもだめかナー? とっくの昔に廃園になった遊園地なんだけど、夜な夜な怪しげな存在が出るとか出ないトカ」
錘左衛門は耳を覆い机に突っ伏したまま頭を左右に振った。
「あ、一応聞いとんや?」煌牙は苦笑した。「すいじゃえもん、無理なもんは無理でええんやで。ワイかて犬はマジあかんし」
「誰にも苦手なものがあるのは当然デス」オルガはあっさりと言ってグラスを置いた。「じゃあ次のアイデア! 『幻燈夜』デス!」
「げんとうや? 何の日ですか?」
タルトが首をかしげると、洋二が補足した。七月終盤のある日付のことだという。ただし旧暦の。
「部長から聞いて調べてみたんだよ。この夜は幻が見えやすいっていう、寝子島の古い言い伝えがあるそうなんだ」
「今年はそれにちなんで、サッカー場で花火大会もあるノ! そしてSägen(伝承)によると──」
オルガは両腕を広げ、くるりと円を描いた。
「マボロシは輝く輪の向こうに、別のピカピカと一緒に見えるって! ナノで手持ち花火でぐるり輪を描いて、それが打ち上げ花火とぴったり重なった瞬間、異世界への窓が開くのカモ」
「……それ、誰が言ってたんですか?」
錘左衛門がおそるおそる顔を上げる。
「ワタシが考えたノ。ビーチでバーベキューでもしつつ挑戦してみるデショ」
「行きたいです!」
タルトは諸手を挙げて賛成だ。必要なら足だって上げただろう。錘左衛門もこれならOKらしくやっと笑顔にもどっている。
「ビーチのバーベキュー場、予約できるかナー?」
「任せてくださいブチョー。ワイ、前に使ったことありますわ」
「オホー! コーガ、頼もしいヨ!」
異世界が見えなくてもいい──タルトは頬を緩める。この夜が楽しいことだけは、もう確定している。
──* * *──* * *──* * *──
店のチョイス、まちがったかな……。
星山 真遠は軽く後悔している。
現在『ブレッツァ・ディ・マーレ』の半個室では、木天蓼大学SF研究会、略してマタ大SF研のOB飲み会が進行中である。
真遠の斜め向かいには、ござる口調の駒田先輩が座っていた。年齢は四十代、専門商社勤務のはずだが、何をしているのかはよくわからない。「拙者、本日はかような洒落た場所に招かれ光栄にござる」と登場し、ピザを切るにも「介錯つかまつるぅ」などといちいち物騒なことを言う。まさにサムライJAPANだ。
隣は後輩のニョン太郎(ハンドルネーム)で、母親がSayYouマートで買ってくれたと思しきチェックのシャツを着ている。決して悪い服ではないのだが、なぜかボタンが一個ずれており、それを誰も指摘できていない。シャツの下からは女児向けアニメのTシャツがのぞいていた。
その隣には、中年太りが進行中の同期の西村。かつてはSF研随一の読書家だったが、いまは「最近は積読ばかりでね」と言いながらビールをあおっている。
そして上座には、大先輩こと大場さんが鎮座していた。年齢はおそらく五十代、ガリガリに痩せており、何の仕事をしているのか誰も知らない。いつもニコニコしていて温厚な人物なのだが、酒が入って興が乗ってくると火吹き芸をやりはじめるので、周囲はひやひやしている。今夜も「そろそろかな」という雰囲気が漂いはじめていた。やめてほしい。マジで。
それはそれとして、と真遠は店内をぐるりと見回した。
客層はほとんどがカップル、でなければ女性グループといった感じで、女性がゼロのグループはおそらく自分たちだけだ。キャンドルライトの下、この洒落た空間で、オッサンばかりが肩を寄せ合って座っているのは、客観的に見てどうなのか。
しかも会話がこれだ。
「いやあ、『銀河漂流伝説』の新刊、読みましたか」
「読んだ読んだ。あの終わり方はないよねえ」
「ゲーム版だけやったよ」
「拙者、『けものホスピタル2』のことはいまだに許せんでござる」
「俺は案外好きだけどな」
「うぬ! 不倶戴天の敵め、成敗してくれるからそこになおれ!」
「それもゲーム版だけやったよ」
「大場さんは最近どうしてます?」
「うん、おいしいね、このパスタ」
「劇場版『TOS』の主題歌がさあ──」
……噛み合っているのかすら疑わしい、カオスきわまりないものだった。
聞かれたら恥ずかしいかもしれない。いや、恥ずかしい。たぶん。
かつてSF研にも女性メンバーはいた。多くはなかったが、たしかにいた。しかしその大半は、いつのまにかサークル内の誰かと結婚して、そうなるとこういう会合にはふたりとも来なくなった。育児が忙しいのかもしれないし、単純に人生の優先順位が変わったのかもしれない。いずれにせよ、SF研OBで集まれば、いつもこうして男ばかりが集まる飲み会になっていた。
これでいいのか、という気持ちが、ないわけではない。
ただ。
真遠はグラスを傾けた。
これだけ遠慮なくオタク話ができる場所が、ほかにあるかというと。
……ないな。
だったらいいじゃないか。
「あれ?」
通りかかった女性客が、真遠に目を留めた。
泰葉、と言いかけたのを「五葉さん」と言い直す。
五葉 泰子(ごよう・やすこ)だ。
「先生も、お友達と納涼会ですか?」
「ああ、まあ、そんなとこだな」
さすが泰葉、と真遠は内心舌を巻いた。ちょっと通りかかっただけなのに、「お仕事の集まりですか」などと言ったりしない。──俺がリラックスしきっているのを読んだのか、顔ぶれから判断したのか。
泰葉は派手な美人というわけではない。メイクも控えめで、どこにでもいそうな印象なのに、なぜか目が離せなくなる。圧倒されるような美貌ではないぶん、かえって近づきやすい気がしてしまう。物腰がやわらかく、そばにいるだけで空気が優しくなるような、そういう人だ。
男ばかりの飲み会に、こういう人が現れるとどうなるか。
それまでうるさいくらいだったSF研卓の会話がぴたりとやんでいた。痛いくらい視線が集まっているのを真遠は感じる。
泰葉が立ち去るやいなや、『いまの女性誰ですか!?』『け、け、傾国の美女でござるな』『……そろそろ火、吹いていい?』『だめですッ』といった会話がくりひろげられることであろう。
「あ、私はあそこの席です」
泰葉は、大学生らしきグループに片手を挙げた。留学生らしき姿にマッチョマン、青い髪の少年までいる多彩な集団だ。
あそこはもっと普通の大学生らしい話をしているんだろうな。
「では、失礼しますね」
泰葉は軽く会釈して、大学生グループのテーブルへと向かった。
「ヤスハー! こっちこっちー!」
留学生らしき女の子が手を振っている。その声が半個室まで届いて、SF研卓の一同は首を伸ばした。
「で」
と口火を切ったのはニョン太郎だった。
「いまの女性誰ですか!?」
ああ。
真遠は嘆息した。
予想通りだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。桂木京介です。
長いシナリオガイドは読まなくても大丈夫です。
響 タルトさん、星山 真遠さん、ガイドへのご登場ありがとうございました!
ご参加の際は、このガイドにこだわらず自由にアクションをおかけください。
概要
本作は木天蓼大学関係者を参加対象にしたシナリオとさせてください。
新入生・在学生・大学院生の区別はありません。OBやOGといった『元マタ大生』でもOKです。
舞台については大学の内外を問いませんが、多少なりともマタ大に関わっている話でお願いします。
時期は1372年7月終盤とします。
長い夏休みに自主勉強、旅行に行く、のんべんだらり、バイト三昧、元マタ大学生の集まり……どんな話でも歓迎です。
NPCについて
制限はありません。でも相手あってのことなので、必ずご希望通りの展開になるとはかぎりません。ご了承下さい。
特定のマスターさんが担当しているNPCであっても、アクションに記していただければ登場できるよう取り計らいます。
NPCとアクションを絡めたい場合、そのNPCとはどういう関係なのか(初対面、親しい友達、交際相手、愛と勇気だけが友達の孤独なヒーローとその宿敵でイービルな菌類など)を書いておいていただけると助けになります。
参考シナリオがある場合はタイトルとページ数もお願いします(必ず2シナリオ以内で)
毎回書いてますが私は、自分が書いたシナリオでもタイトルとページ数を指定いただけないと忘れています。本当に、忘れています。
それでは次はリアクションで会いましょう。
あなたのご参加をお待ちしています! 桂木京介でした!