その名は
木天蓼(またたび)大学。通称、マタ大!
知の大海にそびえる巨大な砦があるとすればまさにここだろう。
いわゆるマンモス校で、文化系なら文学部・経済学部・法学部・商学部に社会学部、理工系なら理工学部・医学部・薬学部、さまざまな学部があるうえに、文理総合の教育学部、音楽も美術も飲みこむ芸術学部、もちろん体育学部もそなえまさに全方向対応、多士済々なる学問の殿堂、あるいは才能のゆりかご、ときに無法地帯として無数の若き野心と才気が入り乱れる青春のるつぼである!
桜も散りにけり卯月某日、
響 タルトはメインキャンパスの一角で立ちつくしていた。
ふあぁぁ――。
圧倒され、声も出ない状態で。
午前中の講義を終えて学食へ向かうつもりだった。だが朝とは大ちがい、その道は戦場と化していたのだ。
一足早く夏が来たかのような熱気ではないか。左右にぎっしりと並ぶは机、旗、さらにポスター、拡声器、満員状態の学生でひしめいている。
無数の腕が伸びる。視線が絡みつく。飛び交う勧誘の声が空気をふるわせる。
「新入生か? おお、いい面構えだ!」
学ランに角刈りの大男が仁王立ちする。腕には『応援団』の腕章が巻かれていた。
「来たれ新人! 応援に青春のすべてを賭けろッ!」
雷鳴みたいな声に仰天して退散すると、その先には銀色のエペマスク(フェンシング防具)が待ち構えていた。
「あなたには騎士の誇りがあるか? いざ、我らのもとへ」
マスクの奥から涼やかな目がタルトを見つめる。西洋剣術部だという。
「ニューヨークに行きたいかァーーッ!?」
拡声器で叫ぶ男たち。『クイズ研究会』のタスキ姿だ。にじり寄ってくるその熱量にタルトは思わず後ずさり、「本当に?」とつい聞いてしまう。
「……たぶん、行けます」
急に小声になったあたりが怪しい。
「お嬢さん、お茶とお菓子に興味は?」
着物姿の先輩がそそとまかり出て雅な笑みを浮かべた。茶道部らしい。
「私たちと淑(しと)やかで奥ゆかしい時間を」と言いかけた彼女の前に突然、
「そこの君、ダンスに興味はない!?」
割り込んできたスパンコール衣装の男がくるりとターンした。ブラジリアンダンス部だという。笑顔がまぶしい。
「異世界は本当にアッタンダー!」
妙に可愛らしい声の出どころは、背の低い少女なのだった。はっとするほどのプラチナブロンドだ。
「寝子島は異世界に通じてるですコトヨ。異世界探検部で冒険の旅に出ましょネ」
彼女の瞳は純粋な好奇心で輝いていた。胸元にはペンダントがわりの羅針盤が下がっている。どうやらガチらしい。
けれども少女は、あっという間に勧誘者の波に呑まれて消えてしまった。
「そこのきみ、ボードゲーム好きか?」
今度は眼鏡の青年が登場した。ぱっと見はイケメンだが、服にトレーディングカードを大量に貼り付けサイコロで作ったネックレスをしているので色々と台無しである。
「舞台の上で生きてみたくないか?」
ドラマティックな声が降ってきた。見ると、黒のマントを翻した男装の麗人が腕を広げている。演劇部だ。
「ここに来たからには、きみももう役者だ。人生は舞台、さあ、一歩を踏み出そう!」
決め顔がキラリと光る。
愛想笑いだけ返してタルトは小走りになった。でも道々、大量の勧誘チラシを押しつけられて両手はもういっぱいだ。
まるで万華鏡みたいな空間……情報が多すぎる!
タルトは大きく息を吸いこんだ。
いったいどこへ入ればいいのか。
いやもちろんサークルや部活に入る義務はない。ひたすら学問をきわめるもよし、バイトに明け暮れるもよし。ほどほどに楽しくほどほどににぎやかな学生生活であったところで、誰もタルトをとがめはしない。
お気に召すままである。何をするにせよ(no matter what to do)。
響タルトの大学生活はまだ、始まったばかりなのだ。
概要
タイトルに『Matter』が入っているのは『マタ(大)』にひっかけています。
というわけで本作は、木天蓼大学生だけを参加対象にしたシナリオとします。
といっても新入生・在学生の区別はありません。OBやOGといった元マタ大生でもOKです(何年かぶりに指導教官を訪問するとか)。
舞台は寝子暦1372年4月とだけ決めていますが、内容は自由です。
場所もマタ大である必要はありません。退屈な講義であくびをかみ殺す、ドキドキしつつサークルに仮入部、未開封段ボールだらけの新居の整理、バイトの面接(定番の飲食店に限らず、大学生なので家庭教師なんてのもあるでしょうね)、死んだ目をしながら就活――などさまざまな場面が想定できそうですね。
参照シナリオについて
これまで進めている物語があり継続をご希望される方は参照シナリオ(2シナリオ以内でお願いします)とその該当ページを教えていただけると大変助かります。
桂木京介が書いた話でも忘れている可能性がマジ高い(自分の書いたものであっても私は毎回読み直してます)のでご協力よろしくお願いいたします。
NPCについて
基本的に制限はありません。NPCはマタ大の学生でなくても大丈夫です。ただ、学内の展開であればアクションにはちょっと工夫が必要かもしれません(学食を食べに来ている、とか)。ただし相手あってのことなので、必ずご希望通りの展開になるとはかぎりません。ご了承下さい。
特定のマスターさんが担当しているNPCであっても、アクションに記していただければ登場できるよう努力します。
NPCとアクションを絡めたい場合、そのNPCとはどういう関係なのか(初対面、親しい友達、交際相手、華々しくデビューするも悪徳マネージャーに騙され金銭をむしり取られ人気低迷する悲劇のバンドメイトなど)を書いておいていただけると助かります。
それでは次はリアクションで会いましょう。あなたのご参加を真剣にお待ちしています!
桂木京介でした!