二月の夜は凛と冷えて、居たたまれなくて。
倉前 七瀬は夜の散歩に出た。
おなじ思い悩むなら、ベッドに横たわっているより、歩いているほうが建設的な気がして。
「そこまでは良かったとですが……」
気づけばあたりは霧に包まれていた。
霧を照らし、規則正しくめぐる光は灯台だろうか。
知らぬうちにエノコロ岬に来てしまっていたのかと訝しむ。
「そんなに歩きましたっけ……おや?」
洒落たガス灯が一つ灯っている。
その下にベンチがあり、十代なかばと思われる黒髪の少年が座っていた。
「ええと……こんばんは」
声をかけると少年は顔をあげた。見覚えはないが、切れ長の目でまっすぐなかんじのする少年だ。
「……お兄さんだれ?」
「なまえ、ですか? 七瀬いいますが……」
咄嗟に下の名前を告げる。
「ナナセ」
少年は口の中で転がすみたいに七瀬の名を呼ぶと、続けて、
「アツシ」
と名乗った。
「ナナセ、ここで何をしてるの」
「何……なんでしょう」
七瀬はぼんやりとあたりを見回した。流れる霧の合間に遠く、巨大な時計塔が見える。それはかの英国の有名なビックベンに似ていて……こんな景色は寝子島にはない。
七瀬は首を傾げて、曖昧に笑う。
「……道に迷ってる、みたいです」
アツシはぷっと噴き出した。
「変なやつ」
「キミは何しとるとですか?」
「オレ? ……オレは……友だちとケンカしてさ。どーすっかな、と思ってるとこ」
「友だち、ですか」
「天才肌なやつなんだよ。やれば何でもできて、皮肉屋で、挙句に金持ち」
「……なんだか誰かに似ているような……」
「えぇ? そんなやつこの世に二人もいるの? そいつの話、聞かせろよ」
アツシはベンチの端に寄ると、自分の隣を叩いて七瀬にそこに座らないかと促した。
七瀬は逡巡した。
自分が誰かの隣に座っていいのだろうかと。
けれどアツシがもう一度、自分の隣を叩いたので、七瀬はおずおずとそこに座った。
「……そうですね、すこしおしゃべりも悪くないとです。どうせひとりで退屈でしたし」
こんにちは。
ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
倉前 七瀬さまのプライベートシナリオとなります。
このシナリオは夢とも現ともつかぬ夜、夢とも現ともつかぬ場所で、
謎の少年アツシと交流するシナリオになります。
アツシ
十代なかば・黒髪・切れ長の瞳の少年
口調はすこし乱暴ぎみだが正義感が強くまっすぐな感じ
将来の夢は「教師」と話します
彼の話す友人像は、なんとなくウォルターに重なります
おそらく一度きりとなる逢瀬。
どうぞごゆるりと交流をお楽しみくださいませ。