「竹取の翁と、いふもの、ありけり……。うーん、現代語訳で読みたいな」
猫鳴館の玄関前で、
奈良橋 博美は古典の教科書を読んでいた。
先生に読んで来るように言われ、どうせなら外の空気を吸いながらと考えた博美は、ここで一人、竹取物語の予習をしているのだ。
「よーっし、おしまい。まあまあおもしろかったかな」
つっかえながらも最後まで読み終わり、博美は満足げに教科書を閉じる。
「まあでも、ほんとに竹から人間が出てきたら面白いよな。当人はさぞかし窮屈だろうけど」
いつしか空には雨雲がかかり、あたりはいつにも増して薄暗くなっている。
「っと、暗いと思ったら、雨降りそうじゃん」
博美は寮に戻り、ほどなくすると、しとしとと雨粒が落ちはじめた。
やがて濡れた地面に姿を現したのは、かわいらしい三角のとんがりだ。
にょき。にょき。にょきにょきにょき――……。
明けて翌日、土曜日の朝。
そこに広がるのは、竹林だった。
「冗談じゃないぞ、なんだこれは」
寮の軒先に立ち、ぶつくさと文句を言うのは、生徒会長の
海原 茂だ。
「竹の成長は早いと聞くが、いくらなんでも早すぎる。超常現象の域だな」
タケノコはちらほら見かけていたものの、まさか一晩で青々とした極太の竹が乱立するとは思わなかった。
元々雑然としていた猫鳴館前に、行く手を阻むように生える竹。
「出入りの邪魔になるし、切るしかないか」
うさんくさげに周囲を見回し、茂は手近な竹にべちっと手をかけた。
「な、うわっ……」
触れたとたんのことだった。茂の身体は縮み、あっという間に竹に吸い込まれてしまったのだ。
「おはようござ……っ、うっわ! 何だ今の!」
絶妙のタイミングでドアを開け、現場を目撃してしまった博美は、目を丸くして驚きの声をあげた。
「うっそだろ、おーい、先輩!」
おそるおそろる竹に近づいてみると、茂を吸い込んだ節の部分が、ぽうっと淡い光を放っている。幻想的な光景だった。
「……夢じゃない。どうしよう、助けを呼ばなきゃ」
博美はバタバタと足音をたて、猫鳴館に駆け込んだ。
「みんな起きろ、大変だ――!」
皆様こんにちは。今回は、竹が本気を出すお話です。
どうやら、神魂の影響でおかしな竹ができてしまったようですね。
竹といえば、竹取物語。
迂闊にもかぐや姫ポジションに収まってしまった生徒会長を、皆さんで助け出してあげてください。
竹に閉じ込められた人には外の物音や会話等が聞こえていますが、中の人の声や姿を外側からとらえることはできません。
ただ、人の入っている箇所が発光しているだけです。
猫鳴館には、オノやカマ、スコップが置いてあります。ご自由にお使いください。
時間がたつにつれ、他にも通りすがりの人間や動物が、うっかり吸い込まれてしまいます。
洋服や軍手ごしでも、触れるとアウト。ただし、ロープや刃物等の道具類はその限りではありません。
正義感あふれるあなた、竹を切って、中の人を救出してあげてください。
うっかりもののあなた、竹に吸い込まれてお姫様気分を味わいましょう。
にくいアイツをこらしめたいあなた、救出を妨害するのもいいですね。
工作好きのあなたは、竹で昔ながらの遊び道具を作るのも楽しそう。
そして、食いしん坊のあなた、食べ頃のタケノコがたくさんあります。
カセットコンロやバーベキューセットを持ち寄って、タケノコごはんなんて素敵ですね。
打ち上げがわりに、みんなでおいしく食べちゃいましょう。
いたずらは大歓迎ですが、もし故意に閉じ込められた人を狙ってオノを振るっちゃうような悪い人には、天罰が下るかもしれません。
あと、足元には生えてきたばかりのタケノコや、掘った穴がたくさんあります。
足場も視界も良くないので、お気をつけて。