2月某日の通学途中。
「若い女の子が、あんな年上の男を捕まえるから苦労をするのよ」
「……えっ?」
ふと聞こえた声に、
稲積 柚春は足を止めた。
振り返れば、白髪頭の女性が二人、犬の散歩をしながら話している。
「恋をするのは一瞬だけど、関係を続けるのはそう簡単じゃないのにね」
「そうそう。孫はまだそれがわからないのよねえ。初恋だもの」
(なんだ、お孫さんのことか。僕は別に、苦労してるなんて思ってない……けど)
こんな話を聞いて、
ウォルター・Bのことを思い浮かべてしまうくらいには、この恋の行き先が……彼の胸の内が気になっている。
と、女性の一人が、空を見上げた。
「そろそろ春になるわね」
「そうねえ。もうすぐ節分だものね」
「こういう時期は、恋人と出かけるといいって言ってやろうかしら。春は始まりにふさわしい季節。過去の厄を落として、未来を見なさいって」
(未来かぁ……)
たとえば数年先。二人はどうなっているのだろう。
わからない。ただ、わからないなりにひとつ気づいたのは、状況が変わるのを待っているだけではだめだということだった。
(いつまでも同じところでぐるぐるしてないで、僕も動かないと)
「……って言っても……厄を落とすってどうするんだろう……」
時間は過ぎて、昼休み。
柚春は英語の準備室で、ウォルターとともに昼食を食べていた。
「今日の昼休みは、ほかの先生はいないよ」と聞いたからである。
思わず口から出た台詞は、午前中にずっと考えていたことだ。
「厄落とし? 厄を落としたいって思うような、大変なことがあったの?」
ウォルターは案じる顔で、柚春を見た。
「ううん、違うよ。あの、たまには節分らしいことでもと思って」
気にかけてくれるのは嬉しいが、心配させるのは本意ではない。
焦って言えば、ウォルターは「なるほどねえ」と呟いた。
「そういえば去年、同僚の先生が、本土の節分祭に行ったって言ってたよ。要は盛大な豆まきだったって笑ってたけど、屋台とかもあって、かなり楽しめたって」
そこで言葉を切ったウォルターを、見つめる柚春は満面の笑みだ。
唇から飛び出る言葉はもちろん。
「行ってみたい! 一緒に行こうよ、ワット!」
「……そう来ると思った。わかったよ」
ウォルターは微笑み、カレンダーに目を向けた。
予定を確認する横顔を、柚春はじっと見つめる。
これまで感じていた不安が「一緒に節分祭」という単語で、一気に消えてしまった。
(恋愛ってすごいなあ……)
無意識に、ふふふと笑みが漏れる。
突然笑い出した柚春を、ウォルターは不思議そうに、しかし楽しそうに、見やった。
ただ、疑問は残る。
「でも急になんで厄落としなんて言いだしたんだろうねぇ。厄年でもないのに」
放課後、ウォルターは、職員室でふと呟いた。
その横にやって来たのが、
桜井 ラッセルである。
「先生、厄落としに行くんですか?」
クラスの全員分、回収したプリントを持って、ラッセルはそこに立っていた。
「うん、本土の節分祭に行こうかなと思ってるんだけどねえ」
振り返り、プリントを受け取ったウォルターが呟く。
「なるほど、節分祭……」
(……俺も晴月誘って……いやでもあいつ、島から出たことないんだよなあ)
担任の前と言うことも忘れ、ラッセルは「うーん」とうなった。
思い出しているのは、昨日のこと。
犬を散歩していたおじいさんの言葉だった。
「住む世界が違う女を好きになるから、大変なんだろうに」
「……ん?」
ふと聞こえた声に、ラッセルは思わず足を止めた。
振り返れば、白髪頭の男性が二人、犬の散歩をしながら話している。
「違うところがあるから惹かれるのはわかる。だが共通項が少ない相手は、将来を想像しにくい」
「そうだよな。孫はまだそれがわからないんだろう。若いからな」
(なんだ、孫の話か。それにしても……)
ラッセルは嘆息した。
こんな話を聞いて、晴月のことを思い浮かべてしまうくらいには、今後のことが気になっている。
と、男性の一人が、空を見上げた。
「そろそろ春だなあ」
「そうさなあ。もうすぐ節分だ」
「こういう時期は、恋人と出かけるように言ってやろうかな。春は始まりにふさわしい季節。過去の厄を落として、未来を見ろってな」
(未来ねぇ……)
たとえば数年先。二人はどうなっているのだろう。
大学へ進むだろうラッセルに対し、晴月は。
(一緒にいる……のかな)
「節分祭に興味があるのかい?」
ウォルターに聞かれ、ラッセルはぱちりと目を瞬いた。
「えっと、興味はあるけど、あの、行くかは……。誘ったら、どうかな……」
ウォルターは別に、誰かを誘うのかとは聞いていない。
が、晴月のことを考えていたラッセルは、つい、そう口走っていた。
「来てくれるんじゃない? 商店街で一緒に着物を来た、あの子だよねぇ?」
「うぁっ、そうなんですけど、島から離れたことない子だし……もちろん来てほしいけど」
普段の快活さはどこへやら、ラッセルはもごもごと呟いた。
その頬は赤く染まっていたが、それにも、ウォルターが「おやおや」と微笑んだことにも気づかない。
(こういうとき、稲積なら『一緒に行こうよ』って誘いそうだなあ)
動揺するラッセルの姿に、ウォルターはふっと息を吐いた。
もともと節分祭は、ウォルターと柚春と、二人で行く予定ではあった。
だが柚春は「二人じゃなきゃ嫌だ」と、友人を排除するようなことはしないだろう。
そしてウォルターは、そんな柚春の温かさを、好ましく感じている。
ゆえに、こう言った。
「それなら一緒に行こうか。みんなで」
「みんな?」
「うん。僕と、桜井と、僕を誘った人と、君が誘いたい子と」
きっと桜井は察しているだろうなあと思いつつ、あえて誰とは言わずに提案する。
と、ラッセルはぱっと顔を上げた。
「そうしてもらえたら嬉しいです。稲積なら晴月も会ったことあるから、楽しめると思うし」
そう言った直後。
ラッセルは「あっ」という表情をした。
ウォルターが苦笑する。
「うん……まあ……秘密にしてよ?」
「もちろんです」
ラッセルは真顔で頷いた。
そして、少し考えた後、こう告げる。
「あの……みんなで行くなら、友達もいいですか。本土に住んでるんですけど、勉強根詰めてて大変そうだから、気晴らしに」
「……ということなんだよ。お前も来るだろ?」
「行く行く! 絶対行くよ!」
電話でラッセルが誘うと、海道千里は機嫌よく答えた。
「でもそっかあ、これでついに二人は恋人同士になるわけだ」
おそらくにやにやとからかっているのだろう千里の表情が頭に浮かぶよう。
ラッセルは「そんなんじゃねえし!」と、真っ赤な顔で声を上げた。
「っていうか、晴月に余計なこと言うなよ? 絶対だぞ!」
見えぬ相手を睨む勢いで言えば、千里は「ははは」と高らかに笑う。
「女の子に失礼なことはしないよ。お前のことはからかうけどな!」
晴月には「島の外で大きなお祭りがあるから一緒に行かないか」と声をかけた。
「島の外に出ると飛べなくなって、人間みたくなるっていうのは覚えてる。晴月が不便って言ってたことも。だから、無理にとは言わないけど」
本当なら、無理でも来てほしい。だが、言わなかった。
晴月には、いつでも自由であってほしいという思いもあるからだ。
しかし晴月は、迷うことなく「行く!」とうなずいてくれた。
「いいのか?」
「いいよ。ラッセルが行くなら、私も行く」
--もしかしたら、晴月も、なにか思うところがあるのかもしれない。
ふとそう考えたけれど。
(……どうだろうなあ)
今日も映画館に行ったのと、にこにこ笑う晴月に思う。
ただ「ラッセルが行くなら」と言ってくれたことは、心の底から嬉しかった。
「そっかあ。桜井先輩と晴月さんも来るんだ。えっ、先輩の友達も? どんな人なんだろう。ふふ、コミュ力おばけって書いてある。先輩がワットにそう説明したんだろうな」
夜、ウォルターから届いたメッセージに、柚春は唇をほころばせた。
「二人で行きたかった気もするけど、お祭りだもの。みんな一緒も楽しいよね」
言いながら、いつだったか、商店街で一緒に着物と来たときのことを思い出す。
「あのとき、晴月さん、桜井先輩が選んだ着物すごく似合ってたなあ。あと和装のワットもかっこよくて……」
晴月は、着物姿の柚春を「キレイ」と言ってくれた。
そしてウォルターは「デート」という言葉をはぐらかしはしたけど、文香の香りにしっかり気づいてくれた……。
そこで、ふと、柚春は気づいた。
「節分祭なら着物もあり……だよね?」
さっそくワットに相談だ! とばかり、すぐさまメッセージを送る。
――その返信を待つ間。
柚春はいつのまにか、眠っていたようだった。
その夢に現れたのは、和装のウォルター……ではなく、カプギアのвор。
「オレも行く」
カプギア姿から、緑林 透破の姿に身を変えて、彼ははっきりそう言った。
「えっ?」
突然の断定に、柚春はきょとんと透破を見つめる。
と、彼はふんと鼻を鳴らして、遠い所に目を向けた。
「この島を出るんだろ? あの男だけじゃ心配だ」
どうやら、あの男――ウォルターを見ているつもりであるらしい。
「別に、島の外だからって、なにかあるとは思わないけど」
「ないかもしれない。でも、あるかもしれない」
透破は真剣だ。
柚春は苦笑し「わかったよ」と告げた。
「じゃあ一緒に行こうか、君も」
そして訪れた当日。
一行は島外の節分祭へ向かった……のだが。
「すごい人だね……あれ? 桜井先輩? 晴月さん? 海道さんもどこに行ったの? って、ワットもいないし! もしかして僕だけはぐれた?」
「稲積たちとはぐれたか~。こういうときの待ち合わせは、社務所の近くにあるでっかい木のとこって決めてたよな。行こうぜ……って、千里、晴月は? どこ行った?」
人ごみの中、ひとり走り出す柚春。
千里と二人、晴月を探すラッセル。
そして柚春は、見知らぬ女性にナンパされているウォルターを見つけ……。
ラッセルは、見知らぬ男性を不思議そうに見上げる晴月を見つけたのだった。
こんにちは、瀬田です。
今回は、節分祭のお話です。
シナリオ概要
みんなで楽しく節分祭! のはずが、はぐれてしまったウォルター先生と晴月は、モブ女性・モブ男性にナンパされているようです。
着物姿のウォルター先生はかっこよく、晴月はかわいいから仕方ない……とは言えませんね。
柚春さんとラッセルさんは、どうされるのでしょう?
千里さんと透破さんは?
もしかしたら、一人になってしまった柚春さんを狙うモブや、ラッセルさんと千里さんという素敵コンビが気になるモブもいるかもしれません。
はたまた、モブから逃げるウォルター先生や晴月と、追いかけっこ状態になるかもしれません。
アクションに応じて、今後の展開は変わります。
節分祭はこんな感じです
本土の大きな神社で行われています。規模は鶴岡八幡宮の節分祭くらいです。
大きな舞台の上から、参拝者にむけた豆まきをしています
小さな袋に入った福豆をまいています。そのなかに稀に入っているピンクの豆は、食べると幸福を招くと言われています。
おみくじが引けます
番号の札を引いて、該当のおみくじを出してもらうタイプです。
知りたいことを念じながら引いたら、答えがわかるかもしれません。
食べ物の屋台の出店が数多くあります
お好みのものをご記載ください。
【人気商品】
・串にささったお団子にあまーい蜜がかかった『とろみつだんご』
・おだしが美味しい!大きな海老天が2匹のった『えびえびそば』
・山菜がいっぱい入ったほこほこもちもちの『やまのおやき』
恵方巻もあります
太巻きと細巻きがあります。
中身は、穴子、えび、かんぴょう、しいたけ、きゅうり、だし巻き卵、桜でんぶです。
温かいお茶とともにお楽しみください。
近くに不思議な湖があります
神社とは関係のない観光地ですが、一番星の光る頃に二人並んで顔を写すと、一緒に過ごした未来の姿が見えると言われています。
晴月と透破さんは、特別な力は失って、人間のようになっています。
そこだけ気をつけていただければ、あとのアクションは自由です。
どうぞ文字数いっぱいお書きください。
なお、透破さんはカプギア姿でも、人の姿でも描写できます。
どちらがいいか、ご記載くださいませ。
また、参考のために過去のシナリオをご提示くださる場合は、ページ数まで含めてご記載願います。