福井 真美は、深い深い溜息を吐き出すと、低い声音で言った。
「お姉ちゃん、いい加減にして」
「だって、心配なんだもの」
姉の直美はそれへ言って、続ける。
「あんたのドジに、周りの人たちが巻き込まれてないかって」
「たしかに私、ドジだけど、周囲に迷惑かけるほどじゃないってば」
顔をしかめて言い返す真美に、直美は軽く顔を引きつらせた。
「いやいやいや。それは、あんたが自覚がないだけよ」
ぶんぶんと大きく頭を左右に降って、直美は言い募る。
「学校でだって、あんたがたまたま落とした物が当たって、友達が怪我しそうになったことがあるでしょ。他にも、下校途中に猫の尻尾を踏んづけたら、あんたじゃなく通りすがりの人が驚いた猫に引っかかれたこともあったわ。私は、そういうことがあったらどうしようって、すごく心配なの」
「だ~か~ら、そんなことないって、言ってるでしょ!」
叫ぶと真美は、ぐいぐいと強引に姉の体を部屋の外へと押し出した。
ここは、二人が両親と共に暮らす自宅である。
真美は、寝子島高校の1年生だ。
高校に入学したら、バイトをしたいと考えていた彼女は、一月前からコンビニで働き始めた。
バイト先は、彼女たち姉妹が通う寝子島高校の近くにあるネコンビだ。
自分では、バイトにも多少は慣れて来て、それほど失敗もしていないと思っている。
にも関わらず。
姉の直美は、毎日この調子なのだ。
真美自身も、たしかに自分がドジっ子だという自覚はある。
姉がさっき言っていたことも、本当だ。
いや、もしかしたら、他にもいろいろあるかもしれない。
けどそれは、たまたまだ。
たまたま自分が落とした物が友人に当たったり、自分が尻尾を踏んづけた猫が近くを歩いていた人を引っ掻いたりしてしまっただけだ。
少なくともこの1ヶ月、バイト先ではそういうことは起こっていない。
「ったくもう。お姉ちゃんったら、心配しすぎ!」
ドアを閉めて吐息をつくと、真美は呟き、頬をふくらませた。
+ + +
ある日の放課後。
串田 美弥子は、クラスメートの福井 直美から声をかけられた。
「美弥子、悪いんだけど明日、ちょっとつきあってくれない?」
明日は土曜日で、学校は休みだ。
「いいけど、何?」
特に用事はなかったので、美弥子はうなずいて尋ねる。
「あー、その……買い物に行きたくて……」
ごにょごにょと言いかけ、直美は軽く教室の天井をふり仰ぐと、改めて言葉を継いだ。
「実は最近、妹がネコンビでバイトを始めたんだけど……あの子、ドジな上に、そのドジに他人を巻き込んじゃう体質で……心配なのよ」
直美が言うには、彼女の妹・真美のドジは、少しばかり困った性質があるのだそうだ。
ころんだ拍子に藪に突っ込み、当人は怪我一つなかったのに、たまたまそこにいた無関係の人が藪から出て来た蜂に追いかけられたり、彼女が落としたソフトクリームを踏んだ通行人がころんだり……といった具合に、周りを巻き込んでしまうのだ。
「……それで、買い物がてら様子を見に行きたいのよ。もし何かあったら、人が巻き込まれる前に止めたいし。だから、一緒に来てほしいの」
「なるほどね。わかったわ」
彼女の言葉に、美弥子はうなずいた。
たしかに何かあった時、事態を収拾するなら一人より二人の方がいいだろう。
「つきあってくれるの?」
「ええ、いいわよ」
ホッとしたように問い返す直美に、美弥子は再度うなずく。
「えっと、じゃあ、妹さんがバイトしてる時間帯に行かないと、ダメよね」
「土日は、学校が休みだからって、朝からシフトに入っていて、終わるのは夕方だって言ってたわ」
美弥子の言葉に、直美が言った。
「なら、明日の午後からでも大丈夫そうね。どこで、待ち合わせする?」
うなずいて、美弥子が再度問うた。
「校門前でどう? 私の家って、この近くだし」
直美が言った。美弥子は、桜花寮住まいだ。そして、ネコンビは、寝子島高校の近くにある。
「わかったわ。じゃあ、それで」
そんなわけで、明日の午後、二人は寝子島高校の校門前で待ち合わせして、ネコンビへ真美の様子を見に行くことになったのだった。
こんにちわ。
はじめまして。あるいはお久しぶりです。
マスターの織人文です。
さて、今回のシナリオは、自覚なく自分のドジに周囲を巻き込む少女と、その姉のお話です。
今までは、たまたまバイト先では、巻き込みは起こっていないようですが――。
PCさまには、真美のドジに周囲が巻き込まれるのを阻止していただきます。
アクションには、以下から一つ選んで、番号とそれに対する行動をお書き下さい。
1)真美が品出し中の缶コーヒーを、落としそうになる。
2)真美が商品棚にぶつかり、棚が激しく揺れている。
3)真美がカゴを整理していて、ころびそうになる。
ただし、判定によっては阻止に失敗し、PCさまが真美のドジに巻き込まれる形になる場合もあるかもしれません。
もちろん、このミッションには関係なく、ネコンビでの買い物を楽しんだり、バイトや通行人として参加されても問題ありません。
美弥子と直美に同行して、ただ成り行きを楽しんだり、NPCたちに絡んだりしていただくのも大丈夫です。
基本的に、行動は自由です。
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◆ネコンビ◆
寝子高の近くにあるコンビニ。
食べ物、飲み物、日用雑貨など、一通りのものは扱っている。
店内に飲食スペースあり。
詳しくは、コミュニティ・コンビニエンスストア『ネコンビ』を参照下さい。
◆NPC◆
福井 直美
寝子高3年6組・芸術科。
串田 美弥子のクラスメート。家は学校近くにあり、そこから通っている。
福井 真美
寝子高1年6組・芸術科。
直美の妹。1ヶ月前からネコンビでバイトを始めた。
自分のドジに周囲を巻き込んでしまう体質。
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以上、みなさまのご参加、心よりお待ちしています。