シーサイドタウン。
再開発によって整備されたこの街は、昼夜を問わず大いに賑わいを見せている。ゲームセンターや水族館など、夜がふけっても遊ぶところが多くあるので若者の賑々しい声が絶えることはない。寝る間を惜しんで深夜を遊び倒す者もいれば、いそいそとアルバイトに励む者もいる。
しかし、そんな若者人気が、ここ最近はどうも裏目に出てしまっているようで。
「またか!! バカタコどもがっ!!」
職員室にて、熊吉先生の怒鳴り声が轟く。苛立ちの気配と、飛び散る唾液。だが、他の教員はいつもの事とさして表情を変えなかった。
それでも、その原因は全員が知っている。彼の怒りの根は、シーサイドタウンに住む近隣住民からの通告によるものだった。「寝子高の生徒が夜遅くまでうろついてたり騒いだりしている」という情報が、寝子島高校の生活指導担当、
吉田 熊吉先生の耳に入ってしまったのだ。
こうなっては、生徒にとって不幸だろう。聞いてしまった以上、この男が聞くだけに留まる筈はない。
「こうなったら、抜き打ちで見回りをして、片っ端からお仕置きしてやろうじゃねえか!」
吠えるようにそう言って、熊吉先生は鼻息荒く立ち上がる。このような素行の乱れなど言語道断。不運にも今現在シーサイドタウンにいる生徒に対し、天罰を下すべく闘志を燃やしているのは明白だった。
そんな熊吉先生の小太りの背を、こっそり扉の隙間から覗き見る瞳があった。
「……わわっ、なんだか大変なことになってるよお」
熊吉先生の意気込みを、職員室の入り口近くの廊下で偶然聞いてしまった
野々 ののこが唖然と口を丸くしていた。
このまま見て見ぬふりが出来る状況ではなかろう。熊吉先生が怒りのままに暴れまわり、それで被害を被るのはシーサイドタウンにいる寝子高生たちだ。
「夜にバイトとかしてる人もいるし、みんなに教えたほうがいいよね!」
そう言うと、ののこはいそいそと自分の教室へ走って戻っていった。
そして、その日の夜。
熊吉先生は、ネオン瞬くおしゃれな街にはいまひとつ似合わないジャージ姿のまま、シーサイドタウン駅周辺に君臨した。
「待ってろよ、バカタコどもめっ!!」
お気に入りの罵り文句でそう意気込む熊吉先生は、さっそく夜遅くまで活動している生徒を鬼のような目つきで模索し始める。しかと見つければ、その次の瞬間には大声を張り上げる用意はできていた。生徒にとってこれは窮地だ。言い訳を用意している者も、そうでない者も関係ない。大きな体と目立つ服装で、遠目からでもその襲来を容易に感知できそうなのが唯一の救いだろう。
夜のシーサイドタウンでバイトをしている者。たまたま今夜ここで遊んでいた者。ちょっと悩み事があって夜の街をさまよっていた者。ののこから事情を聞いたり噂を聞いたりして、友達にこの危機を教えにきた者。
かくして、生徒と熊吉先生との一夜限りの戦いが幕を開ける……。
初めまして、本シナリオを担当させて頂くtsuyosiと申します。今回は、シーサイドタウンの夜を過ごしていた寝子高生たちの不意を衝くように現れた熊吉先生、その人との追走劇になります。
・舞台は、夜22時以降のシーサイドタウンです。夜のとばりが下りて賑々しい街の中、各々の時を過ごす生徒たちの元へ、怒り爆発の熊吉先生が練り歩いてきます。
・熊吉先生はかなり興奮状態にあります。見つかれば、第一声に「このバカタコっ!!!」などと吠えられ、張り手を喰らうことは間違いないでしょう。無事回避できるに越したことはありませんが、不運にも相対してしまった場合は対応に気を配る必要があるかと思われます。
・見つかった後に逃げれば追われます。万が一捕まればさらにひどい折檻が待っていると思われます。
・単純な言い訳は逆効果と思われます。ですが、きわめて倫理的で冷静な説明を成せば、熊吉先生を黙らせることが出来るやもしれません。
※らっかみ!はフィクションです。高校教師が学校外で指導したり、時に張り手を放ったりするかもですが、どうぞ気になさらずに気軽なお心持ちでお楽しみください。