早川 珪。29歳。男性。
寝子島高校2年4組担任。司書教諭。
家族関係不明。友人関係不明。彼女ナシ。
プライベート──謎多し。
協調性はあります。好ましい笑顔で誰にでも穏やかに接し、生徒たちにもウケが良く、仕事はマジメで同僚との付き合いも良好。絵に描いたような好人物です。
けれど分からないのです。コミュ力おばけの
相原 まゆ先生も「え、知らない」と言ってますし、
黒崎 俊介教頭も「そういえば聞いたことないね」と首を傾げています。
野々 ととお理事長なんか、「え、ホストじゃないの? え、違う? なーんだ、僕ぁてっきり。へえ~」てなものです。
趣味は? 好きな食べ物は? 休日なにしてんの?
なぜだか、知られていないようなのです。珪先生のプライベートを、誰も知らないらしいのです。
「……いや、別に隠してたわけじゃないんだけどね。そういう話をする機会がなかっただけで。僕、そんなふうに言われてるのかい?」
「謎が多いって。ミステリアスなところがイイ、って人もいますけど」
図書室にて。となり合って図書委員のお仕事中、ずいと顔を寄せて尋ねてみた
綾辻 綾花も、そこはちょっとだけ、同意です。ミステリアスな珪先生も、イイもんだ。
けれど綾花は、知りたいのです。
知りたい! 好きな人のことです。なんでも知りたい!
「それで、どうなんですか?」
「どうって?」
「その。ほら。聞いてもいいのかな? 珪先生の、プライベート……」
「う~ん。そうだね」
書類仕事の手を止めて、珪先生はなんだか考え込んでしまいました。
あれれ。聞いちゃいけなかったかな? 聞いちゃまずいことだったのかな……?
なんてちょっぴり、綾花が心配しておりますと。
「綾辻さんなら、まあいいかなあ……」
「? 私なら?」
「今度、いっしょに来るかい?」
旧市街に、こんな場所があったとは。
参道商店街の外れも外れ。ある休日に、珪先生が綾花を連れて来たのは、今にも崩れ落ちそうに古めかしい書店です。
表の看板だけはやけに真新しく、黒地の金縁に、かっちりとした書体で
『OLD LYNX』と書かれていました。
「あれ。珍しいッスね?」
カウンターの向こうから、眼鏡の奥で睨むように目を細めた女性が、別段不機嫌なわけではないと綾花が知ったのは、少し後のこと。少なくともその時は、思わず身をすくめて珪先生の背中に隠れてしまいました。
「珪さんが女連れとはね。それもこんな、おっぱいのおっきな子だよ」
「えっ。あの……」
「セクハラはやめてくれよ、つるぎちゃん……僕の生徒なんだから」
珪先生がつるぎと呼んだ書店員は、先生と同じくらいの年代に見えました。狭い店内で縮こまるように肩を小さくして、読みかけの分厚いハードカバーで半ば顔を隠しながら、じろりと無遠慮に綾花を眺めています。
おしゃれで小奇麗な濃紺のワンピースの上に、糸がほつれまくった縞模様のドテラを羽織っています。いまいちやぼったい眼鏡をとりかえて、きつい目つきをぱっちりとさせて、ぼさぼさの長髪を整えたらきっとすごく美人なのに、もったいないな。と綾花はどこへ向けたらいいか分からない目を泳がせつつ、とりとめもなく思いました。
「店長代理の、
馳(はせ) つるぎさんだよ。綾辻さん」
「今は店長ッスよ、店長。表の看板見たでしょ? あれ、わたしの力作ッス」
「ああ、そうだったね。彼女、こう見えてすごく本に詳しいから、なにか探してるものがあったら聞いてみるといいよ」
「そういう時、『こう見えて』は余計ッスよ珪さん。相変わらずッスねえ。まあよろしく」
「よ、よろしくお願いします……」
綾花の知らない、珪先生と親しいらしい女性の登場に、綾花の胸はちくりと痛みます。
今だって、
「ところでつるぎちゃん。ほら、例の本……今回は出てないかな? 忙しくて、下見会には来られなくてね」
「さあ、わたしは聞いてないッスね。親父に聞いてみたらどうッスか? たぶんもう始まってますけど」
「そうか。まあ、気長に探すしかないかな……」
なんて綾花に分からない話をして、やけに親しそうなのです。ずいぶん……そう、綾花が彼を知るよりも、もっと古い知り合いのようなのです。
「じゃ、行こうか綾辻さん」
「あ、はい。えっと、どこへ? ですか?」
珪先生は店の奥を示して、先に立って歩き始めます。
ふと。すれちがいざま、店長さんは綾花の肩をとん、と指でつき、ぼそりと言いました。
「たのしんで」
どうにも険しい目つきを、ほんの少しだけ、ひょいとやわらげて。
案内されたのは、古書店『OLD LYNX』の地下。
にわかに伝わる喧噪と熱気を感じながら、階下の扉を開いてみると。
「……うわあ、ほ、本がたくさん! 人もたくさん……!」
薄暗く、奥まった地下の空間に、ヒミツの書庫はありました。
かすかなホコリのにおいに、古書に特有のすえたようなにおい。壁一面にずらりとならぶ棚に収められた本、本、本の山!
地下室の最奥では、初老の男性が木槌を持ち、ぽそりぽそり、いささか通りにくい声でなにかをしゃべっています。
並べられたパイプイスに腰かけて、時おり声を上げたり手を掲げたり、指で妙なサインを作ったりしているのは、おおむね年配の男女です。
「ではこちらの品は山川さんの旦那が一万五千円で落札となりました。楽しんでね。続いては日本三大奇書と名高い、亀野 級作著『ドグニャ・マグニャ』の初版本。保存状態も良く美品ですよ。それでは一万円からの入札となります。はいさっそくそちらのご婦人が一万千円、はいそちらは一万二千円のご入札、おやあちらは一万三千円、一万四千円……」
綾花にも、そこでなにが行われているのか、分かってきました。
「これは……オークションですね?」
「そう、古書オークション。綾辻さんなら、楽しめるかなって思って」
はっとして見上げると、彼はなんだか少年のようにはにかんで、照れくさそうに言ったのでした。
「これが謎に満ちた先生の、プライベートな趣味ってわけ
──なんてね」
墨谷幽です。
大変お待たせいたしました! プライベートシナリオにて、ご指名いただきましてありがとうございます!
こちらは綾辻 綾花さんと早川 珪先生のエピソードを描くお話となっております。
ガイドやマスコメのイメージはソコソコに、自由にお楽しみいただけましたら幸いです~。
このシナリオの概要
早川 珪先生のプライベートに同行するお話です。
古書オークションはあくまで選択肢のひとつですので、その他の行動でもぜんぜん構いません。
やりたいことを存分に、ご自由にどうぞ!
<古書店『OLD LYNX』について>
旧市街の外れ、参道商店街の端っこにある古本屋さん。
早川先生も御用達のお店です。
もともとは『ハセ書房』という名前でしたが、最近店長が代わり、
店名や店内レイアウトなどが変更されたようです。
地下の書庫にて、定期的に古書オークションが開かれています。
寝子島では知る人ぞ知るというくらいですが、全国から古書ファンが集まり、
貴重な本のやりとりが行われる穴場となっているのだとか?
<古書オークションについて>
古今東西の古い本が出品されるオークション。
といっても堅苦しいものではなく、誰でも参加歓迎の大らかな催しです。
ガイドでは高額な本も取引されていますが、もっとお手頃で手を出しやすい本もあります。
気になるもの、読んでみたい本、探していた本などあれば、入札してみるのも良いでしょう。
<その他の行動について>
早川先生は、『OLD LYNX』に限らず、寝子島の本屋巡りをして、
購入した本を持ってカフェに趣き、コーヒーやスイーツをいただきながら、
ゆったり耽読するのが楽しみなのだそうです。
お気に入りのお店など教えてあげれば、喜んでもらえるかも?
ガイドでは時間帯などは特に提示しません。
いくつかのシーンを想定してご指定いただけましたら。
上記のシーンはもちろん、あるいはほかに描きたいシチュエーションがあれば、
自由にご指定ください。もちろんおまかせもOK。
おふたりにとって、どんな一日となるでしょうか?
ちなみに。
このお話の展開によっては、早川先生が「学生時代はモテたらしいがなぜか誰とも付き合わなかった」
の真相に近づいたり、そのとっかかりをつかんだり……なんてこともある、かも?
NPCについて
★早川 珪
寝子高司書教諭。
どうやらそのプライベートも本づくしな様子。
書店めぐりやオークションを通じて、探している本があるらしい? です。
★馳 つるぎ
古書店『OLD LYNX』の店長。
早川先生の学生時代の後輩っぽい? です。
なお古書オークションを仕切っているのは、彼女の父親(元店長)とのこと。
その他、もし必要でしたら、上記以外のNPCも登場可能です。
登録済みのキャラクターなら誰でも、または墨谷のシナリオに登場したNPCでしたら、
登録・未登録問わず登場OKです。
以上になります。
それでは、アクションをお待ちしております~!