動き出すまではわからないことがある。
たとえば電池切れで止まっている壁時計だ。壁からはずして電池を交換するまでは、秒針がカチコチ音を立てるかどうかわからない。無音ですべるように秒針が進む時計かもしれないし、一秒ごとにタイプライターなみの音を立てる時計かもしれない。ことによっては秒針が反時計回りに威勢よく、ぐんぐん高速回転しはじめるかもしれないではないか。
動き出すまでわからない。考えてみれば当たり前だが見落としがちなこの真実は、
梓 智依子にとっての高校生活にもあてはまった。
四月、緊張のおももちで智依子は寝子島高校の門をくぐった。
新入生として。十五ではなく十九歳の、しかも未婚ながら一児の母の。
みずからの素性は入学式後の初顔合わせの場で明かした。三年遅れで入学したことはもちろん、四歳の娘を育てているということもすべて。
自己紹介を終えたとき智依子は想像した。
周囲の生徒が蜘蛛の子を散らすように逃げていく場面を。
あるいはそこまで露骨ではなくても、自分を中心とした半径五十センチの見えない壁がせりあがっていくところを。
ところがあに図らんや同級生たちの反応は好意的だった。まだ中学生に見える
青木 慎之介は「格好いい!」と彼言うところのリスペクトを示し、放課後まもなく数人の女子生徒も話しかけてきたのである。それも珍獣ないし謎の転校生を取りかこむ態度ではなく、たんに友達になろうとして。
寝子島高校という選択がよかったのかもしれない。多種多様が当たり前で、画一的という言葉とは無縁のこの学校環境だ。大半の生徒にとって智依子の境遇は、個性のひとつくらいのテイストとして認識されたようだ。怖がられもしないし気の毒がられたりもしない。いくらか人生経験の長い同級生、それが一年二組における智依子の受け入れられかただった。夏の夜の読書会にも誘われたし、理事長邸でのテスト勉強会にも呼ばれた。
かくて飛ぶように三か月少々がすぎ、もう智依子は高校生活初の夏休みを迎えようとしている。
智依子の壁時計は進んでいる。
電池を入れるだけでよかったのだ。いまは壁に戻って正確で着実に時を刻んでいるのだから。
世に言うではないか。
明日はきっと風の中、やってみなければわからないと。
梓 智依子様、プレゼントシナリオの当選、おめでとうございます!
長らくお待たせしました。桂木京介です。ご指名ありがとうございます。とても光栄に思っています。
アクションをお待ち申し上げております。
概要と状況
リクエスト通り日常シナリオとしました。
夏休み前、あるいは夏休みに入った直後の寝子島、ある一日のある場面を描きます。
寝子島の雨の時期は去りいよいよ猛暑到来がスタンバイ状態のようですが、幸いここ数日はそこまで暑くはなく、すごしやすい状態がつづいています。
NPCについて
あらゆるNPCは本作に登場可能です。
特定のマスターさんが担当している非公式NPCの場合ちょっと調整が必要ですが、アクションに記していただければ登場できるよう頑張ります。
NPCとアクションを絡めたい場合、そのNPCとはどういう関係なのか(初対面、親しい友達、ライバル同士、銀河系の旅人たちなど。参考シナリオがある場合はページ数も)を書いておいていただけると助かります。
また、必ずご希望通りの展開になるとは限りません。ご了承下さい。
それでは次はリアクションで会いましょう。
桂木京介でした!