エアコンの吹き出し口から吹き寄せられる冷たい風を汗ばんだ額に感じながら、電子音とともに通帳入出口から吐き出された銀行通帳を手に取る。記帳された数字にしばらく視線を落として後、ボディバッグに仕舞う。
背後で待つひとの気配に気づき、内心で少しばかり焦りながら踵を返す。小さく会釈して場所を譲り、幾つもの銀行ATMが並ぶ駅前の一角を離れる。
外に出た途端、蝉の鳴き声と眩しい光が押し寄せた。
梅雨明けと同時に強烈さを増した太陽をかざした掌の下から仰ぎ見て、
神代 千早は眼鏡越しの鳶色の瞳を細める。冬の頃にはこの時間帯ならば夕の鴇色に染まっていた空も、初夏の頃となればまだまだ明るい。
ボディバッグのベルトの位置を直しつつ、僅かに引き結んだ口元に指をあてる。考えるのは、通帳に記載された数字のこと。
「やっぱり、アルバイトとか……」
ぽつり、内心が唇から零れた。
親が毎月きちんと預けてくれるお金には、学費はもちろん食費や光熱水費などの生活費も含まれている。春の初めに小さな友人と探し巡って見つけた訳あり賃貸物件の破格さもあって、切り詰めれば多少の貯金も出来なくはない。けれど、それはなんだか違う気がする。
自分の目的のために使うお金も。
将来この島に住むための資金も。
それには自分自身で稼いだお金を用立てたかった。
「探すか……」
蝉の声に追い立てられるように、夏休みを前にしてはしゃぐ学生たちの騒がしさから逃げるように、シーサイドタウン駅を後にする。
(……アルバイトか……)
考えれば考えるほど、腹の底がずしりと重たくなってくる。
元より、ひとと話すことすら苦手だった。
誰かと向き合っていても、たくさんの誰かの中に混ざり込んでいても、何を話せばいいのか、どう話せば伝わるのか分からぬまま黙してばかりだった。大学に通うようになっても、それは変わらぬまま。無口で無愛想、地味、基本的に空気。他人が己に向ける評価はよく知っている。それはそれで仕方がないと思っている。
けれどそんな自分にできる仕事などあるのだろうか。
思案しながら歩く視界に映るのは、コンビニや喫茶店の窓に貼られた『バイト募集』の紙。
(アルバイト……)
不安だらけではある。けれどいつまでも頼りっぱなしではいられないのも理解している。
とにかくも紙媒体なり電子媒体なりで求人を探すところから始めようという結論に落ち着きかけた道すがら、
「お、今晩は」
脇道から出て来た黒髪の男とはちあわせた。
僅かに傾きかけた太陽の下、男はひらりと手を振る。
「今晩は」
もうしばらく道を辿ったところに家があるご近所さんの
古家 日暮に反射的に会釈して、なんとなし並んで歩き始める。猫鳴館からシーサイドタウンの元家具工場だった貸家に引っ越してきた春の頃から、古家家の人々とはよくよく顔を合わせている。
「この間はごちそうさまでした」
特に古家家のふたりの少女、夕とこんはやれ煮物を作りすぎたお米を炊きすぎたと言っては容器に詰めて持ってきたり、中に色んな具を隠した大きなお握りを持ってきたり。
「なんもなんも。あの子らの好きでやっとることやよって。こっちこそいつもおおきに」
せや、と日暮は気づかわしげなまなざしを向けて来た。
「七夕の日はほんまお疲れさんでした」
「……いえ」
「お互い難儀やったなあ」
ふわふわとした訛の混ざる言葉を耳にしながら、どうやら仕事帰りらしいご近所さんを見遣る。そういえば、彼には最初からあまり苦手意識を感じなかった。
(どんな仕事をしているのだろう?)
七夕の日は猫で溢れるねこ温泉郷で猫に奉仕する仕事をしていたけれど、今日は温泉郷の仕事ではなかったらしい。
迷惑でなければ聞いてみたいものの、さてどうやって切り出したものかと悩みかけたところで、
「ところで千早、バイトなと興味ない?」
日暮がふと口にした。
「短期でも長期でも、なんやったら日雇いでもかまへんねやけど、……うちで飯なと一緒に食いながらちょっと話だけでも聞いていかへん?」
こんにちは。
神代さん、プライベートシナリオのご用命ありがとうございます。
ということで今回は、アルバイト探し編と参りましょうー!
まずまず、ご近所さんをおもてなししたくてたまらない古家家で夕ご飯もしくはおやつを食べながら日暮のアルバイト情報色々を聞いてみたり、気が向けばこんや珠(あと古家家に上がり込んでいたユニ)と遊んでみたりとかいかがでしょうか。
お時間があるようでしたら、バイト先の下見とかも可能です。
あとたぶんユニは神代さんちにお泊りしたがります。寝子島の夏遊びの仕方やイベントを教わりたい様子。
募集中のバイト
いくつかご用意してみました。何かしらお好みのバイト先が見つけられると良いのですが……
ひとつかふたつお選びいただけましたら、日暮が『こんなバイト先なんやけど』とか言いながら誘ってきます。雇われるも断るも神代さん次第です。
〇民宿『ねこ温泉郷』
寝子温泉の奥の方にある小さなお宿。猫cafeじみて猫がたくさんいます。気のいい老夫婦ふたりが経営しています。
【仕事内容】
たくさんいる猫たちの世話、部屋や風呂場の掃除、お客さんがいるときは食事を運んだりも。
日時:応相談
期間:応相談
〇植物園『ねこの庭』
星ヶ丘にある小さな植物園。敷地内には温室を利用したcafeもあります。
『園長』と呼ばれる麦わら帽子の似合う恰幅のいい老紳士が植物の手入れをしていますが、ぎっくり腰で動けなくなってしまったようです。
【仕事内容】
園内の手入れが主な仕事です。『園長』が指示書を作成するようです。娘である温室cafe店長もお客がいないときは手伝います。
日時:応相談
期間:園長のぎっくり腰が治るまで、もしくは長期
〇キャットロードのコスプレ屋『黄色い鳥』
キャットロードの一角にあるコスプレ用品専門店。黄色い鳥の看板が目印です。黄色い鳥の着ぐるみ姿の店長がテンション高めにひとりで切り盛りしていますが、衣装の整理が間に合っていない様子。
【仕事内容】
店舗内に溢れるコスプレ衣装や用品の整理整頓、店長が作成するコスプレ衣装・用品の作成補助。
接客は店長が行うので、完全に裏方仕事となります。
日時:応相談
期間:短期もしくは店内が片付くまで
〇その他
『こんなバイト先があれば!』とかがありましたらどうぞお教えください。
登場NPC
神代さんのアクションによって出てきたり出て来なかったりします。
・古家 日暮
今日は旧市街の商店街にあるとある青果店でバイトをしていました。
あちこちで色んなバイトに精を出していますが、そのあちこちで人手が足りない様子。
・夕、こん、珠
夕は賑やかで嬉しいわあ、とか言いながら晩ご飯の準備中。
こんと珠はふらっと遊びに来たユニと遊び回って疲れ果てて居間の畳でお昼寝中。
・ユニ
いつものように寝子島をふらふらした挙句に古家家に上がり込み、こんと珠と遊び回った後はみんなと一緒にお昼寝。夕にごはんも食べて行きなさいと言ってもらってご機嫌です。
・新村和子
温室cafe『Oz』の店長。二十代女性です。
今日は気まぐれに深夜営業をしているようです。覗けばハーブティーや試食品のクッキーを出してくれるかも?
・黄色い鳥
コスプレ用品専門店『黄色い鳥』の店長。黄色い鳥の着ぐるみ姿です。
今日も元気に店内でミシンを踏んでみたり小道具作成してみたり、通りがかりのひとをコスプレ道に引きずり込もうとしてみたりしています。
アルバイト編ではありますが、せっかくのプライベートシナリオです、どうぞ神代さんのお好きなようにアクションをお書きください。
それでは、お越しをお待ちしておりますー!