「痛っ」
午後のティータイム。
黒崎 俊介の目の前のテーブルではニャッジウッドのカップにそそがれたダージリンが香り、ケーキ皿には半ばほど欠けたフェアリーケーキが乗っていた。
「いたたたた。虫歯かなあ? これはいけないね……」
奥歯の鈍痛に顔をしかめた彼はその日の夕方、歯医者へと出向いた。
神魂がふわりと囁いたのは、歯科医院からの帰途であったという。
それから数年後。
つまりは、現在だ。
「おい、貴様! 今後ろに何を隠した? よもや菓子ではなかろうなぁ~?」
「すんすん。ほほ~、こいつは甘い匂いがするぜ!」
「そいつをよこせ! 菓子を食べることはもちろん、所持することも禁じられている。よもや知らんわけではないだろうな?」
若い女の手から『Packy』を奪い取り、武装警官たちは嗤う。
「か、返してください! 息子に食べさせてやりたいんです! 子どもがお菓子のひとつも食べられない世の中だなんて……!」
「やかましい!」
振り払われた女は地へ伏し、哀れな息子を想いただ泣き濡れるしかない。
男たちの制服の背には、『BAN sweets』の文字が躍っていた。
虫歯無き社会……つまり菓子無き社会を掲げて立ち上がった黒崎は今や、寝子島全土を掌握するに至った。
ありとあらゆる菓子が廃され、確かに住民の虫歯率は限りなくゼロに近くなった。
人はあの耐えがたい痛みと歯医者の脅威、甲高く唸りを上げるドリルに口腔内を蹂躙される恐怖から、永遠に解放されたのだ。
しかしもはや我らの人生に、菓子は無い。
パッキーもニャリッツも、ちょっとともゴリラの突撃行軍歌も、なめこの山もつちのこの里も無い。
甘い砂糖菓子もぴりっと塩辛いおせんべいも、全てが姿を消してしまった。
「ちょっと待つにー!」
だが……そんなふうに理不尽に奪われた菓子をこの手に取り戻さんと、立ち上がる者たちもいた。
「みんなからお菓子を取り上げるなんて、もう許せない! ウチがお仕置きしちゃうにー!」
さっそうと現れたのは、
七音 侑。
手には失われたはずのパッキーを携えていた。
「あっ! 貴様も菓子を持っているのか、そいつをよこせ!」
迫る武装警官たちを前に、侑はパッキーを頬張る。ぱきっ、と小気味よい音が彼らの耳朶を打った、その瞬間。
「にーーーっ」
「ぐ、ぐわーっ!?」
侑の細腕から繰り出されたパンチが、警官らを数十メートルも吹き飛ばしてしまった。
これもまた、神魂の気まぐれだろうか。なんとも不思議な力であった。
「お菓子の力で、お菓子を取り戻すんだにー!」
奪われるばかりではない。
彼らは立ち上がる。甘く美味しい菓子たちを、この手に取り戻すために。
こんにちは、高城ヒトです。
よろしくお願いいたします!
七音 侑さん、ガイドにご登場いただきましてありがとうございました。
ご参加いただける際は、ガイドのイメージに関わらず、自由にアクションをおかけください。
概要
神魂の影響によって生まれた、IFの世界。
ありとあらゆるお菓子が禁止された寝子島で、お菓子を取り戻すための戦いが始まります。
黒崎 俊介先生は、どういう経緯をたどってか、
今では寝子島の全域を支配する武装警察の長として君臨しています。
彼はその権力を振るい、寝子島でのお菓子の摂取および所持を全面的に禁止し、厳しく取り締まっています。
表向きは、人々を虫歯の脅威から解放し、健全な食生活を送らせるため……とのことですが、彼の真意とは……?
しかし、多くの寝子島住人が彼の力に抗えず、菓子無き社会へ迎合したかたわら、
反旗を翻す人々もいます。
お菓子を求める心と神魂が結びつき生まれた『お菓子を食べてパワーアップ!』する能力で、
黒崎率いる武装警察を退け、お菓子をその手に取り戻すのです!
アクション
以下のいずれかの立場で参加可能です。
なおいずれの立場でも、もれいびはろっこんも使用可能です。
★お菓子な戦士たち
お菓子を取り戻すべく戦う人々。
『お菓子を食べるとパワーアップ!』する力に目覚め、
常識では考えられない身体能力や超能力を使うことができます。
個人や食べるお菓子によって、目覚める能力は異なるようです。
(詳しく指定しても、おまかせでもOK)
ただし、お菓子は貴重です。手に入れるには相応の苦労や運が必要でしょう。
奪われないよう隠してあったとしても、数には限りがありますし、
武装警官たちに見つかれば没収されてしまいます。
使いどころには気を付ける必要があるでしょう。
★武装警察
黒崎の手先であり、お菓子を取り締まる者たち。
非致死性の電気ショック弾を装填した拳銃やライフル、ショットガンなどで武装していて、
それぞれの判断による発砲が許可されています。
その他、武術を嗜んでいたり、ろっこんを持っていたりします。
とはいえ彼らもまた、寝子島の住人です。
武装警察として活動する理由はそれぞれで、単純に甘い物が嫌いだったり、
あるいは奪ったお菓子をこっそり溜めこみ、自分だけで楽しんでいるのかもしれません。
疑問を抱きつつも権力には逆らえず、釈然としないまま職務を全うしているのかもしれません。
ウワサでは、彼らは九夜山のどこかに巨大な倉庫を建造し、
そこに人々から奪った大量の菓子を貯蔵しているとのことなのですが……。
★一般人
菓子無き寝子島で暮らす、普通の人々。
お菓子を食べる楽しみを忘れてしまった人もいれば、
どこか物足りなさを感じながらも日々を過ごしている人もいます。
彼らは、何かの拍子にお菓子な戦士として目覚めるのかもしれませんし、
黒崎や武装警察の意思に賛同し、その仲間として加わるのかもしれません。
★その他
やりたいアクションに合わせて、何でも自由にご指定ください。
NPCについて
登録済みのNPCなら、特定のマスターが扱うキャラクターを除き、基本的に誰でも登場可能です。
NPCの立場は、アクションで自由に指定して構いません。
また、このシナリオでは、Xイラストのキャラクターも描写することができます。
口調などのキャラクター設定は、アクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いてもらえれば大丈夫です。
それでは、皆さまのご参加お待ちしております。