緊張気味、とソフトに表現したいところだが実際のところはガッチガチ、笑みの頬すらこわばっている。
「た、試してもらって、いい……かな?」
土曜日の午後、寮の自室で
七夜 あおいが
野々 ののこに向けている顔だ。服装はファストファッションのトレーナーにジーンズをあわせただけ、ただしその上にベージュのエプロンを重ねている。
「オッケー」
ののこは気楽にフォークを手にしたのだが、その前に、とあおいはストップをかけた。
「胃薬なら用意してるから。すぐ溶けてはやく効く粉薬」
口調の後半は効能書きを朗読しているかのようだった。
「んーもう」
心配しすぎだよう、とののこは手のひらをひらひらと振る。
「だいじょうぶ、少々失敗してても食べちゃえばおんなじだって」
「そんな程度じゃすまないんだってば……」
私の場合は、とあおいは眉毛を八の字にする。
「忘れたの? 私の料理は見た目からしてパンチの効いたものだし味のほうはひょっとしたらそれ以上の破壊兵器だしで、こんなもの人に食べさせる気か、って言われたこともあるくらいで……」
料理についてあおいには、あまりいい記憶がないらしい。
ひたすらネガティブなあおいを見ても、ののこはあおいを叱ったりしない。よしよし、とあやすように彼女の頭をなでて言う。
「少なくとも見た目はおいしそうだよ。私、あおいちゃんが作るところ見てないけど頑張ったのはわかるから。まだ料理に自信はもてないかもだけど、苦手ならちょっとずつでも解消してけばいいだけだし。今日こうやって挑戦したことがその第一歩じゃない? それに食べるのが私だもんね、食べてびっくり脳天爆発ヘチャムクレブーになっても笑顔で感想言うからさ~」
その口ぶりがあまりに面白くて、あおいもぷっと吹き出した。
「あはは、ヘチャムクレブーって!」
「へへへ、だから不安そうな顔はやめようよ、さあ笑って笑って」
じゃあいただきます! 宣言してののこは、皿に乗ったチョコレートケーキにフォークを伸ばすのである。
見た目はごく普通のケーキだ。ミニサイズ一切れ、褐色がきれいで均一で、フォークを入れるといい香りがした。
一口ほおばって黙々と食べると、
「うあ……」
ののこは絶句した。
やっぱりヘチャムクレブー!? と言いたげな顔つきになるあおいに、だけどもののこは120%の笑みを見せたのである。
「
すっっごくおいしい! もーなんでこれもっと早く作ってくれなかったのー!」
「ほんと!?」
「ほんとに本当っ」
言うなりたちまち二口三口とフォークを進め、
「外見はもちろん味も最高だよ! スポンジなんかしっとりふわふわでさぁ、チョコクリームだってじゅわーっと濃厚で生チョコみたいだし~。お世辞とか抜きでお店で売れるレベルだね」
あっという間に平らげた。
やったじゃん、とののこはあおいの肩を叩いた。
「料理苦手のイメージ、そろそろ返上しなくちゃね」
「よかった……」
ののこの口ぶりに嘘がないことを読み取ったのか、糸が切れた操り人形みたいにあおいは座り込んだ。
「これで安心してプレゼントできそうだよ……チョコのホールケーキ」
「おっ、今度はまるまるひとつ作るのに挑戦というわけですなっ」
「そういうこと」
あおいは照れくさげだ。
「でも次はうまくいくかなあ……今回はたまたま、奇跡的にうまくいっただけかもしれないし……」
あーそれなら、とののこは言った。
「一緒に作ればいいじゃん」
「え?」
「プレゼントする予定の人と一緒にケーキ作ればいいじゃん。そうすれば失敗はないと思うよ」
我ながらナイスアイデア、とののこは言った。
「え、でも」
「ケーキ作りって孤独な作業だしねぇ、一緒だときっと楽しいよ。材料の買い出しからはじめて、卵白泡立ててクリーム作ってオーブンで焼いて、飾り付けまでふたりでやるの。共同作業ならミスすることだってまずないと思うし」
それがいいそうしようよと言いながらののこは携帯を取り出した。
「誘うの恥ずかしい? じゃあ私が誘っておいてあげるよ」
「え、ええー!?」
ほんのり桜色に頬を染めながらも、あおいはののこを止めようとしなかった。
「彰尋くんだよね、NYAINでメッセージ送っとくから」
「えっどうしてわかったの!?」
誰にプレゼントするとも言ってないのに、とあおいは目を丸くした。
「どうしてわからないと思ったの!?」
むしろそれが知りたい、とののこも目を丸くした。
もうじき
鴻上 彰尋の誕生日、その直前はバレンタインデーだ。
リクエストありがとうございました! 桂木京介です。
鴻上彰尋様へのプライベートシナリオをお届けします!
シナリオ概要
あおいとふたりでチョコレートケーキを作り、最後にこれをプレゼントされるというお話です。ホールケーキなのは、「弟さんや妹さんと食べてね」というあおいの気づかいです。
作る過程から楽しみましょう!
状況
ののこから『あおいちゃんが一緒にケーキを作ろうって言ってるよ( •⌄• )◞』というメッセージが届きました。次の休みの日ということです。
てっきり三人で作るのかと思っていたら、ののこは来ていませんでした。
……という場面を仮のスタート地点に想定していますが、自由に設定していただいてかまいません。
買い出し、調理、プレゼント……ささやかながらハッピーな一日にしたいですね。
アイテムプレゼントについて
今回はキャンペーンのプレゼントということで、あおいから彰尋様に渡されるものはアイテムとしてもプレゼントされます。
アイテムはリアクション公開の前後で公開され、七夜あおいから贈られる予定です。
それでは、次はリアクションで会いましょう!
桂木京介でした。