ふわりと何かが頬を横切る。振り向けば白の結晶が、ゆっくりと白銀の地に落ち結晶を埋めた。見上げれば多くの白結晶がしんしんと空から降り注いでいる。白結晶が渇いた鼻に積もる。それがひんやりと鼻をくすぐり、くしゃみが出た。
雪。この日寝子島では多くの雪が降り積もり、住人達はいつもと少し違った寝子島の光景を描いている。
ぶるぶる、と震えながらその光景を眺めていた者達。それは丸長な身体をし、ふわふわな毛を纏った
狸達だった。狸達は身体を丸め、小さな手でお腹をくすぐる。どうやらお腹を空かせている様子。すると、一匹の狸がぴょんと飛び上がると、宙で身体を縦に一回転させた。
刹那、ぼふんっ、と狸を包むように煙が立ち上り、暫くすると煙の中から一人の少年が現れた。
「う〜ん寒い! いっぱい食べて暖まれるようにしなくちゃな〜。よーし皆! 人里に繰り出すぞー!」
少年が狸達に呼び掛けると、狸達は一斉に宙で一回転し始め、ぼふんっと、辺りに煙を立ち込めさせた。
◆美味しい匂い(?)に誘われて
一人の少年があまり似つかわしくない動きで、人気の薄いアパートの窓縁へと、しゃがみながら足早に忍び寄る。
開かれた。と言うよりは閉じきっていないと言うべきな、今にも壊れそうな窓に手を掛け、少年は顎でぶら下がるように窓から顔を覗かせ、家の中を確認する。
「はーい連続鍋記録こうしーん。イェーイ。記念日でも作ってないとやってられないんだが? このやろー」
ぽちぽちと、渇いた拍手の音を鳴らし、湯気で曇った部屋で、
高城 律は呟いた。
「今日は奮発して大根半分も入れたからな。よーく汁に馴染ませてと……いやーもやしはシャキシャキしてていつもうまいなー」
ぐつぐつ煮える鍋の具をしゃくしゃくと食べ始める律を見て、少年は戦慄していた。初めてだったのだ。人里で暮らす人が、こんなにも無感情に食事をしている光景を見たことが。それは少年にとって想像し得る範疇の蚊帳の外。その光景に恐怖すら覚えてしまった。期待に膨らんでいた理想像までが崩れ落ちていく。何故なら普段里で食べている食事の方が……これ以上は止めておこう……。
「それにしても今日は冷えるな。また紙でも窓に詰めておくか? あっ」
律が窓縁で固まっている少年と目が合う。どうしてそんな所に? 浮かんだ考えとは違う言葉が口に出される。
「えっと、食べる?」
律は滴る鍋汁が魅力的なもやしを掴んだ箸を少年に近付ける。その瞬間、少年はぶるんぶるんと顔が見えなくなるくらいに顔を左右に振り、窓から飛び降り一目散にその場から走り去っていった。
「……そんなに嫌がらなくたっていーだろ……まずく……ねーし」
少年が走り去って行った後の雪景色を眺めて、ちょっぴり感傷の表情が足された律は再び、しゃきしゃき度ならそこらの鍋には負けない鍋を黙々と食べ進めていった。
初めましてにょろんにょです! 今回初めてシナリオを公開させていただきます!
緊張もひとしおですが、期待はメガグレートです! 楽しみにしておりますので是非ご参加ください!
このシナリオの概要
人に化ける腹ぺこ狸が寝子島に紛れ、ちょっと変わった日常が送れる、日常シナリオです!
今回神魂の影響か狸は、いろんな人に化ける事のできる能力を持っています。
狸はその姿を利用して、なるべく沢山、美味しい物をお腹いっぱいに、無賃で食べようと動きます!
狸は指定があればその人に化けてシナリオに現れます!
(シナリオに未参加の登録PCを指定することはできませんので、ご注意ください!)
アクションで出来ること
知人に化けた狸と知らずに違和感を楽しむ!
狸に気が付かないふりをしながら狸を懲らしめる!
新鮮な反応をする狸の来店でグルメを紹介する!
無賃で食事をする手強い狸を追走する!
狸に巻き込まれて楽しむ!
迷っている狸を見つけて寝子島を案内する!
等々思い付く限り色々な事が行えます!
なるべく行いたい事に沿えるように、化けるのが下手な狸や、反対に人を騙すのが上手な狡猾な狸もおりますので、したい事をアクションにおこしてください!
他の人との関係が気になる方は、最後に寝子島で狸の仕業があった。と噂に流れます。そこで別人だったと気が付けますのでご安心ください!(気が付かないままでもOKです!)
今回のシナリオは寝子島内で出来ることは殆ど行なえますが、特に目標などはありません。狸が紛れる、少し変わった日常生活を楽しんで頂ければと思います!
狸は懲らしめられても、お腹が満たされても、最後は里へと帰っていきます。