シナリオ「【演劇祭】猫海破魔戦記」

【演劇祭】猫海破魔戦記

　休日、淡い水色が空の隅々まで広がっていた。穏やかでどこか眠気を覚える空に反し、木天蓼市にあるコンビニエンスストアのネコンビは朝から大盛況であった。紅葉を目当てに出掛ける家族連れが弁当や飲み物を買い求める。若者達はビールや酒の肴を買い物かごに詰め込んでレジの列に加わる。

「合計で５３２１円になります。はい、一万円からのお支払ですね。少々、お待ちください」
　四野辺蘭月は手早く釣り銭を渡して笑顔で客を送り出す。その前に新たな買い物かごが置かれた。山のように盛られた菓子類に眩暈を覚えつつ、笑顔を保って口と手を動かした。
「やっと解放されたで～」
　押し寄せる大波を乗り越えた。蘭月は自身の肩を揉みながら首を回す。
　一息入れたあと、他のアルバイトにレジを任せて外の清掃へと向かった。
　塵取りと箒を使って丁寧に掃除を行なう。同じ姿勢が続いて、アタタ、と言いながら腰を伸ばす。
　その時、店舗のガラスに貼られた広告が目に付いた。
『劇団、猫海（ニャンハイ）からの急募です！』
　大きな見出しに蘭月は引き寄せられた。真剣な表情で内容に目を向ける。

『小萩の才能が溢れ出して今回は劇団という形になりました。とどまることを知らない傑物の小萩は監督と脚本をこなし、とんでもないことにアクション女優としても大活躍します』
「人物が目に浮かぶようやわ」
　苦笑しながら先を読んだ。
『いくら小萩が不世出の天才であっても同時に何役もできません。そこで役者を急募となりました。
　役は以下の通りです。演じてみたい役を見つけたら下記の電話番号まで。天使の声の小萩が対応します』
　蘭月は一つの役に目を留めた。
「カンフーガール、おもろそうやな」
「あたしはセクシーな女道士がいいわね」
　羽入癒雨は蘭月の耳に口を寄せて言った。
「な、なんやああ！」
　囁かれた耳を掻きながら後ろを振り返る。胸の部分が大きく開いたメイド姿の癒雨が立っていた。意味ありげな笑みで身を寄せてくる。

「蘭月も興味があるのね」
「まあ、おもろそうとは思う。叔母さ、癒雨ねーちゃんは似合いそうやな！　女道士、最高やで！」
「そうよね。それとお嬢は悪役が似合いそう」
　緑の目を細めた。携帯電話を取り出し、その場で電話を掛ける。
　にこにこと笑っていた蘭月は微かな息を吐いて、セーフ、と呟いた。
「叔母さんは禁句でアウトよ」
　癒雨は凄味のある笑みを浮かべた。蘭月は泳ぐ目で掠れた口笛を吹いた。
「……癒雨です。面白そうな募集を見掛けたのでお嬢の耳にも入れて置こうと思いまして……はい、そうです」
　蘭月は横目で成り行きを窺う。癒雨は笑顔となった。
「はい、わかりました。写真に撮ってそちらに送ります」
「どうなったんや？」
「お嬢はノリノリでしたよ。たぶん顔は微笑くらいだと思いますが」

　頭の中で葉月朱真を想像しているのか。癒雨は幸せそうな表情になる。
「忘れない内に写真を撮らないと」
　携帯電話を掲げて写真に収めた。念の為に再びシャッターを切る。二枚を見比べて写りの良い方を選び、手慣れた様子で送信した。

　二人がコンビニエンスストアに入ると、通り掛かった天神平庵がガラスに貼られた紙に目を向けた。眼鏡の中央を軽く押し上げて微笑を浮かべる。

「興味深い急募だね」
　風に吹かれながら近づく。右側のピンクの前髪を軽く掻き上げて目を凝らす。
「あたしは小悪党の錬金術師だね」
　庵は試験管を回すような手付きでニヤリと笑った。

運営部より

このシナリオは、マタタビック演劇フェスティバルのプライベートシナリオです。
くわしくはこちらのおしらせをご覧ください。

今回は、劇団「猫海」のためのシナリオです。
エントリー済みの以下のＰＣのみが参加することができます。
　
　　▼参加ＰＣ
　　・本条小萩さん
　　・四野辺蘭月さん
　　・羽入癒雨さん
　　・天神平庵さん
　　・葉月朱真さん
　
※その他の方は「このシナリオには」参加できませんので、ご注意ください。
　演劇祭の「他のシナリオには」参加する機会が十分ありますので、お楽しみにお待ちください。

ゲームマスターより

担当ゲームマスター

黒羽カラス

マスターコメント

　華やかな舞台の幕開けです！　こちらはマタタビック演劇フェスティバル、プライベートシナリオになります！
　オリジナリティ溢れる中華ファンタジーをご堪能ください。内容を語る前に一言、述べさせていただきます。
　本条小萩さん、四野辺蘭月さん、羽入癒雨さん、葉月朱真さん、天神平庵さん、
　素晴らしい脚本をありがとうございます。共に力を合わせて心に残るリアクションを作り上げましょう！

猫海破魔戦記のあらすじ＆人物と役名

　猫海（ニャンハイ）の街は今、いつも以上に混沌の度合いを深めていた。話の中心には連続失踪事件があった。
　下町に住むカンフー少女、蘭月（ランユエ）は同時期に音信不通となった友人の身を案じ、独自に事件を調べ出す。
　一方、明治維新で猫海に亡命してきた武家の娘、本条萩（ほんじょうはぎ）も事件の捜査に乗り出していた。
　二人は邂逅を果たし、同じ目的と知って協力関係を結ぶ。調べていく中で女道士、癒雨（ユユ）と知り合う。
　彼女から闇を祓う護符を手に入れる。結果、捜査は大きく進展して二人は遂に犯人へと迫る。
　連続誘拐犯は人体実験の素材を求める錬金術師のイオであった。イオは闇鼠公主（あんそこうしゅ）の持つ秘伝書を元に危険な実験を繰り返していた。
　真の敵は闇鼠公主と知り、二人は力を合わせて両名を打ち倒す。その後、蘭月と萩は再会を誓って別れた。

　人物と役名
　　蘭月：蘭月（ランユエ）。下町育ちのカンフーガール。蘭月殺法で戦う。ヒロインの一人。
　　小萩：本条萩（ほんじょうはぎ）。武家の娘で日本画と剣術の達人。ヒロインの一人。
　　癒雨：癒雨（ユユ）。セクシーな女道士。可愛い二人に協力を惜しまない。
　　庵　：イオ。錬金術師。悪役の小物。
　　朱真：闇鼠公主（あんそこうしゅ）。闇の鼠の女王。悪役の大物。

演劇の会場

　会場は星ヶ丘にある『STARHILL Theater（スターヒル・シアター）』。
　近代的な多目的劇場で大衆演劇はもちろん、オペラ、歌舞伎、コンサート、映画を上映することも可能です。
　ステージには様々な舞台機構が備え付けられており、工夫次第でありとあらゆる演出を行うことができます。
　ステージから競り上がったり、時にワイヤーアクションで宙を舞う。
　映像と合わせた絢爛豪華な舞台を作り出す等、自由な発想で表現できます。

　猫海破魔戦記の全容をお伝えしました。
　今回のシナリオは演劇に特化した話ではありますが、もちろんそれだけではありません。
　準備段階から打ち上げまで、自由にアクションに書くことができます。
　とは言いましてもやはりメインとなるのは演劇ですよね。
　役柄に合った人物の行動が今から楽しみで、胸が躍ってオールナイトフィーバーです！
　二人のヒロインの活躍と悪役との熱い戦いをお楽しみください！
　開演まで時間があります。今は心を落ち着かせて、じっと待つことにします。
　華々しい舞台に期待を膨らませながら――。

サンプルアクション（1）