モノクロ写真みたいに白い空だった。
湿り気のある風が吹いている。
ぬるいな、と
宇佐見 望月は思う。
天気予報によればもうじき、大型で強い台風が上陸するという。
大雨&強風警報のコンボで学校が休みになるとすれば、それはそれで結構な話ではあるけれど、ヘタすりゃそれこそ2、3日はお籠もり生活になりそうで、そうそう喜んでもいられないわけだ。
自宅軟禁期間中の退屈しのぎ、いや、知的好奇心への栄養補給ってものが必要じゃん?
だったら勉強じゃねえの? 受験生なら――という心の声は穴に閉じ込めてフタをし、そのフタの上に漬け物石まで置いて聞こえなくすると、まっすぐ下校するのをとりやめて、望月は意気揚々とホビーショップ『クラン=G』に向け歩き出す。
『クラン=G』にはなんといってもニャンプラがあるし、本やマンガだって豊富だ。あれこれ買っておけば時間なんてアッという間に過ぎていくだろう。ひょっとしたら、台風が過ぎ去ったことにすら気づかないくらいに!
単身突撃するつもりだったがその途上、
「おや武道(ぶどー)ちゃん?」
「もっちー」
望月はばったり、親友の
志波 武道と出くわしたのだった。
武道も下校中らしくカバンをたすきがけしている。
「もっちー陸上部は?」
「台風来るんじゃ強制的に休みだよ。そっちも同じようなもんじゃん?」
「HAHAHA、ザッツ・ライトその通りだね。ところでどこへ?」
望月が行き先を話すと武道は「行きたい行きたい☆」と目を輝かせた。
「武道ちゃん行き先はペットショップじゃねーぞ、コツメカワウソとか売ってねーからな」
「いやそれくらいわかるって! もっちー行きつけのゲームショップっての見てみたいなぁ……! そもそも俺だって、それなりにゲーム好きだったりするんだよ☆」
「んー、まあご期待にそえるかはわかんねーけども」
というわけで案内した店構えを見るなり、ワオ、と声上げ両手もつかって、武道は『びっくり』のポーズを取った。
「あれもしかしてファミレス!?」
「いんや、目的地。ファミレスだった場所を買い取ったそーだ」
ふたたび、ワオ。
「すげーじゃん☆ でけーじゃん☆」
秘境を発見した探検家のごとく意気ようようと、自動ドアを開けた武道は涼やかな冷房と、それよりもう少し涼やかかもしれないクールボイスに迎えられたのである。
「いらっしゃいませ」
コツメカワウソ――じゃないな、と武道は思った。
でもキュートなのは事実だ。
レジカウンターの向こうから頭を下げたのは
三佐倉 千絵、この店のオーナーの娘だ。小学6年生。Gのロゴが入った緑色のエプロン姿。ピンクのリボンと、大きなメガネがチャームポイントといってよかろう。
「なにをお探しですか……ああ、宇佐見さん、お久しぶりです」
「ちゃーす、千絵ちゃん。オヤジさんは?」
「父は奥でジオラマの制作中です。ニャンプラの」
「あ、もしかしてリファインが出たばかりのNSVのやつ?」
「よくわかりましたね」
千絵が、ほんのわずか目尻を下げた。
「そりゃわかるよー、俺様もモデラーだもん」
秘密の暗号を取り交わすかのように望月も笑みで応じる。
「ってことは千絵ちゃんは、今日も下校するなり店番か。店長もあいかわらずだなぁ~」
「まあ、いつものことですから」
「ちょ、ちょい待ち」
しぱっ、と右の手のひらを片手拝みのように立てて武道が割り込む。
望月の腕をひっぱり千絵に声が聞こえないくらいの距離を取ってささやいた。
「もしかしてもっちー、あの娘と親しい?」
「まー常連だし、それなりに」
「おやおや~。もっちーもお堅いようで、あんがい隅に置けんのぅ☆」
むむっと望月は眉を怒らせるのである。
「そーいうのじゃねーし! だいたいあの子まだ小学生っ!」
ふーん、と、とりあえず武道は理解した様子を表にして言う。
「そいじゃあまあ、あの『千絵ちゃん』に俺のこと紹介してよ」
「いーけど、俺様について変なこと吹き込むなよ……」
かくやっているうちに店長にして千絵の父(杏平という名前である)が「インスピレーションが途切れたわー」などとよくわからない供述とともにレジに戻ってきたので、望月と武道は千絵ともども、店奥のプレイングテーブルに向かった。
プレイングテーブルと書くと大仰だが、ようは学食にあるような白く平たいテーブルだ。カードゲームやボードゲームのプレイ用に無料で店が提供している。これが6つくらいドンドンとならんでいるあたりが、さすが大規模店というやつである。
「せっかくですので、新発売のボードゲームでも試遊してみませんか?」
「お、いいねいいね」
やんやと手を叩く武道だ。
「どういうゲーム?」
望月が質問する。
「海外のゲームで……ただしくはボードゲームとTRPGの中間のようなものですね。プレイヤー自身の人生の延長線上にある『未来の自分』を予想しあって交流します。特に勝ち負けはないんですが面白いんですよ。カードとボード、それにダイスで、未来がどんどんできていくんです」
さすが千絵、ゲームの説明となれば立て板に水だ。
へぇー、と武道は用意されたカードとボードをかわるがわるチェックしている。波瀾万丈な未来もほのぼのな未来も、運と選択とイマジネーション次第で作ることができるらしい。ゴールとする『未来』は10年から80年先まで好きに決定可能という。
「なかなか面白そーじゃん! 未来の世界で俺様と武道ちゃんが家族ぐるみの付き合いをしちゃったりするかも!?」
望月は千絵に呼びかける。
「ねえ千絵ちゃんも参加する? するよね?」
「はい。遊び方を説明しながら、ですが。気に入って頂けたら購入を検討ください」
「あいかわらず商売上手だねえ~」
じゃあやってみようか、と望月は自分のコマを手にしている。
「未来は10年後くらいがいいかなあ……それとももっと先にする?」
そうだところで、と望月は言った。
「千絵ちゃん、このゲームはなんていうタイトルなの?」
「元はフランスのゲームですが、英語タイトルは『Color Your Future』です」
ダイスの最初の一振りが、コンコロリンと転がった。
◇ ◇ ◇
if(もしも)の未来、想像のさき。
あなたにはどんな物語が繰り広げられるだろう?
配偶者と愛をはぐくむか家族とすごすか。それとも単身、生きる道を見つけているか。
夢をかなえた未来もあるだろうし、夢は破れたが別の幸せを見つけた未来もあるだろう。
それはもしもの絵、まっ白なキャンバスに描いて色を塗ったにすぎない。
でも、とあえて言いたい。
たとえ絵空事であろうとも、実現しないなどと誰が言えよう?
さあ、未来を語るときがきた。
宇佐見 望月さん、リクエストありがとうございました!
志波 武道さんもご登場に感謝します!
マスターの桂木京介です。
本作は「未来イラストキャンペーン」のプレゼントとして用意させて頂いたシナリオとなります。ご指名いただき光栄です。
概要
ロールプレイング要素のあるボードゲーム『Color Your Future』を遊ぶ、というシチュエーションからはじまるシナリオガイドとなっていますが、本作のリアクションで描くのは主として『あなたが想像した未来』となります。
なので、ゲームで遊びながら作った未来である必要はありません。なんとなく夢想した未来図でもかまいませんし、それこそ寝ているときに見た夢でもいいのです。
あえて未来のみをアクションに描き、『事実なのか夢や想像なのかあいまいにする』という手もあります。
あなたの希望する未来を教えて下さい。10年後から80年後まで、どの時期でも構いません。
ただし『未来』の場面はひとつだけにしてくださるようお願いします。
10年後の私と20年後の私を両方書いて! といったご要望は、申し訳ありませんがご遠慮下さい(汗)。
NPCについて
特に制限はありません。
特定のNPCと結ばれていても、なぜか養子の関係になっていてもOKです。
あくまで『if』ですので、どんなシチュエーションでもできるだけ対応させていただく所存です。
※NPCとアクションを絡めたい場合、そのNPCとはどういう関係なのか(初対面、親しい友達、ライバル同士、恋人、運命の相手など。参考シナリオがある場合はページ数まで)を書いておいていただけると助かります。
それでは、あなたのご参加を楽しみにお待ちしております。
次はリアクションで会いましょう。
桂木京介でした!