――ああ、
つい口から漏れた言葉は「まただわ、」と続き、ぽつり老婦人は零すように呟いた。
店先の青い花瓶に挿してあった筈の花が、今日も姿を消している。
それだけではない。近くにあった花にも負けない鮮やかな野菜までが忽然と、そう忽然と消えるようにその姿を眩ませた。
そうして、噂となる。
旧市街に『花盗人』が出るのだと。
その日は陽光が雲と戯れを魅せる天気の良い日だった。春の優しい陽射しは心地よい眠りを誘うほど。
時間が過ぎると共にゆるりと陽が傾き、見事な夕焼けが辺りを彩っていく。
夕暮れに照らされた商店街はそのまま夜を迎え入れる筈だった。
家事手伝いの頃の思い出を片隅に、参道商店街を訪れていたツインテールを靡かせる少女――
七夜 あおいはある異変に気づく。
自分の視線の先には不自然な人集りがあって。
どうやら何かがあったようで人が集まっているらしい。
あおいが人集りの中をひょいっと覗き込めば、視界に飛び込んできたのは花がらのワンピースを来た女性。
どうやら怪我をしたらしく、手当てを受けているようだった。
「……あの、どうかしたんですか?」
小首を傾げて訪ねてみると、
「ああ、花盗人が出たんだ」
聞き慣れない単語が耳を擽った。
「え? 花?」
「いやさ、」
近くに居た野次馬の人がそっと教えてくれる。
花盗人というのは最近のこの辺りで悪さを働いている集団のことだという。
彼らは文字通り花や花のように鮮やかな色のもの、ひいては花柄の物を奪っていく。
今日とて例外ではない。先ほどの女性もこういった理由から花盗人の被害にあったのだと。
そしてその正体は――?
「まったく。狐たちには困ったもんだよ」
そう、彼らは狐。以前からちらほら見かける程度には縁のある動物たちだ。
「昔は……ここらへんの狐はそんな事しなかったんだけどねぇ」
「あぁ、九夜山から偶に降りてくるくらいだったし、見かけても寝子島神社でくらいだったのにな……」
しかし今、その狐たちが旧市街で頻繁に姿を見せるようになったのは紛れもない事実。
理由など、そんなものは不透明なまま。
「もしかしたら山の神様が怒ってるのかもしれないねぇ」
「こら、滅多なこというでねぇよ」
不安そうな彼らの表情は疲れ、ほとほと困り果てていた。
「なるほど、狐か」
キレのある声が響いたかと思えば、本がパタンと閉じられた音がする。
あおいに同じくその場に居合わせた黒髪に眼鏡が特徴の青年――寝子島高校生徒会長
海原 茂 だった。
「あれ……生徒会長?」
きょとんと首を傾げたあおいが――どうして?と尋ねる前に、
「最近のこの辺りの噂を、独自で調査していた」
その答えが降ってきた。
「あ、なるほど!」
頷くあおいの横で、茂は眼鏡の奥の鋭い瞳を逸らすことなく、真っ直ぐに人々の話を聞いていた。
子供の話、老人の話、信憑性はどうあれ、その内容は興味深いものばかり。
「……そうか、貴重な情報を感謝しよう」
(とりあえず、協力者を募っておくか……)
もしかしたら戦いになるかもしれないと、そんな可能性も視野に入れながら。
「誰か懲らしめてくれんかの……」
ぽつりと零されたそれは、皆の共通の願いだったに違いない。
「大丈夫、前向きに行こう!」
あおいは被害に遇っている人たちに励ましの声をかけ、そっと考え事をひとつ。
知るにも、懲らしめるにも先ずは。
――会いに行こう、花盗人たちに。
狐がとっても大好きな癒雨です。
しっぽがぴこぴこするときゅんとします。
2つ目のシナリオは、悪さをする花盗人たちのお話になりました。
全く関係ない話ですが、花盗人の響きが好きです。
全部より一つに絞ったほうが描写は濃いかもしれません。
時間帯は夕方、物の調達などはその前の時間帯でも可能です。
舞台は捜索が旧市街の商店街や寝子島神社。
戦闘は九夜山周辺辺りかと思います。
選択肢は主に3つ
・足取りを追う
・変化した原因や目的を推測する
・狐を懲らしめる
☆花盗人たちについて☆
・住処は九夜山の奥ですが、最近なぜか街で問題を起こしています。
・彼らは単独では行動せず、必ず複数で行動しているようです。
・遭遇前に鳴き声が聞こえます。
・誘き出しなどの方法によってはもっと早く見つけられることも。
・動きは素早く、一人でただ追うだけでは追いつくのは難しいです。
・キーワードの花、もしくは花に関連するものを使ってみると、もしかしたら何かわかるかも?
・観察してみると何かに気づくかもしれません。
※懲らしめるに留めてあげて下さい。
殺す事に特化したリアクションは採用できない可能性が高いです。
☆NPCについて☆
七夜 あおいと海原 茂がご一緒しています。
あおいは狐の足取りを追い、茂は推測、若しくは懲らしめるつもりのようです。
被害にあった人たちの詳しい話をPCとして聞きたいなど、
そういった希望がありましたらアクションに盛り込んでみて下さい。
(大体の情報内容は大体上記の☆花盗人たちについて☆参照です)