『F.O.A.F都市伝説研究室』――そこは、都市伝説を収集するためのサイトだった。
花菱 朱音は、そのサイトの掲示板を覗き込んでいる。
「今日も、たくさん情報が書き込まれていますね~」
楽しげに呟きつつ、それらを読み進めていた彼女はふと動きを止めた。
それは、寝子島にある廃墟と化した保養所に関する伝説だった。
『天宵荘』と呼ばれるそれは、星ヶ丘のはずれ、天宵川の上流近くに建っている。
『私が聞いた話によると、そこは昔、製薬会社が保養所として建てたもので、社員をひそかに薬の人体実験に使っていたとの噂もあります。そして、当時の犠牲者たちが今も亡霊となって、さまよっているのだそうです』
書き込みには、そうあった。
もっとも、このサイトの掲示板の書き込みとしては、ごく普通のものだ。
朱音が目を止めた理由は、それに続く文面だった。
『来週の土曜日の夜、私は亡霊の存在をたしかめるため、この保養所を探索することにしました。
ただ、一人では心細いので、一緒に行ってくれる人を募集します。
同行希望の方は、この書き込みにレス下さるか、私のねこったーアカウントにご連絡下さい。
よろしくお願いします』
そのあとには、書き込み主のねこったーアカウントが記載されている。
「あらあら。勇ましいこと。……でも、心霊スポットの探索かぁ……。ちょっと面白いかもですね」
書き込みを読み下し、朱音は呟いて小さく笑った。
書き込み主のハンドルネームは『オカルト大好きっ子』となっている。
朱音はその書き込みを読み返しながら、何事か思案するふうだった。
×××
その同じころ。
花村 ほのかは、机の上のノートパソコンの画面を睨み据えていた。
表示されているのは、『F.O.A.F都市伝説研究室』のサイトだ。
「すぐにレスがつくわけないか……」
だが、呟くなり彼女は、はあ~~っと深い吐息をついて机の上に突っ伏した。
ちなみにここは、桜花寮の彼女の部屋である。
ほのかは、寝子島高校の二年生だった。
オカルトが大好きで、幽霊や超能力の存在も信じている彼女は、普段からよくこのサイトを覗いている。
たまに掲示板に書き込んだりもするのだが、その時のハンドルネームは『オカルト大好きっ子』だった。
そう、あの天宵荘に関する情報を書き込んだのは、彼女だったのだ。
天宵荘の噂は、さまざまだ。
書き込んだ情報のほかにも、何年か前に白骨死体が見つかっていまだに誰のものかわかっていないとか、迷い込んだ子供が死体で発見されたとか、恐ろしげなものがいくつもある。
地下の一番奥の部屋から悲鳴が聞こえて来るとか、三階の踊り場の窓辺に立つ女性の姿を見たとか、中庭にある彫像が動き回るだとかいった話もあった。
ちなみに地下の一番奥の部屋は、人体実験で死亡した者たちを解剖するための部屋だったのだと言われている。
解剖された死者たちの臓器は、ホルマリン漬けの標本にされて、二階の会議室の棚に飾られているという噂もあった。
また、人体実験をしてまで開発を続けていた薬についても、人体の能力を極限まで引き出す薬だったとか、永遠の若さを保つ薬だったとか、いろいろ言われている。
ただどれも、ネット上や寝子島内でひそかに囁かれているだけのもので、実際のところは不明だったけれど。
そうした噂のあれこれに好奇心を刺激されて、ほのかは探索を思いついた。
そして、書き込みのとおり、一人では心細いからと同行者を募ることにしたのだった。
だが、今のところ、掲示板にレスがつく気配はない。
ほのかは顔を上げると、机の上のスマホを取り上げた。
「とりあえず、ねこったーにも同行者募集を投稿しておこうっと」
呟いてねこったーのアプリを開き、文章を入力し始める。
一緒に行ってくれる人が、たくさんいればいいなと思いながら――。
花菱 朱音さま、ガイド登場ありがとうございました。
こんにちわ。マスターの織人文です。
今回は、心霊スポットとの噂のある廃墟となった保養所を探索するガイドです。
とはいえ、行動は基本的に自由です。
もちろん、どなたでも参加いただけます。
気づいたらいつの間にか参加していた、な~んていうのでもOKです。
なお、噂を知っている・知らないは任意に決めていただいてかまいません。
◆++関連情報++◆
【天宵荘】
大正時代に建てられた製薬会社の保養所。
ずいぶん昔に閉鎖され、建物だけが今でも残っているが、詳しい記録などはない。
星ヶ丘のはずれにある(地図ではD-7あたり)。
ネット上では心霊スポットだと言われ、さまざまな噂がある。
噂その1:製薬会社の社員たちが、薬の人体実験にされていた。その犠牲者が亡霊となってさまよっている。
噂その2:何年か前に白骨化した死体が見つかったが、いまだに身元不明。
噂その3:迷い込んだ子供が、死体で発見された。
噂その4:地下の一番奥の部屋は、解剖室だった。解剖された人の臓器はホルマリン漬けにされて二階の会議室に飾られている。
噂その5:地下の一番奥の部屋から、悲鳴が聞こえる。
噂その6:三階の踊り場の窓辺に、佇む女性の姿が見える。
噂その7:中庭の彫像が動き回る。
噂その8:人体実験されていた薬は、人体の能力を極限まで引き出すor永遠の若さを保つためのものだった。
建物は洋風の建築で、地上3階・地下1階で中庭がある。3階の上は屋上になっている。
一階の正面玄関には広々としたロビーがあり、一階奥に共同の風呂場がある。
トイレと洗面所は、各階に共同のものがある。
電気や水道はもちろん止まっており、各階の昇降は階段のみ。
正面玄関は施錠されておらず、入ることが可能。
玄関前には小さな前庭があって、その少し手前に門があるが、残っているのは門柱と二枚のうち一枚の門扉だけである。
【F.O.A.F都市伝説研究室】
都市伝説を収集するサイト。
誰でも自由に書き込むことができる。
詳しくは、コミュニティ『F.O.A.F都市伝説研究室』を参照のこと。
【NPC】
花村 ほのか(17歳)
寝子高2年3組 普通科。桜花寮住まい。
オカルト大好き少女。
◆++◆◆◆◆++◆
以上です。
それでは、みなさまの参加を、心よりお待ちしています。