時代が移ろい、寝子島 旧市街の景観もひっそりと移ろってゆく。いい意味でも、悪い意味でも。
「よーいしょっと」
今日は燃えるゴミの収集日。
努努 天才はゴミの詰まったビニール袋を両手に握ってせっせと運んでいた。
「ふう、やっと着いた~。重かったな~」
重い袋をぶら提げながらもマンションのゴミの集積所までたどり着き、その内側へ放るようにして捨てると、額を拭いながらもほっと息を吐く。
さて、戻ろうか。少し伸びをして天才が振り返ったその時、どこか本能的に怖気の走る声が近くから聞こえてきた。
「んも~う! なんでこんなことになっちゃってるのかしらね~」
なんというか、甲高く、野太い。しかしその困っているらしい口ぶりに、天才は声の方へ駆けだしてみた。
「どうしたのー?」
「あら、ユメちゃん、今日は学校休みなの?」
「うんっ」
マンションのすぐ手前にて、その口調からは想像できないほどの野太い声で溜息をつくのは、口紅を塗り、厚底の赤い靴を履いて、鮮烈な色合いのワンピースを着た中年男性……樫本 滝蔵(自称カッシー)。自身の青い顎を撫でながら、どうしたものかと言わんばかりに悩ましげな顔をしていた。
見知った顔に天才は丁寧に挨拶をすると、突然、樫本が天才の腕をがっしりと掴んできた。
「ならちょうどよかったわ、ちょっとついてきてよ~」
「え? え?」
これから朝ごはんなんだけど……。天才はぼそり呟いたが、しかし返事を述べる暇もなく、強引に手を引いてくる樫本についていくしかなかった。
「見てよコレ、ひっどいでしょ?」
天才の住むマンションから散々歩かされて、たどり着いたのは古めかしい雰囲気漂う住宅街、その裏手に流れている川の周辺であった。いつにもましてひどい……じゃなくて、苦い顔をした樫本の言うことはすぐに理解できる。
河川敷に足を踏み入れたばかりだというのに、すぐ靴の先には、踏みつぶされた空き缶、更に視線を辿らせれば、新聞紙、ペットボトル……やや卑猥な雑誌など。大きなものとなれば羽のちぎれた扇風機、掃除機、自転車、なんと冷蔵庫まで。
プラスチックも紙類も粗大も廃品も全てをごちゃまぜに、ありとあらゆる種類のゴミが河川敷に散乱していた。悪臭もそれなりで、そこのゴミでもひっくり返せば、黒くてカサカサ動くアレがいるだろうなと予想がつけばそれだけで気が滅入ってくる。
「あぁ、僕知ってる。これ「フホウトウキ」っていうんでしょ? おばあちゃんが言ってたー」
「いやいやそれがね? 違うみたいなのよ~」
「え?」
しおらしく腕を組んでいた樫本は言うと、後ろへ振り向いて指をさす。不思議がりながらも天才がその先に視線を這わせると、ブロックの塀で囲われた簡易な作りのゴミ捨て場があった。
「これ全部ね、あそこのゴミ捨て場に捨てられてたゴミなのよ~」
「?」
頭に疑問符を浮かべて首を傾げている天才に、樫本は嘆息交じりに説明を始める。
いわゆる、ワープしてしまうのだと樫本は妙なテンションで言い放った。なんでもすぐそこにあるゴミ捨て場にゴミを捨てておくと、いつのまにやらそのゴミがこの河原まで移動してしまっているらしい。まるで見えないダストシュートでも存在するかのように、捨てておいたゴミが、かと思えばそのまま河原に散らかされているのだ。不思議な話だが、あまりにそれが続くものだから地域民は他にゴミ捨て場を用意して、今では誰もその場所にゴミを捨てようとはしない。
「変な話なんだけど、それでも実際に河原がこんなになっちゃったワケでしょ? ここまで不衛生だとお肌が荒れちゃうわよ。こうなったら仕方ないから、若い力を借りちゃうしかないわねってことになったの」
妙な現象で使えなくなったゴミ捨て場の代替を用意するのは簡単だったが、既に大量のゴミで散らかされた河川の始末はそうはいかなかった。それでもこのような現状を放置しておくのは不衛生極まりないし、それを裏付けるようにかねてから地域民からの嘆願が少なからずあがっていた。しかしここまでひどくなった惨状は樫本含めた地域民の手には余るし、いくら地域民から経費を集めようと業者を呼ぶ金にはとても足りない。
そんな時、樫本はひらめいたのだ。
「ユメちゃん、あなたの学校にお願いしようと思ってるのよ」
「えっ?」
「ボランティアよ、ボ・ラ・ン・ティ・ア」
急に何を……天才は目を見張ったが、それを気にした様子もなく樫本は止まらなかった。
「だからユメちゃん、みんなによろしくね? しっかり働いてくれたコには……うふっ、ちゃんと『ごほうび』をあげないとね~」
一応は要請書を書くけれど。そう言って樫本は別れの挨拶をすると、呆然としている天才に手をひらつかせながら背を向ける。その赤い唇には、深い笑みを浮かべていた。
初めまして、この度マスターとして皆様のゲームに参加させていただくtsuyosiと申します。どうぞよろしくお願いいたします。
さて、今回はボランティアの募集です。河川敷に積もり積もったゴミに樫本と地域住民が困っています。
・今回の舞台エリアはマップのj-7、ゴミが移動してしまう不思議なゴミ捨て場もそのエリアにあります。
・日程は日曜日の午前8時からになります。人数分のゴミ袋と手袋、粗大ごみ用のトラックは用意されています。その他必要なものがあれば各々の裁量で用意してほしいとの事です。
・ゴミの種類は古新聞やビニール袋など。電化製品の廃品のような大型のゴミもあり、細かな作業と力仕事が存在します。
・ゴミの瞬間移動が起きてしまうその不思議なゴミ捨て場は、異変に感づいている地元民から「ブラックごみごみホール」などと呼ばれております。
・このゴミ捨て場、「ブラックごみごみホール」にゴミを捨てると、それはそのまま河原に飛ばされてしまいます。ゴミの瞬間移動の間隔は、一般人がゴミを捨てるとおおよそ三時間おきに、「もれいび」がゴミを捨てると何故だか即座に行われる模様です。
・ゴミでなくとも、そのゴミ捨て場に存在しているものなら生きている人でさえも片っ端から移動させてしまいます。その時の間隔は上述と同じです。
・作業が順調に進み、日が暮れる前に終了すると樫本から『ごほうび』が貰えます。内容は告げませんでしたが、樫本はえらくはりきっているようです。
・ゴミの裏には、時折黒光りするアレが潜んでいる危険があります。ご注意ください。
・依頼主は樫本 滝蔵(自称カッシー)。46歳の男性で皆さんと一緒に掃除をします。旧市街の一角で大人向けの飲み屋を経営しており、若い男子が好物です。ご注意ください。