朝、部活が終わった後。
風が校内を吹き抜け、木の葉がざわざわと音を立てて揺れる。
5月も中旬だというのに、若々しい緑の葉が頼りなさげに枝葉の奥ではためいた。
「ごめんなさい。私、貴方とは付き合えないの」
「ど……どうして!」
「だって、私。もうお付き合いしてる人がいるから」
校舎裏で静かな声が響く。時が止まったようだった。
固まる男性。対する女性は悲しげに眼を伏せ、眼鏡の奥の目を閉じる。
「それに貴方……眼鏡じゃないんだもの」
「……は?」
「眼鏡は人のステイタス……ということだよ」
木の影から男性が現れた。眼鏡だ。
何だこいつは? 今、確かに。
「……眼鏡?」
「そうよ!」
恋慕う女性はくるりと身を翻して眼鏡男の元へ。そして腕に絡まりイチャイチャし始めた。
「私、眼鏡かけている人が好きなの。眼鏡をかけてないなんて、お付き合いを考えるのも無理!」
「なっ……!」
「やっぱ時代は眼鏡だよな。俺も眼鏡っ娘じゃないと無理だわー」
「ねー。眼鏡をかけてない男なんてありえないわよねー」
カップルがその場を立ち去った後。一人残された男性は拳を握りしめて立ちつくす。
「ちくしょう……眼鏡が、なんだってんだ……」
あんなものを付けたからと言って何だというのだ。
格好良い? 可愛い? もうそんな風には思えない。
悔しい。悔しい。悔しい。
「ちくしょーーーーー!!!」
雄叫びに呼応するように木の葉が風に揺られ、落ちる。
こうなったら。やる事は一つしかない。
――――――――
「そこの貴方。そのシャツは校則違反よ!」
「げっ見つかった!?」
登校時、授業が始まる前。
北風 貴子は柄シャツを着た一人の男子生徒を捕まえる。
鋭い眼光と声音で威圧した後、玄関先で詰問を開始した。くるりと生徒に向き直る。
「逃げられはしないわ、観念なさい。貴方の名前とクラスを教えて」
「……」
「ちょっと。聞いているのかしら?」
イライラと、更に眉根をきつく歪ませる。対する生徒は貴子を凝視したまま動かない。
更に詰め寄ろうとした所、ふと、生徒の後ろ壁に設置されていた鏡へ眼が行った。
そこに映った姿は――
「キャアアアアアアアアアア!?」
悲鳴は切り裂くように校内へ響く。
――――――――
「生徒会長!」
「どうした?」
呼びとめられた
海原 茂は、相手の慌てように顔をしかめる。何か問題が起こっているらしい。
今度はどんな面倒事だと言うのだ。
「それが……ぶっ」
「……?」
「あはははは、か、会長……! め、眼鏡……!」
突然、茂の顔を見て噴き出す相手。眼鏡? と、訝しげにその手で眼鏡に触れる。
自分の顔の一部とも言える眼鏡。の下に何かついている。
……鼻?
……ヒゲ?
これはもしや、いわゆる。
「鼻眼鏡だ」
ふらり、と
行梨 謡が顔を出す。誰に話しかけるでもなく携帯に目を落としていた。
「学校中に被害が出てるらしい。ねこったーで大騒ぎしてる」
茂は思わず頭を押さえた。
その格好も普段ならば様になるだろうが、鼻眼鏡だとギャグに見える。
「……由々しき事態だ。このままでは授業に影響が出るな……一体犯人は誰なんだ?」
「さあ」
いつどこで鼻がついたのかわからない。そもそも外してもいない。
鼻とヒゲはどう引っ張っても外れなかった。
ここでも、どこか他の場所でも。生徒たちによる犯人捜しが始まる。
行動を開始するべく歩きを開始した茂は、ふと振り返る。
「……ところで君も被害者か?」
対する謡はシニカルに笑った。
「いんや、面白がってる」
ご無沙汰しております、片桐です。
今回はサスペンスチックな鼻眼鏡シナリオでお世話になります。
「普段しているメガネ」に「鼻とヒゲ」が付け足されている状態となります。
被害者は無差別な模様です。
◆行動例◆
・騒ぎの犯人を捕まえる
・騒ぎに乗じて悪戯をする
・普通に学校生活を過ごす
ろっこんの使用は可能です。
ただ一般人がたくさんいると思うので、うまく発動するかどうかは怪しいと思われます。
◆注意点◆
・騒ぎが表面化した時間帯は昼休み
朝の時点では噂があった程度です。
昼休み、授業~HR、放課後が探索時間となります。
授業をサボって探すことも可能です。
・眼鏡の先生も犠牲になっている
昼休み内に犯人を捕まえられなければ、鼻眼鏡をかけた先生の授業を受ける事が出来ます。
どの先生の授業かはアクション内で指定して頂ければ出来る限り対応します。
貴子は保健室で寝込んでいる様子です。
茂は鼻眼鏡ながら、犯人探しに躍起になっている模様です。
尚、眼鏡をかけている方はほぼ自動的にこの騒ぎに巻き込まれます。
被害にあった場合のリアクションも用意して頂ければ嬉しいです。
鼻眼鏡が嫌な場合はアクション内にお書き下さい。
それではまた、皆様とお会いできることを祈って。