壁を縦横に這い上る配管のひとつから、真っ白な蒸気が噴き出す。街中に湿度と熱を撒き散らし、炭臭い白煙は煤雲に覆われた空へと消えて行く。
灰色の空から目前の街へと視線を戻す。深く被ったフードの隙間から覗く。街を行き交うは、多脚の機械肢持つ貴婦人、硝子張りの頭部に灰色の脳をひけらかす研究者、混凝土の地面を擦るほどに巨大な槌つきの機械腕を持つ労働者。人々の隙間を縫うように駆ける猫でさえ、下半身からは微かな駆動音をたてている。
合成獣研究所、と書かれた鋼鉄の看板が掛けられた建物の影、濃緑の敷物を広げる。人ひとり腰を下ろせるだけの居場所を確保し、胡坐を組む。
背嚢から取り出すのは、世界樹の森の枝を削り、死者の楽園の嘆きの妖精の黒髪を張った弦楽器。
楽器の放つ魔力に気づいてか、この辺りでは見慣れぬかたちをした己に惹かれてか、機械仕掛けの子らが足を止めた。物珍し気な子らに囲まれ、思わず口元に笑みが湧く。
弦楽器とともに取り出した、古びた本を子らに示す。
「まもの、ずかん?」
聡い色した瞳をきらめかせる子のひとりに、私は頷いてみせる。
「いかにも」
咳きひとつ、枯れた指で弦を弾く。白く湿気た空気に嘆きの妖精の囁き声を響かせ、書物の頁を繰る。書き込まれているのはさまざまのかたちしたまもの達の仔細な絵と、まもの達から聞き出した彼ら自身の物語。
天を衝く世界樹の森に遊ぶ珍妙なかたちした愛らしいまものの話、
蒼い海の底の遺跡を護る元は英雄であったまものの話、
常夜の空に死してなお踊り狂い続けるまものの話、
蒸気と魔の法則が支配する絢爛たる街で暗躍するまものの話、
火より熱く溶けた土砂が流れ火炎弾が降り注ぐ火山に棲まうまものの話、
豪奢でありながらも堅牢強固な城からまかいを支配するまものの話、
――永遠にも思える長き時を掛けて蒐集した、まかいのまものの物語。
楽しい物語も、かなしい物語も、恐ろしい物語も、勇気の湧く物語も、すべてこの一冊に詰まっている。
嘆きの妖精の髪弦を爪弾き、旅の吟遊詩人であるところの私は微笑む。
「さて、いかなる魔物の物語をお聞かせいたしましょう」
こんにちは。阿瀬 春と申します。
今回は、まもの化企画にどーんと乗っからせていただきました!
★まかいについて
まおうが支配する、まものたちの世界。
基本的にはみんな平和に暮らしています。とはいえ、まものはまもの。あちこちで派手な刀傷沙汰があったり殺まもの事件があったり戦闘が発生したり、……しているかもしれません。
★まかいの主なエリア (()内はその地域に多い属性です。白属性はどこにでもいます)
1.世界樹の森(緑)
天を衝く巨木、世界樹がある森。世界樹はまかいに魔力を満たす役割を果たしているといわれています。
植物系、動物系、精霊系のまものが多いとされています。
2.海底遺跡(青)
海底に沈んだ古代遺跡や沈没船が眠っている場所です。今は失なわれた超古代技術が遺っていたりもするかもしれません。
水系、ゴーレム系のまものが多いとされています。
3.機械の街と研究所(橙)
蒸気と魔の法則が交差するスチームパンク風の都市です。ガイドに記した雰囲気の場所もあります。
キメラ系、機械系のまものが多いとされています。
4.死者の楽園(黒)
年中ハロウィンのような雰囲気のある場所。ゴシックなお城や地下墓地や地下牢獄でまものたちが日々お祭り騒ぎや刃傷沙汰、はたまた数百年に及ぶ眠りについていたりも。
アンデッド系、吸血鬼、魔女などのまものが多いとされています。
5.火山地帯(赤)
年中噴火している火山地帯。溶岩が流れていたり、火山弾が飛んで来たり。いつでもどこかしら燃えています。火山地帯の果てに『まおう城』があるといわれています。
まおうの幹部系、ドラゴン系のまものが多いとされています。
6.魔王城
まかいのどこかにあるまおうの居城、魔王城。複数あったり、平和な毎日なほのぼのな場所だったり権謀策略渦巻く怖い場所だったり。
悪魔系のまものが多い。
★属性について
まものはいずれか一つの属性を帯びています。
同じ属性の場合は、与ダメージも受ダメージも少なくなります。
■矢印の方向に与ダメージが大きくなります。
・青(水、氷)→赤(火)→緑(風、自然)→橙(地、金属)
・橙(地、金属)←青(水、氷)←緑(風、自然)←赤(火)
・白(光、雷)←→黒(闇、毒)
※フレーバー的な要素です。住んでいる場所の参考にもどうぞ。
あなたは、いつ、どうして、どんなまものと化せられましたか。
まものとなられてから、どこで、どんな生活をされてきましたか。
誰かと仲良くなったり、逆に誰かと諍ったりしていますか。
誰かと一緒に暮らしていたりしているのでしょうか。
二度と会えない誰かについて慟哭したりするのでしょうか。面白おかしく生きているのでしょうか。哀しみのうちに戦ったりしているのでしょうか。幸せな未来を求めたりしているのでしょうか。
そんなわけで、今日はひとつ、まものであるあなたの物語をお聞かせください。
そうして、私にあなたの物語を描かせてください。
■登場NPC
『私』……本名不詳、性別不詳、いわゆる『旅の吟遊詩人』的立ち位置。灰色のフードマントで顔も体も隠した中肉中背の人物。属性は『白』らしい。
『まもの』たちが好きで好きで大好きで、まものたちからまものたち自身の物語を聞き出し、『まものずかん』を書き記すことを生き甲斐としている。まものたちから話を聞き出すためには火の中水の中、こっそり後をつけたりも。それがばれて半殺しの目に遭ってもあんまりめげない。
※世界設定はコミュニティ『まかい』とほとんど同じではありますが、同じ世界とは限りません。ご了承ください。