ある夢、ある夜、ある幻。
ここではないどこか、夢のなかの物語。
あなたは、鳥籠にとらわれた。
「……、……!?」
安らかな寝息を立てていた
浅山 小淋は、奇妙な感覚に薄めをあけた。
開けて、そして驚いた。
巨大な鳥籠のなかに入れられ、腕は中央の柱にリボンで結びつけられているのだ。
とはいえリボン。強くもがき続けることで拘束を解くことは出来た。
鳥籠も同じだ。粗い網から手を伸ばせば、回転錠による扉は簡単に開く。
だが問題はこの先だ。籠から飛び降り、周囲を見回す。
窓の無い石煉瓦部屋だ。扉は前後に二つ。
赤と
青。
そこまで認識したところで、頭の中に突如として情報が入り込んできた。
赤い扉は熱い道
青い扉は暗い道
「……」
小淋は少しだけ考えてから、扉に手をかけた。
いつまでもここに居るわけにはいかない。
どちらに何が待っているにしても。
前に進まねばならない
おやようございます。おやすみなさい。こんばんは、ごきげんよう。
覚めぬ悪夢の迷宮へようこそ。
お客様は、この迷宮に囚われたのは初めてでございますか?
――結構。
この悪夢は『ゆめをたべるけもの』がお客様に仕掛けたゲームでございます。
ゲームに勝ち残れば脱することができ、敗れればお客様の魂が少しずつむしばまれてゆくのです。
心の準備はよろしゅうございますか?
ドアに手をおかけになってくださいませ。
それでは、よい悪夢を。
夢の迷宮
お客様はこのたび、夢の迷宮に魂がとらわれた状態にございます。
そんな風に感じない? そうでしょう。しかしながら、この夢の中で怪我をなされたり、何日も時間をかけたとしても、現実には一切の怪我をおわず、さほどの時間もたちません。
この理屈を説明するには精神と肉体の波長差について述べなければなりませんが、恥ずかしながら私には疎い分野でございまして、浅い説明をお許しくださいませ。
お客様にとって重要なことはただひとつ。
なんとしてもこの脱出ゲームに打ち勝利することのみにございますれば。
では、赤か青。
どちらかの扉へお進みください。
進めばもう後戻りはできませんので、どうか慎重に。
赤の扉
ようこそお客様。
こちらは赤の扉、扉の先には広大な砂漠が広がってございます。
お客様が目指すべき『出口の扉』は北にまっすぐ30キロメートル進んだ先にございます。
灼熱の太陽。水も食料もない状態で30キロ……とてもおつらいことでしょう。
しかしあなたに便利な能力や知恵がございましたら、一緒に歩く仲間を助けることができるかもしれません。
おっと、もう一つ。お客様にお伝えせねばならないことがございます。
この砂漠には大きな毒サソリが現われるのです。
サソリの毒にはお客様の魂を少しずつ削り取る作用がございます。
サソリは無限に現われてはお客様の道行きを時として邪魔するでしょう。倒してもよいですし、現われたそばから逃げてもよい。どちらかと言えば、逃げることをお勧めしますよ。端から倒し続けていれば、やがてお客様も力尽きてしまうでしょうから。
青の扉
ようこそいらっしゃいました、お客様。
青の扉の先にございますのは真っ暗な森でございます。
不思議な森でしょう? いくら火をおこしたりライトをともしたりしても、腕で探れるほどの距離までしか照らすことができないのです。
それに……おお、一晩中いれば凍えてしまうほどに寒い。
この暗がりをずっと奥へ奥へ、ずぅっと進んでいった先に皆様の目指す『出口の扉』がございます。
暗い道のりで迷ってしまわないように、工夫を重ねる必要がございましょう。
それに、獣!
そう、森には獣が出るのです。それも鼻のきく狼でございます。
もし見つかったなら木の上にお逃げになるか、走って距離をとるか、どちらにせよ逃げる方がよろしいでしょう。
狼には、噛みつくことでお客様の魂を少しずつ食らう力がございます。
それに森の獣は無限にいくらでも沸いてでてきますから、もし狼を倒すほどのお力があったとしても、戦闘は最低限に済ませることをお勧めいたします。
さいごに
おや? お連れ様と一緒にゲームに参加したいのですか?
ええ、ええ、結構ですとも。
お互いにしっかりと、はぐれないように、お名前を書き合ってご参加くださいませ。
一人では不安だけれど特定のお仲間がいらっしゃらないなんていう時には『同行希望』とお書き寄せくださいませ。
勿論その時には、狼やサソリの数も増えるようになっておりますが、力を合わせればなんでもできるお相手というものも、お客様にはいらっしゃるでしょうから。
では、あらためて。
よい悪夢を。