3月下旬、とある金曜日の午後1時。
寝子島駅にひとりの少女が下り立ちました。
大きめの赤いチェックの旅行カバンを両手に持ち、肩には1メートルほどの筒型バッグを背負っています。
少女は駅の改札口を出た所で、人の往来の邪魔にならないよう横の壁へ移動して、そこで迎えを待っていました。
しかし、待てども待てどもだれひとり、少女に声をかける者はいません。
30分後。
(……暑い)
うららかな春といえど、ひなたでじっと立っているのはきつく、つば広の帽子の下の少女の額にはぷつぷつと玉の汗か浮かんでいました。
四つ折りの白いハンカチを取り出して、そっと汗をぬぐいます。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
電車は何回も少女の背後を通り過ぎ、何人もが駅の改札を出入りしましたが、少女の知る
あの人らしき人物は、影も形もありません。
1時間後。
(……おなかすいた)
暑いし、足は痛いし。
合流してから一緒に食べればいいと言われて来たので、少女はお昼もまだでした。
1時間半後。
スマホアプリで時間つぶしをしていたのですが、バッテリー切れでそれもできなくなり。
少女はついに見切りをつけ、壁を離れて歩き出しました。
ひなたで1時間半も立っていたせいか、足下がこころもとなく、体がふらふら揺れています。
(とにかくどこかで何か飲んで、甘い物をおなかに入れなくちゃ)
「……呪ってやる」
頭に浮かんだ
あの人に、ぼそっとつぶやくと。
少女は駅前にあった周辺地図の看板に沿って、お店のありそうな参道商店街目指して道を歩いていきました。
●雑貨店『memoria』
「ええ!? あなた、どうしているの!?」
店長の
密架は、あくびをしながら2階から下りてきた
中山 喬を見て思わずそんな声をあげてしまいました。
「は? なんでって、そろそろ交代の時間だろ?」
いかにも起きたばかりといった眠そうな顔と声で、目をこすっています。
寝子島高校が春休みに入ってから、喬はバイトの時間と寝食の時間以外はずっと創作にあてていました。
ここ数日は特に夏の新作の試作品を作ることに忙しく、ワークルームにこもりきりで、昨夜も一晩中作業をしており、寝たのは昼近くになってからでした。
冷たい物でも飲んで目を覚まそうと、冷蔵庫を開いたところで、喬は密架の様子がおかしいことに気付きます。
「何?」
「静かだから、てっきりもう出たものと……」
「だから、何だよ?」
「だって、きょうじゃなかった?
紗那ちゃんが来るの」
「は? あしただろ? 週末いるって話で。金曜に来る……」
壁に吊られたコルクボードに貼られた今月の予定表にあるきょうの日付と曜日が目に入った瞬間、喬は言葉を失いました。
「……え? きょう……木曜じゃ……」
さーっと顔から血の気が引いて、動かなくなってしまった喬を正気に返そうと、密架は強めに揺さぶりました。
「それで、何時に駅なの!?」
「……1時……」
壁時計は、ちょうど午後4時を回ったところでした。
店には臨時休業の札を出し、ふたりは大急ぎで駅に走りましたが、当然そこには紗那らしき姿はどこにもありませんでした。
「やっば……」
絶句する喬の横で、密架はスマホを取り出します。
「ぼーっとしていてもしかたないわ。とにかく今は、手分けして捜してくれる人を捜しましょう」
こんにちは。またははじめまして。寺岡志乃といいます。
今回は、人捜しシナリオと見せかけて、実は日常生活紹介っポイシナリオです。
これまで喬や密架に接点のない人も普通に参加できますので、お気軽にご参加いただけたらと思います。
●エリア
旧市街
(少なくともスタート時は。その後移動は、場合によってはアリです)
●登場人物 ※PL情報です
中山 紗那(なかやま さな)
中山 喬の妹です。本土の高校に通っている16歳。
昨年10月から寝子島に越した兄の様子を見るために、春休みを利用してやって来ました。
兄のことは内心あまり好きではない、というかたぶん大がつくくらい嫌いですが、表には出していません。
気に入らないことがあると、すぐ「呪ってやるから」とつぶやきます。
しかし性格は明るめで、人見知りもなく、フレンドリーでよくしゃべります。
最近髪を切ってショートカットになっていますが、喬はそれを知らずロングヘアだと思っています。
(そのため、喬から身体特徴を聞いて捜す人は、ロングヘアの少女を捜すことになります)
甘い物に目がなく、ひたすら食べ続けます。ですので、甘い物を置いている店ならどこでもふらふらと入って行きます。
華徳井 友幸(かでい ともやす)
関西弁を話す外見年齢20代前半の青年。甘党。
明るく、人好きのする笑顔と屈託のないおしゃべりで、一見つきあいやすい性格です。
辻占を仕事にしていて、寝子島で店を出すのに最適な場所を物色中。
(とはいえこれも本人からすればバイト感覚で、その正体は、職探し中の安定志向な大学生です)
旧市街をぶらついています。
●スタート時
プレイヤーの皆さんは、以下のいずれかになります。
1.喬あるいは密架からヘルプを受けて、一緒に妹を捜す。
2.喬あるいは密架からヘルプを受けて、ひとりで妹を捜す。
3.普通に日常をすごしていて、旧市街をうろついている紗那と出会う。
4.普通に日常をすごしていて、紗那を見かけるけど、見かけただけで普通に日常をすごす。
5.普通に日常をすごしていて、友幸と再会し、一緒にすごす。
6.普通に日常をすごしていて、友幸を見かけるけど、見かけただけで普通に日常をすごす。
まあ、ようはこいつらほうっておいても全然OKってことですね!
それでは、皆さんの個性あふれるアクションをお待ちしております。