「お手伝いしてくれてありがとう」
北校舎の一階の廊下を、
若林 沙穂と
北美浜 薫子が並んで歩いていた。
二人が押す台車には、粘土が山と積んである。
「このくらいなら、いつでものう。しかし先生、粘土を何に使うのじゃ?」
薫子の疑問に、沙穂は笑顔でこう答えた。
「次の授業で、焼き物を作るのよ」
生徒達に陶芸を楽しんでもらおうと、沙穂は考えていた。
「ほほう」
キランと薫子の目が光る。
「造形は素晴らしいからのう」
薫子の両手が、何かを包み込むような形でそわそわと動く。
「して、造形のテーマは?」
「そこは皆の自主性に任せるつもりなの。やっぱり、好きなものを形にしてほしいもの」
「やははー! 先生太っ腹じゃのう!」
何を想像したのか、薫子の口元がへにゃりとゆるんだ。
――さて、寝子島高校、北校舎一階の工芸室、五限目。
「皆、粘土はいきわたったわね?」
沙穂は、集った生徒達の間を歩きながらこう告げた。
「今日は粘土と触れあいましょう。素直な気持ちをぶつけてね」
こんにちは。
本日は、粘土遊びです。
どなたでも受けることのできる授業です。
若林先生の指導のもと、陶芸体験をいたしましょう。
何を作るかは、皆さまの自由。
一時間かけて、好きな形にこねこねなさってくださいね。
ただし、工芸室に備え付けの窯で焼くので、あまり大きなものは作ることができません。
ほどほどの大きさでお願いします。(30センチくらいまで)
一週間後の放課後に、工芸室で作品を受け取ることができます。
自分で普段使う用の湯飲みでも。
誰かにプレゼントにしたい置物でも。
ストレスを発散するときにかち割る用の皿でも。
大好きで癒されちゃう、あの動物さんでも。
文鎮でも。
肉体美でも。
どんと来いです。
あなたの情熱を、ばーんとぶつけてやってください。
お待ちしております。