4月を前にしたある日の事。
寝子島の中学生
高知 竹高は、学習机に備え付けられた本棚を整理していた。三年生の教科書のためにスペースを作る作業は、否応なしに、学年末まで迫ってきた『受験』を連想させる。
自分はそれをクリアし、高校生になれるだろうか。そしてその後は?
将来の事を考えるには、彼の可能性は無限大すぎたし、精神はまだ幼すぎた。
「はー、めんどくさっ。全部投げ出して、ロックスターになりてーなー♪」
竹高は鼻歌混じりに椅子に沈み込み、回転キャスターをコロコロさせて部屋中を動き回った。
ふとこんな時、大学生の姉を思う。
一足先に実家から自立し、社会人への道を邁進している姉なら、何かアドバイスをくれるかもしれない。
「……お姉ちゃーん」
「ん? なぁに?」
間があった。
竹高の姉は反射的に返事をしたにも関わらず、一人暮らしの部屋に『実家住まいの弟が、突然現れた』事実を受け止められず、目をまん丸にしている。
竹高も『自室で一人で過ごしていたのに、なぜか姉が目の前にいる』ので、姉と同じ目をして、似た者姉弟を極めんとしていた。
「タ、タカちゃん!? え、えええええっ!!」
「お姉ちゃん! なんだこれ!? ……こ、ここもしかしてお姉ちゃんの部屋!?」
「そうだよ。そうなんだけど。それで、もうすぐアルバイトの時間でど、どう、どうして?」
「うぉお姉ちゃん落ち着いて!」
「タカちゃんこそおおお落ち着いてよ!」
その後——。
寝子島出身の姉弟は、落ち着きを取り戻すと、この
神魂空間跳躍現象を「いつもの不思議ね」と片付けて、のほほんと笑っていた。
「最悪電車で帰れるし大丈夫だよ」
竹高の姉が苦笑した通り、彼女のマンションは、実家からそう離れてはいない。
だが、同じ現象に見舞われて遥か遠くまで跳ばされた人もいる。結果、深刻な状況に陥り、茫然自失としている少年がいた。
「……せん?」
「Um......Morning?(*うーん……おはよう?)」
夜を旧市街の自宅で過ごしていた
イリヤ・ジュラヴリョフは今、卒業式の後に遠く離れた故郷へ帰った筈の元クラスメイト
日本橋 泉の黒い瞳と見つめ合っている。
アロマキャンドルか何かの甘い匂いが漂う見知らぬ部屋には、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
全体的に、覚えがない。
「ここどこ? 朝? なんで! にせもの? 夢!?」動揺を残していた喋りは知能指数が恐ろしく低下して聞こえる。泉はベッドの上でかぶりを振りながら上半身を起こした。
「俺の部屋、俺の家。New York, NY,
USA.
俺の部屋に俺がいる説明は要らないよな。本物かどうかは哲学的な話しになりそうだからやめてくれ。不毛なのは嫌いだ。
因みに今は朝7時。何が起こったのか、寝起きの俺の方が説明が欲しい」
「わ、わか……った、やってみる」
イリヤはベッドの隅に体育座りになって俯き、考え込む。たっぷり1分くらいかけた後に、「ごめんどうしてもこれだけ」と冷や汗が浮かんだ顔を上げた。
2分前まで日本に居たイリヤには、一つだけ質問しなければならない事があったのだ。海外に行くには飛行機か船を利用しなければならないが、その際に滞在に必要な手続きや持ち物がある。
「僕、今、法律犯してる?」
「テレポートで不法入国なんてクレイジー過ぎるぜ。You rock,Baby!(*お前最高)」
泉としては褒め言葉のつもりだったが、イリヤはみるみる蒼ざめて行く。パスポート、ESTA……まともな入国に関するあらゆる手続きが頭に浮かんで破裂しそうな顔だ。
「顔色悪いな、それに痩せたんじゃねーか? ちゃんとマカロン食ってんのかよ!」
泉がイリヤをからかいながら気軽にハグした瞬間、情報過多で爆発したイリヤの口から鼓膜をどうにかしそうな悲鳴が飛び出した。
*
寝子島で誰かを思うとき、あなたも神魂空間跳躍現象に巻き込まれて、どこかへ飛ばされてしまうかもしれない。
滞在時間30分以下で、何が出来るか分からないけれど——。
皆さんこんにちは東安曇です。
今回は、『誰かを想ったら神魂空間跳躍現象によって、その人の目の前までとんでしまう』不思議な出来事を描くシナリオです。
滞在時間は30分以下の間にどんなことが起こるのか。個性的なアクションをお待ちしております。
神魂空間跳躍現象について
3月下旬某日。(指定がなければ夕方から夜にかけて)寝子島で誰かを想っていると、想った相手の目の前に跳ばされてしまう現象です。だいたいシナリオガイドのNPCたちのように、突然跳ばされ(現れ)てしまいます。
相手のもとにいられる時間は30分以下ですが、PCはそれを知りません。なお戻るときも突然です。必ず元いた場所に帰ってこられるのでご安心下さい。
▼描写範囲
・神魂の影響なので、出発地点は必ず寝子島(内)にして下さい。
従ってアクションを受け付けするのは、基本は跳ばされた側のみですが、GAに限り、別の場所にいて誰かが跳ばされてきた側も描写出来ます。
・場所は地球でしたら、裏側はブラジルでも近所でもどこでも大丈夫ですが、星幽塔に行くことはできません。そしてガイドにあるように、海外へ跳んだ場合時差があります。
また跳んだ先について、詳しい描写や一部の固有名詞などが反映出来ないことをご理解下さい。
例として、アクションが『東京駅丸の内南口にでて、◯◯ビルなどの建物を見て寝子島でなく東京だと気づいた』というものの場合
リアクションは『賑やかな繁華街だ。高いビルだらけで、一目で寝子島でないと分かった。古いデザインの建物で気づいたが、どうやらここは東京駅であるらしい』のようになります。
・『ほしびと』のPCも『ひと』や『もれいび』と同じようにアクションをかけて頂けます。
跳躍先のキャラクターについて
今回のシナリオでは、跳躍先にいるキャラクターに未登録のキャラクターを、登場・反映させることが可能です。
▼未登録キャラクター
PCとの続柄は必ずご記入ください。
お相手のキャラクターはNPC寄りで描写致します。人数が多くなると「同行していた」「その場にいた」程度の描写になります。
名前や容姿などの情報はアクションと一緒にご記入ください。口調など指定がない場合、ほとんど喋らなくなるのでご注意ください。
▼登録済みのキャラクター、GA
また既にキャラクター登録されているPCは、GAでのご参加をお願い致します。
登録済みのキャラクターは、シナリオ未参加の場合、アクションを頂いても登場出来なくなってしまいますのでご注意ください。
▼NPCについて
跳躍先として登場させることが出来るNPCは以下の通りです。
日本橋 泉:NYの自宅及びその付近。※時差は寝子島出発時刻から約13時間後。ガイドの時間は自宅に居ます。
高知 竹高:お姉ちゃん(高菜)の家(部屋)。
大道寺 紅緒:都内某所。アニメ『マホラク』の先行上映会会場、楽屋など。
エリセイ・ジュラヴリョフとポンチク:寝子ヶ浜海浜公園