新しい季節がやってくる少し前。
変化を前にした3月のはじまり、あなたはどう過ごしますか——?
* * * * *
イリヤ・ジュラヴリョフが下校中の事だ。
袖を通すのもあと僅か数日となった学生服の黒い背中に声がかけられた。いつもより幾分弾んで聞こえる声に春の息吹を感じ、イリヤは目を細めて
大道寺 紅緒への挨拶に「暖かい日ですね」と言葉を添える。
「ええ、ペルセポネーが漸く地上へ還ってきたのかしら。そろそろコートが必要無くなりそうですわね。
服と言えば——貴方、高校の制服はもう準備していて?」
「それがですね紅緒さん、叔母様が少し余裕を見て作った方がいいんじゃないかって提案してくれたんですけれど、兄さん達は“イリヤはもう伸びない”なんて言うんですよ。酷いでしょう」
イリヤが見せた拗ねた表情に、紅緒は律儀に高い声で笑い、愛想良く反応してくれる。二人の関係は友人だ。
しかし紅緒はイリヤが進学予定の寝子島高校の1年生に所属している。4月になったら周囲に合わせて『先輩』と呼ぶべきだろうか。
紅緒に歩調を合わせて参道商店街を歩くイリヤが、会話の間中ソワソワと考えごとをしていると、すぐにミルクホールの前に辿り着いた。このレトロなカフェがイリヤの家だ。
戸建の飲食店らしく大きめの扉を押して、紅緒を先に入店させる。ホールやカウンターにいる従業員たちに軽く首を傾げるような会釈をしてから反対側につま先を向け、イリヤは事務所に入った。
室内では数名の従業員を前に、長兄の
エリセイ・ジュラヴリョフが朝礼を行っている最中だった。
「3月突入って事で、ひな祭り、国際婦人デー、ホワイトデーなど、など女性のイベントが続きます。
ので、ミルクホールも限定パンケーキイベントが続行中です。この調子で焼きまくりたいので——」
兄エリセイの外向けな硬い声を新鮮な気持ちで聞きながら、イリヤは壁にかけられたカレンダーに目をやる。
桃の花の写真の下に規則的に並ぶ数字と文字を見つめていると、生まれて十数年海を越えた地で暮らしてきた口からふと「ホワイトデーってなんでホワイトなの」とついて出てしまった。エリセイは一瞬眉を顰め、待ってと言うように従業員たちの前に掌を出し、そのままスライドさせてイリヤの唇を摘んだ。そして弟の反省した顔を満足げに一瞥して、朝礼を再開する。
「もう一つ、卒業とか送別関係で予約のお客様が増えてます。
既に枠が埋まっている日もありますが、直前にネット予約で埋まることもあるので、電話がきたら先に端末を確認してから——」
朝礼を終えた従業員たちが全て事務所を出て行くと、エリセイはラップトップの蓋を開けた。表示された画面は、先ほど聞いたばかりの3月の予約状況だ。
「Ты занят?(忙しい?)」
「март?(3月?)」
エリセイは話す言葉を日本語に戻して、『年度替り』『異動』『謝恩会』などの単語を出しながらこの月がどのような季節か説明をした。
それは詰まるところ、この店と言うより世間が忙しくなるのだろうとイリヤは頭の中でまとめてみる。
カレンダーの隅を捲ってみると、4月の文字と桜の花の写真が待っていた。
「新しい出会いのための別れの季節ってところかな。だから大変なんだ。きっと心のなかも。でも……」
イリヤが先程友人の呼び方ひとつだけで落ち着かない気持ちになったように、どんな人間でも変化を前にすると浮ついたり悩んだり平常ではいられない。
それでも寝子島へきて数ヶ月、素晴らしい出会いと新鮮な日々を経験したイリヤは肯定的だった。
「変わるのって悪い事じゃないよ。ね、兄さん」
エリセイ黙ったまま何とも言えない笑みで応えると、淡いピンク色の花から逃げるように視線を逸らした。
皆さんこんにちは東です。
らっかみタイムが3月になりましたね。こちらのシナリオは『PCの3月のはじまりの頃の日常』を描写するものです。
学校、仕事場、プライベートなどどのような状況でも構いませんが、行動は『平日のみ』でお願いします。
以下のNPCとの行動も可能です。
エリセイ、レナート、イリヤ・ジュラヴリョフ兄弟
日本橋 泉、水海道 音春、高知 竹高、幌平 馬桐
大道寺 紅緒、伊橋 陽毬
それでは皆さんの個性的なアクションをお待ちしております。