シナリオ「開放的な一日」

開放的な一日

　部屋の姿見で今日の服装をチェックする。ネクタイの結び方はウインザーノット。相手への配慮を怠らない。
　シャツや背広は新しく、下ろし立てのように見える。胸ポケットに入れていた櫛で左右の髪を整えた。前髪は自然な形で下ろす。
「そろそろ時間か」
　腕時計に目をやり、踵を返した。磨き上げた黒い革靴を履いて颯爽と出ていった。

　正午前、寝子島シーサイドタウン駅に着いた。噴水の前にはすでに彼女が来ていた。
「ユウちゃん、どうしたの？　今日は男っぽいね」
「そういう気分なんだ」
「天気は良いし、なんとなくわかるよ。でさ、どこに行こうか」
　彼女はピンクのボアコート姿で愛らしく振る舞う。
「その前にはっきりさせたいことがあるんだ。聞いてくれるか？」
「ん、なにかな」
「俺はお前が好きだ。恋人として付き合って欲しい」
「え、えええっ！　なんで、急に」
　激しい動揺に見舞われた。顔は赤く熟して目が泳ぐ。行き場を失った手をパタパタさせた。
「俺は本気なんだ」
「で、でもでも、ユウちゃんは女の子だし」
「中身は男なんだ。だから付き合ってくれ」
「そ、そうなの？　あ、あのぉ、親友としては嫌いじゃないけど、そっちの方面は考えたことがなくて、
　だから、返事は少し待ってくれる、かな」
「無理強いはしない。ゆっくり考えてから答えを出して欲しい」
「本当に急でびっくりだよ。でも、どうして打ち明ける気になったの？」
　落ち着きを取り戻した彼女が尋ねた。
「目覚めた時に心を決めた。朝一で店に駆け込んで服装一式、買い込んだ。じゃあ、デートに行こうか」
「ま、まだデートじゃないよ」
「まだってことは、答えを期待してもいいんだな」
　またしても彼女の顔が赤くなった。

　今日という日は開放的で、人々の気持ちを自由にさせる。
　行動の結果がどのようになろうと、動くことで何かが変わる。
　そんな一日の始まりであった。

ゲームマスターより

担当ゲームマスター

黒羽カラス

マスターコメント

今回のシナリオは隠していたことを「打ち明ける、行動で示す」シナリオになります。
隠し事が全くない天然さんには効果がありません。弱い神魂の影響なので普段と変わらない人もいるでしょう。
激しい葛藤も考えられますね。行動で示そうとしたところを強い意志で捻じ曲げて秘密を死守する、という風に。
端的に書きますと以下の分類に分けることができるでしょう。

シナリオでの行動
１．秘密にしていたことを誰かに打ち明ける（ＧＡ推奨）。または単独で行動に移す。
２．秘密を明かそうとしながら自ら抗う。その場合は成功と失敗の二種類の結果が待っている。
３．全く影響を受けない。マスターが用意したモブキャラの奇妙な行動を見て一日を過ごす。

説明は以上になります。
このシナリオは参加されるＰＣさんによって展開が変わります。
コメディ路線をひた走るのでしょうか。殺伐とした展開が繰り広げられるのでしょうか。
あなたの好きなように一日を染め上げてください。

サンプルアクション（1）

プレイヤーの目的・意図: 自分を可愛いと勘違いしているＰＣの破滅っぷりをパロディ全開でお願いします。
犯罪者にしない程度で。
キャラクターの目的・理由: 俺は可愛い。
昼間のワンピ最高ー。
キャラクターの行動・手段: 今までは夜に限定していた。それも人気の少ない時を選んで行動した。
今日の俺はいつもと違う。真昼間に外に行こうとしている。
社会的地位の危機なのか。いや、俺は可愛い。その上にフリルの付いたワンピースを着るんだ。
問題になることなど、何もない。腕や足の毛は可愛らしさの象徴なのだ。

俺は笑顔で出掛けた。体が軽い。月とは違って太陽は暖かい。俺という人間にスポットライトを当ててくれているようだ。
「ヘンな人がいる」
そんな声が周りから聞こえた。しかし、それは俺ではない。どこか別の変質者のことだろう。

公園までスキップしてやってきた。これもまた公園デビューというのだろうか。若い主婦達が集まっているところに俺は向かう。
なぜか、悲鳴が上がった。主婦の一人が抱いていた赤ん坊が泣き出した。ボール遊びをしていた子供が俺を指差す。
「ゴリラがスカートはいてる！」
その言葉にはさすがの俺もムッとした。
「ゴリラじゃなくてホモサピエンスだよ」
その丁寧な言葉は相手に通じなかった。上だけを略して叫ぶ。
「ホモだ！　ホモ！」
救急車、あれはパトカーの音か。近づいてくる。
一人の主婦は携帯電話を持っていた。
「これはちょっと」

俺は辛くも逃げきった。

サンプルアクション（2）

プレイヤーの目的・意図: 少しおしゃまで可愛らしいＰＣを素敵な演出でお願いします。
キャラクターの目的・理由: 心のままに彼に告白するつもり。
キャラクターの行動・手段: ＧＡ【告白】
私は彼のことを愛している。
この気持ちは変わっていない。
前よりも強く感じている。

だから、今日はその気持ちを思い切って伝える。
彼は私を受け入れてくれるだろうか。

今日の私は起きた時から違う。
愛の力が本当の私を目覚めさせた。
髪の毛のブラッシングはいつもより長め。
制服を着たあとは鏡でチェック。
化粧品はやめておく。自然な私を彼には見て欲しいから。
朝食はほどほどにして、心の中で気合を入れる。

私の運命の日が始まった。
彼がいた。みんなに優しい笑顔を見せる。
私だけを見て欲しい。私だけに微笑んで、私だけを見つめて。
心の想いがあふれて止まらなくなる。
いつも以上に胸がドキドキする。

でも、決めたこと。私は私にウソはつかない。
彼の元に走っていく。大胆に抱き付いた。
「おはよう、今日も元気だね」
彼は柔らかい声で私を包んでくれた。いつもと同じ。
だけど、今日は違う。それだけでは終わらせない。
「だって私、彰人が好きなんだもん。ギュッてして」
「そうなんだ。なんか、嬉しいな。僕もミモリちゃんのこと、好きだよ」
告白は成功した。私と彼は今日から恋人。嬉しくて彼のエプロンに顔を押し付けた。

今日から私は保育士の彼の彼女です。