3月某日。
ぽかぽかと暖かい春の陽気に誘われた多くの島民が、青空のもと過ごしている。
寝子温泉の外れにある『
寝子島自然公園』も、お弁当をこさえてきた家族連れからビール瓶や缶酎ハイを持った大人たちに至るまで、幅広い客層で賑わいを見せていた。
公園内で人気なのは、流行のアウトドア体験が出来るデイキャンプ場のバーベキュー施設や日帰り温泉だが、ここの目玉と言えばそう——、
巨大な『
フィールド・アスレチック』だ。
入り口の看板のド頭に「スポーツ施設です」と大きな文字で書かれたこの施設を侮るなかれ。小さなお子様向けから、身長制限のあるコースも備えた、割とガチめと名高いアスレチックだ。
極め付けは水上コースで、ドボンと落ちた時に十分な深さがあるから、泳げないと入る事さえかなわない。
利用時の靴はスニーカー限定、動きやすく汚れても問題のない服装が推奨されており、1日遊べば当然のごとく泥だらけになる。
実のところ日帰り温泉は『その為に』存在しているのだった。
この頃は長い冬を経てようやく上がり始めた気温のお陰で、3つのコースにある全てのポイントを制覇しようと意気込む挑戦者はあとを絶たない。
入り口の看板前で「我こそは」と拳を握る列に、加わってみてはどうだろうか……。
* * *
件の看板近くで、長い黒髪をポニーテールにまとめた少女が、完全に頭を抱えて座り込んでいた。
原因は体調不良ではなく、注意書きの多さに尻込みしてしまったのでもない。
彼女が著作のアニメ化企画の放映日を目前にした、ライトノベル作家であるからだ。
「どうしようクソアニメとか言われたらいえもし何かあって炎上したら——」
寝子島高校の生徒にして作家である
大道寺 紅緒は、さんさんと輝く太陽に照らされてなお、どん底に暗い言葉だけをセレクトして、ブツブツと、延々、呟いていた。
「紅緒ちゃん紅緒ちゃん、もし落ちちゃいそうになったら協力しようねっ!」
親友
伊橋 陽毬が話しかける声すら、耳に入っていない様子である。
(気が紛れればと思って外に連れ出してみたんだけど……)
陽毬は眉を下げてそっと息を吐き、反対隣へも心配げな視線をやった。
紅緒と陽毬の高校の先輩
レナート・ジュラヴリョフが、弟
イリヤへ献身的に話しかけている。
「あったかいねぇイーリャ。すっかり春だ」
「僕はツバメを見失った。永遠に春なんかくるもんか」
ぼんやりと宙を見つめているイリヤは、昨年来日して冬に受験を経験し、先日中学を卒業した。
要するに走り続けてきて、ようやく一度目のゴール地点へたどり着いたところなのだが、疲れ切ってしまったのか、人前でいつも笑顔を絶やさない少年なのに、今はすっかり表情が硬直している。
「燃え尽き症候群ってやつじゃないかな」
レナートは陽毬にこっそり耳打ちしてから、弟へ若干気まずそうな感が見えてしまう笑顔を見せつつ、花壇を指差してみる。
「ええっと? あの花、ほら、紫の。綺麗だね。なんて名前だっけな、はは」
「アネモネでしょう。
花言葉は“Forsaken(*見捨てられた、孤独な)”。…………う、うぅっ……ふぇえ……」
声を詰まらせたイリヤが顔を隠すように覆い肩を震わせると、紅緒もいよいよ怪しくなり、青い顔で両手を虚空に彷徨わせだす。
なんにせよ、この状態の二人が自室に籠もっているのは不健康なことこの上なく、連れ出したという訳だった。
「落水しても、頭を冷やせていいかもしれないな!」
なんて口が裂けても言えないが、実際はそう思っている陽毬とレナートは、どうにかしてこの春の病にかかった二人をいつもの調子に戻そうと苦悩しながら、その背中を押して入り口の門をくぐるのだった。
皆さんこんにちは、東安曇です。
こちらは『寝子温泉の外れにある寝子島自然公園で、PCたちが過ごす様子を描く』シナリオです。
ばっちり晴れたアウトドア日和です。アスレチックで派手にドボンして楽しんでください。体力に自信のない方やお子様は、バーベキューなどでゆったりお過ごしください。
皆さんの挑戦をお待ちしております。
寝子島自然公園
マップH.I-4
寝子温泉付近、林の中にある自然公園。
春になって園内には梅の樹や花壇に植えられた様々な花たちが咲き乱れ、絶好のお天気です。(ちなみに桜の季節はまだ早いです。)
【バーベキュー、ピクニックエリア】
デイキャンプ場があり、ピクニックが可能なほか、バーベキューも出来ます。お弁当や材料のほか酒類の持ち込みもOKです。
【日帰り温泉】
男女混浴での利用が可能な水着着用必須の温泉です。
シャワーと内風呂も完備していますが、こちらは洗い場になる為、男女に分けられています。
【フィールドアスレチック】
ロッカーに荷物を預けて着替えて行くようなガチめの施設です。コインランドリーも完備しています。
難易度別にコースが3つに分けられており、各コース20個程度のポイントがあります。
☆子供も利用出来る<わくわくコース>
斜面を上り下りして行く:ジグザグロード
太い丸太の上を這って進む:ねこさんロード
高所にスタート地点のある大きな滑り台:わくわく滑り台 など
☆小学校中学年以上を推奨した<どきどきコース>
丸太や切り株などの上を進む:ねこ林
ロープを伝って急斜面を登る:つるつる坂
滑車のついたロープにつかまって高所を移動する:ぴゅんぴゅん飛行 など
☆健康で体調に問題のない、身長115cm以上の方向けの<水上コース>
水上の上に渡されたネットの上を歩いて行く:ネット渡り
水上にある足場をジャンプして進む:ぴょんぴょんロード
水上で足元と手元に渡された2本のロープを伝って進む:グラグラ橋 など
ポイントの内容は上記の他もアクションに合わせたものをマスター側でご用意致しますが、PL様の案も積極的に採用する予定です。
面白いものを思いついたら、アクション欄へ御記入の上、ぜひコメント掲示板で他の参加者様と共有してみてください。
NPC
以下のNPCが園内を訪れています。
大道寺 紅緒
寝子高1年の
闇ノ吟遊詩人ライトノベル作家。陽毬に連れられてやってきました。格好こそ珍しくジャージですが上の空です。体力と筋力は白くて細い見た目通り、驚くほどありません。
伊橋 陽毬
寝子高1年のコスプレイヤー。紅緒を元気付けようとやってきました。
プロポーション維持の為にランニングをしている為、見た目に反して運動も得意です。
エリセイ・ジュラヴリョフ
寝子高2年、旧市街のカフェの三兄弟の長男(双子)。
レナートに連れられてやってきました。いえーい。今、秘められし運動能力が解放される……かもしれない。
レナート・ジュラヴリョフ
寝子高2年、旧市街のカフェの三兄弟の次男(双子)。犬の散歩以外は引きこもりがちになっていたイリヤを連れてきました。
甲斐甲斐しく弟を世話していますが果たして……。
イリヤ・ジュラヴリョフ
寝子中3年(卒)。寝子高に進学予定の旧市街のカフェの三兄弟の三男。
矢継ぎ早に起こった変化を経験し、乗り越えた途端、四六時中一緒に居た人は海の向こうへ。毒舌な後輩H氏曰く「未亡人状態」。
絶賛燃え尽き中。卒業後の休みに入った途端能面無口になり、情緒不安定で、引きこもりがちになっていました。
反射神経と勘の鋭さだけで、体力も持久力もへったくれもありません。