『天使さん、助けてください!』
声変り前の少年のような声がした。
ある日の午後のことだ。講義を終えた
桧垣 万里は、シーサイドアウトレットのショーウィンドウに飾られた天使像の前で、信号が変わるのを待っていたところだった。
「あれ? 気のせいかな……」
それらしい人影がないので首をかしげた時、また声がした。
『ここです、ここ。あなた、ご同業者ですよね?』
「えっ?」
声は、冬でも緑の街路樹の方からした。万里が見遣ると、そこにいたのは……。
「天使……!?」
驚いたことに、白い一枚布を体に巻きサンダルを履いた、金の巻き毛の中性的な天使君が木の枝に引っかかってもがいているのだ。
『おや? あなた人間ですか? 羽が生えてるように見えたのでてっきり天使かと。そうか、参ったなあ……そういえばあなた、僕のこと、見えるんですね』
「見えるみたいだけど、えっと……あなたは?」
『僕はマイケル。天使です』
マイケルが見えるのは万里だけではないようで、見えた人は万里に協力して、木の枝に引っかかったマイケルの羽根を苦心の末に外してやった。
『おやおや? あなたも、あなたも僕が見えるんですね……ここは凄いですね』
「見えるというか、触ったり引っぱったり抱えたりできてるみたい」
こうしてマイケルは樹木の中から抜け出すことができたのだが、どうも気落ちした顔だ。
『ああ、羽根が傷ついちゃいました。それに、どうしよう。困りました……』
「どうしたんですか?」
万里が尋ねるとマイケルはしょんぼりと項垂れた。
『実は僕は、死者の霊魂を天界に導くのが仕事の天使です。ところが、先ほどうっかり突風に巻き込まれてここに落ち、そのとき、天に導くはずだった霊魂を落してしまったのです。日が暮れるまでに霊魂を見つけて正しく天に導かないと、僕は上司から大目玉。霊魂も悪しき霊になってこの世にとどまってしまうかも……』
「あら、それは困ったわね。何か手伝えること、あるかしら?」
その言葉に、マイケルはぱっと顔を上げる。
『よろしいのですか?』
万里は一瞬ひるむものの、その目の真剣さに心を打たれたのか、
「ええ。せっかくのご縁だし、なんだか放っておけないもの」
『ああ、やはりあなたは天使だった! あなたも、あなたも!』
本物の天使のような人に天使といわれて戸惑う面々をよそに、マイケルは話を続ける。
『ではお願いしたいことがあります。僕が落した霊魂は3つ。その3つの霊魂を探してください』
「わかったわ。でも、どうやって霊魂を見つけたらいいのかしら?」
するとマイケルは、万里たちに鈴を三つ授けた。振っても鳴らない鈴だ。
『近くに霊魂がいると、その鈴が鳴っておしえてくれます。この鈴の音には霊魂を実体化する力がありますから、鈴が鳴れば、ふつうの人間であるあなた方にも、霊魂の声が聞こえたり見えたりするようになるでしょう』
「ありがとう」
するとマイケルの姿がすうっと薄くなっていった。
『僕は羽根の手当てをしなければなりません。見つけたら、マイケルマイケルマイケル、と僕の名を三度呼んでいただければ、すぐに駆けつけます。すみませんが、頼みましたよ!』
マイケルの姿が完全に見えなくなった。
万里たちは授けられた三つの鈴を見つめる。
「日が暮れるまでって三時間もないじゃない。どうしよっかな」
お互いに顔を見合わせて、うんうん唸る。
「私たちだけじゃ難しそうですし……とりあえず、誰かに連絡してみようかな」
こんにちは。
天使と悪魔のイラストコンテストのプレゼントシナリオをお届けにあがりました。
天使賞を受賞した桧垣 万里さん、ガイドへのご登場、ありがとうございました!
ぜひお楽しみいただければと思います。
天使マイケルからの依頼
日暮れまでの3時間の間に、マイケルが落した3つの霊魂を見つけてほしい。
霊魂は、寝子島のどこかを彷徨っているはず。
多くは、生前に縁のあった場所や、思い入れのある場所に行くことが多いらしい。
霊魂は、死んだことに気づいていない場合もある。
▼ひとつめの霊魂
赤石 雄二(あかいし ゆうじ)52才
本土から寝子島に戻ってくる途中に、
過労による居眠り運転で、交通事故(単独事故)で亡くなったトラック運転手。
旧市街の古びた平屋に、年老いた母と二人暮らしだった。
▼ふたつめの霊魂
里谷 萌黄(さとや もえぎ)17歳
寝子島総合病院で病死した少女の魂。
寝子島中学卒業後、高校へは行かず闘病生活を送っていた。
シーサイドタウンに自宅がある。誰かと恋して、シーサイドアウトレットの観覧車に乗るのが夢だった。
▼みっつめの霊魂
倉崎 青太郎(くらさき せいたろう)
星ヶ丘のお屋敷で亡くなった老人。
妻は三年前に他界し、一人暮らしをしていて、
朝来たヘルパーがベッドの中で眠るように亡くなっているのを発見。
老衰と診断され、星ヶ丘教会でささやかな葬儀が執り行われているようだ。
以上の情報は、マイケルから聞いたものとして扱っていただいて大丈夫です。
魂について
人には見えず声も聞こえませんが、天使からもらった鈴を持っていれば、鈴が鳴って存在を教えてくれます。
鈴が鳴ってからは姿が見えますし、声も聞こえるので能力がなくとも意思疎通は可能です。
霊能系のろっこんをお持ちの方は、ろっこん内容に沿った行動ができたり、情報が得られやすかったりします。
※背後霊などの設定をお持ちの方も、このシナリオでは、霊同士は姿が見えたり会話したりもご自由にどうぞ。
アクションについて
【1】~【3】からひとつを選んでアクションをかけてください。
アクション冒頭に番号を書いてください。
【1】旧市街で、ひとつめの霊魂を探す班の一員になる
【2】シーサイドタウンで、ふたつめの霊魂を探す班の一員になる
【3】星ヶ丘で、みっつめの霊魂を探す班の一員になる
霊魂を見つけるのに必要な天使の鈴は、万里さんから各班にひとつずつ貸し出されます。
同じ班の方と協力し合って探すと、見つけやすくなるかもしれませんね。
成仏できるように、どうか導いてあげてください。
それではご参加お待ちしております!