かつん、かつん。
薄暗い美術館の中に、足音だけが高く響く。
――どうして、こんなことに?
じりじりと後ずさりながら、
北風 貴子は自分を追っている相手の顔を改めて見遣った。
「貴子お姉ぇ、あーそぼ」
貴子を追い詰めようとしているのは、美術館の警備員の格好をした
南波 太陽。
見回りに使うライトの代わりに手に握られているのは、床に赤を滴らせる日本刀だ。
「貴子お姉ぇ、あそぼ、あそぼ、あそぼ、あそぼ……」
「ごめ……ごめん、なさい。明日、ちゃんと謝るから……!」
だからこんな悪趣味な夢早く覚めてよと、貴子は胸の内に叫び声を上げる。
美術館に行こう、と言い出したのは太陽だった。
偶には息抜きが必要だと彼は言ったし、事実その言葉は彼なりの気遣いだったのだろう。
けれど貴子は、その誘いをぴしゃりと撥ね退けてしまった。
そんなことを考える暇があるならあなたも勉強したら? と、にべもなく。
太陽はちょっと傷ついたような顔をして、「だよね」なんて曖昧に笑っていた――。
こつ、と背中が壁に当たる。
顔だけで肩越しに振り向いて――貴子は、そこに飾られている1枚の絵を見た。
「あ……」
寝子島高校の制服を着たおかっぱの少女が、美術館の床にうずくまるようにして倒れている。
レンズが割れてひしゃげた眼鏡が、近くに転がっていた。
少女の腹部から湧く赤色の水溜まりだけが、暗いカンバスの中でやけに鮮やかだ。
(逃げ、ないと……)
あんなふうになるのは、嫌だ。
それに、夢の中でだって、仮にも幼なじみに殺されるような経験はしたくない。
貴子は、きゅっと唇を噛み締めると、横に続く通路へと駆け出す。
「館内では走らないでください、走らないでください、走らないでください……」
やけに平坦でそれでいてどこか調子の外れた太陽の声が纏わりつくのを振り切るようにして、貴子は走った。
――さあ、楽しい追いかけっこの始まり始まり。
お世話になっております、巴めろと申します。
このページを開いてくださってありがとうございます!
以下、シナリオの詳細でございます。
このシナリオの概要
PC様たちは、深夜、異空間にある謎の美術館に迷い込んでしまいました。
美術館の方も時間帯は夜をイメージしていただければと思います。
真っ暗ではありませんが仄暗く、静かで何だか不気味。
美術館内は複数(参加PC様数+1)の警備員たちによって巡回されており、
警備員はそれぞれ、何故か参加PC様と面識のある人物の姿をしています。
彼らは全員何かしらの武器を所持しており、
美術館に迷い込んだ人間を殺そうと薄闇の中に得物を光らせています。
彼らに殺されると、絵の中に閉じ込められてしまいそのPC様は動けなくなり、
全員が絵の中に閉じ込められたらゲームオーバーとなってしまいます。
逆に全ての警備員が倒されればPC様たちの勝ち、美術館から脱出できます。
なお、美術館には通常の絵画の他に、迷い込んだ人間の死に様が描かれた絵が飾られています。
また、通常美術館で禁止されているような言動を取るとガイドのように警備員から注意を受けますが、
警備員たちから狙われやすくなるという以外のペナルティは特にございません。
ろっこん等で応戦するもよし、逃げ惑うもよし、警備員の姿に心を揺さぶられるもよしと、
一応下記の目的はございますがご自由に行動していただけますと幸いでございます。
美術館には、PC様が所持していて不自然でないアイテムを、
PC様お一人につき一つだけ持ち込むことが可能となっております。
本シナリオの目的は、こちらが全滅する前に警備員を全滅させ美術館から脱出することです。
また、ガイドの通り、北風 貴子もこの美術館に迷い込んでいます。
南波 太陽にきつく当たってしまったことを気にしており、
だからこんな『夢』を見ているのだと思い込んでいるようです。
今のところ、何とか太陽(の姿の警備員)には捕まっていません。
貴子が殺されても警備員を全員倒しさえすれば脱出には支障ありませんが、
彼女の心にちょっとした傷が残ってしまいます。
警備員について
人の姿を借り、警備員の格好をして美術館を徘徊する『何か』。
動きは早くないですし美術館のルールに則り走ることはしませんが、
攻撃力や耐久性は中々に高いようです(但し、個体差があります)。
上述の通り、警備員は参加PC様の見知った人物の姿をしています。
警備員はその日偶然顔を合わせた人の顔をしているかもしれませんし、
それが良い意味か悪い意味かを問わず何か思い入れのある人の姿を取るかもしれません。
自分にとっての警備員が誰の姿をしているかを必ずご指定くださいませ。
ガイドの太陽(の姿を取った警備員)のように彼らとのまともなコミュニケーションは困難ですが、
注意事項を繰り返す他にも太陽の「あそぼ」のようにPC様の心の隙を突くような言葉を発することがあります。
もしもご希望があれば、こちらもアクションにてご指定をお願いいたします。
指定がない場合は、特別な言葉は基本的にアドリブでは発しませんが、
登録NPCに関しましては何かそのキャラクターめいたことを言うかもしれません。
また、注意点といたしましては、
1)他のPC様を警備員として登場させることはできません。
2)NPC(例:登録NPC・遠くで暮らす家族(非PC)など)は警備員として登場させることが可能です。
但し、彼や彼女たちは本物ではありませんので、
現実のNPCとこのシナリオ内で起こった出来事を共有することはできません。
それでは、どうぞ素敵な(?)追いかけっこを!
ご縁がありましたら、何卒よろしくお願いいたします!