その男は島の中をふらふらと夢遊病者のように歩いていた。
目に生気が見られない。干からびた唇で頻りに呟く。
「……俺は馬鹿だ……連帯保証人に……馬鹿だ……もう、いらない――」
男は背後の九夜山をぼんやりと眺めた。その両眼に狂気が宿る。
「もう、明日はいらない!」
前につんのめるような姿で走り出す。手は宙を掻いた。血走った眼で山道へと飛び込んでいった。
翌日、ローカルニュースで男の情報が伝えられた。
所持品から寝子島在住の三十六歳と判明。目撃者によると、突然、街中で叫び出したのだという。その後、九夜山の山頂から飛び降り自殺を試みた。病院関係者の発表では一命は取り留めたが、足の骨を折る重傷とのことであった。
後日、島に男の噂が広まった。友人の連帯保証人となって多額の借金を背負っていたらしい。独り言を多く呟くようになり、精神状態が心配された。その頃に変わった形の石の破片を拾った。本人には小さな仏像に見えるらしく、親しい友人には話していた。
結局は世を悲観した末の自殺未遂。男の行動はそのように思われた。事実は少し異なる。
男が何気なく拾った石の破片に問題があった。普通の精神状態ならば大ごとにはならなかったのだが、僅かながらも呪力が備わっていた。
――破片ということは石は他にも……。
今回のシナリオは玉藻前の殺生石をモチーフにした話になります。
石の破片に直に触れたり、踏んだりすると負の感情に影響を与えます(PCの性格や心理状態で程度が変わる)。
所詮は破片なので死に至るような強い力はありませんが、怪我くらいはするかもしれません(アクション次第)。
■今回の舞台■
・ある日の寝子島(一月中旬であれば曜日は問わない)。
・その日の天候はPLが決める(曇り、雪、雨、雷雨等)。
■石の破片■
・石の破片の形や色は様々。PLのアクションで決まる(刃の形で赤色、槍状の青、灰褐色の小さな玉等)。
・石の破片の呪力は時間と共に弱まって無力化される。
※石の破片と関わらないという選択肢は無い。
アクションに書かれていない場合はPCの性格や状態を見てMSが行動を決める。
前回は幸運がテーマでした。今回は真逆の不運がテーマになります(アクションの100文字縛りはありません)。
「禍福は糾える縄の如し」という諺もあります。不運と幸運は表裏一体。
たまには不運に塗れて、裡に溜めた感情を爆発させてもいいのではないでしょうか。
だってPCは寝子島で生きているんだから。人間だから色々あるんだよね。
不運に抗ってもいいです。不運に感情を乱されても構いません。
皆様の人間らしいアクションを、お待ちしております。