「ああ、面白かった!」
あたしことアリソン・アリソン――残念なことに本名だ――はシネマクラブを出て、ぐっと伸びをした。
太陽が眩しい。思わず顔をしかめてしまうけれど、上機嫌だった。だって、それだけ今日見た映画は面白かったんだから。
「みんなも来れば良かったのになぁ」
独りごちる。あそこはボロいしちょっと。そう言われて遠慮されてしまった。ニューバーミンガムストリートステーションのシネマよりずっと料金は安いのに。
「そりゃ、おいしいクレープとか、ポップコーンとかは売ってないけどさ」
あるのは市販のポテトチップスとコーラだけと素っ気ない。ハイスクールの女の子たちはそれでは満足できないだろう。
方や寂れたボロシアター。方や綺麗な最新シアター。どちらが良いかだなんて、聞くだけナンセンスだ。
けど、こんなシアターだって価格と良い席が取れること以外に対抗できるものはある。
右手に見える低い橋をくぐって行くと、そこにはアルミニウムの円盤が敷き詰められた世界最高を称された百貨店があった。こればっかりは駅構内にも無い。ちょっと優越感だ。
ここがあたしのお気に入り。イングランドのバーミンガム。その郊外にあるブル・リング商業区域。
商業区域に指定されるだけあって、その人通りと交通量は多い。ほんの数十秒歩いて橋を一つ超えた先に、こんな活気のある場所があるなんて、異世界に迷い込んでしまったかのような、魅力的な錯覚さえ覚える。
ウィンドウショッピング。映画を見た後にこうして商品を眺めていくのがあたしの休日の過ごし方だ。
さあ、と店内に入って行くと、初っ端から人にぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい……」
「ああいや、悪い。こっちもよそ見をしていてな」
男の人だった。よく見ると、着ている物は聖職服で、落とした本は聖書だった。つまり、彼は神父か牧師なのだろう。
「悪かったな。それじゃ」
聖職者にしては若く粗雑な口調で言って、彼はふらりと立ち去ってしまった。
運が悪かった。そう思うことにして、あたしも気を取り直して歩みを再開する。今度はぶつからないよう、周囲に気をつけながら。
そうやってあたしが一通り楽しみ終えた頃には、外はまだまだ明るかった。映画が始まるのが早い時間だったから、こういう日もある。
明るいうちから家に帰るのもなんだか損した気分になりそうだった。せっかくだし、普段は行かないところまで足を伸ばそう。
いつもは使わない道。見たことのない風景。新鮮な気分になる。
ふと、あたしは古びた小さな教会に目をつけた。ブル・リングと言えばセント・マーティン教会だけど……。ちょっと好奇心で扉のノブに手をかける。ぎぃ、と年代と不手入れさを感じさせる音が鳴りながら扉は開いた。
「悪いが今はサービス時間外だ」
もう今日の営業時間は終わった。素っ気ない言い草が聞こえてきた。聞き覚えのある声だった。
「あ、さっきぶつかった……」
堂内を覗き込むと、さっき百貨店で見た人がいた。一瞬だけ彼は怪訝な顔をしたが、すぐにその顔に理解の色が広がる。
「ああ、さっきの……。どうした、骨でも折って治療費でも請求に来たのか?」
男の突飛な発想に、思わず私は笑ってしまう。
「違う、違う。本当にただの偶然。こんな教会があるんだなって」
呆れたのか安心したのか、ふぅんと言って彼は一息つく。
「まあ、これも主の思し召しだろう。ゆっくりしていけ」
「時間外なのに?」
「神の家は常に開かれている」
冗談めかして言うと、彼もその通りに返してきた。純粋な厚意。しばらく長椅子に座って待っていると、彼がココアを淹れて持って来てくれた。
「……人、いないのね」
だいぶ安物なんだろう。あたしが受け取ったココアは香りも悪ければ味も薄い。温かいチョコレート色のお湯。こういう場所らしいと言えば、らしい。
「ブル・リングと言えばセント・マーティンだからな。小さな教会に好んで来る奴はまずいない」
そしてコーヒーを飲む彼にしてもそれは同じことだったらしく、渋面する。安いインスタントコーヒーは温かい泥水とさして変わらないという言葉を思い出した。
「ふぅん……。なんだか寂しいね」
「そうだな。俺も、この教会も必要とされていないってことだ」
人はより大きく、便利で、人気のある場所を求める。だからこういう場所は見向きもされない。
「でも、あたしは好きだよ。ここ」
「……そりゃあ光栄だな。しかし、なんでまた?」
んー、とあたしは少し考える。
「安くて人が少なくて、百貨店が近いから――かな?」
「なんだそりゃ」
彼の苦笑いを見て、あたしは思わず笑ってしまった。
ごぉん。鐘の音が聞こえた。五時ちょうどを知らせる時報だ。
「ココアご馳走さま。また来るね」
まだ半分ぐらいまで残ってしまったココアを置いて、あたしは長椅子から立ち上がる。
出口へ向かおうとして、ああ、それから、とあたしは立ち止まった。
「次からはもうちょっと良いココアを買っておくか、ポテトチップスとコーラを用意しておいて」
狭くてボロくて汚くて、おいしいクレープやポップコーンも置いてないけれど、あたしはここが気に入った。きっと友だちなんか誘っても来てはくれないだろう。
けれど、良いんだ。ここには一人、映画の代わりに話し相手がいるんだから。
毎度お世話になっております、豚野郎でございます。ぶひぃ。
今回はわたくしの方から、
「自分のPCたちを旅行に行かせる」
というコンセプトのシナリオ提供させて頂きます。
概要と致しましては、PL様方からプレイヤーキャラクターの主な設定や、希望するシチュエーションのイメージ及び登場する話の雰囲気などをアクションに記入して頂き、わたくしこと豚野郎の方でそれを基にしたショートストーリーを執筆致します。
つまり、イラストレーターの方々に雰囲気やシチュイメージとキャラクター情報を伝えてお任せ要素多めでフリーイラストをリクエストする、そのゲームマスター版、文字媒体版とお考え頂ければ、理解が早まるかと思われます。
よって、上記のシナリオガイドはある種のサンプルとしてご認識下さい。大体こんな感じの話を書きます。ヤマの無い日常系です。
キャラクターの設定を書いてあとはお任せ、という形でも構いません。その場合、豚野郎の独断と偏見によって、ショートストーリーを書かせて頂きます。
皆様方の素敵な旅路をお伝えできればと、思っております。
○ご注意頂くこと
このシナリオに参加して頂くにあたって、いくつか注意して欲しい点がございます。
・人称について
基本的には三人称の執筆となりますが、アクション内で希望がございましたら一人称視点(シナリオガイド本文のようなキャラクターからの視点)でのご依頼も承っております。
ただ、一人称視点をご希望になる場合は、口調についてプロフィールページを補足した詳細な情報をお伝え頂く必要がございます(アクションでもプロフィールページの方でも、どちらで補足して頂いても構いません)。また、性格や何を行動原理にするのかなどもお書き添え下さい。これらが無い場合、PL様方のご期待に添いかねた結果になってしまうことがございます。ご注意下さい。
・PC間での絡みについて
旅行先指定の方と旅行先お任せの方をマッチングして交流する形に致します。お任せ指定希望者数の見込みが全くの未知数であるため、交流をお考えの方は旅行先をお任せにして、ショートストーリーの雰囲気を指定しておくと吉かと思われます。
・リアルを参考にして描写はするが、フィクションが多く含まれること
シナリオの都合上や執筆時間確保の都合上、全てを調査してリアルに準拠したシナリオを書き上げる、というのは至難の業でございます。よって、しれっと嘘の情報が混ぜてあることがあります(例えば、上記シナリオガイドのシアターのことだとか、教会のことだとか、鐘の時報のことだとか)。ご了承下さい。
よって、実際にPL様方が行ったことのある場所は指定なさらないほうがよろしいかもしれません。
・あまり難しい(資料の少ない)旅行先は描写が至難であること
中央アジアであるだとか西アジア、中東、アフリカなどのとにかく資料が少ない地方の描写はフィクションの量が多くなります。現実とはかけ離れた内容も含まれることがございますが、どうぞご理解下さい。
・シチュエーションについて
単純な旅行や神魂の影響によるもの、夢の中など、世界観に反しない、または多大に影響を及ぼさないものであれば基本的に反映致します。
・ジャンルについて
基本的にニュートラルな雰囲気を得手とします。バトルもイケます。恋愛はGAでない場合適当なNPCを生やすことになります。そちらの大雑把な設定の指定も可能です。
・マスタリングについて
処理が困難である、尺が足りない、労力的、スケジュール的に過剰な圧迫を要求される場合など執筆上の問題が発生した場合、本来そちらが意図したものとは違った展開になったり、省略されてしまう場合がございます。ご了承下さい。
無難を望むのであれば、日常系や旅先で起きたちょっとしたハプニングなどといったシチュエーションが良いでしょう。
・グループアクションについて
必ずGA【グループ名】といったふうに、アクション内にご記入下さい。
●最後に
長々としたゲームマスターコメントですが、以上となります。
皆様の楽しいアクションを心待ちにしております。ぶひぃ。