クリスマスも近いある日――
「きゃあああああああ!」
寝子島にある、あるスイーツショップにて。
店員の女の子は、ショーケースに並んでいるショートケーキに起きた変化に悲鳴を上げました。ケーキの上に載っていたいちごが消失して、その代わりにみかんが――いえ、ぶきみな顔のついたみかんが載っています。
全部。
ことごとく全部。
いちごがみかん(顔)になっています。
「…………」
女の子はおそるおそる、ケーキの真ん中に挟まれているいちごを確認しました。
「……………………」
やっぱり、いちごがみかん(顔。皮つき)になっています。
「……………………………………」
「うわぁ! なんだこれ! いちごが!」
店の奥から、パティシエの叫び声が聞こえてきました。
冷蔵庫に入っているいちごも、同じ状態になったようです。
Q、「な、なにが起きてるの……?」
A、いちごがみかんになってるんです。
この店だけではありません。いちご農家のビニールハウスの中も、スーパーのいちご売り場も、全滅です。全てのいちごが、みかん(顔)になっていました。
∞
そして、寝子島全体を見てみると――
等身大みかん宇宙人クリスマスバージョンが、島の至る所で歩いていました。
そこにも。
あそこにも。
うじゃうじゃうじゃうじゃ。
「な、何……?」
「宇宙人の襲来?」
人々は、等身大みかん宇宙人くryを遠巻きに見ています。すると、等身大みかん宇宙ryは、突然突進してきて人々の口にみかん(顔)を突っ込んできました。
「むぎゅ!」
「むぐもご! まず……」
寝子島は、みかんによって混乱に包まれました。
あちこちで起こるその様子を見て、散歩中だった
テオドロス・バルツァは溜息を吐きました。
「やれやれ……」
時空を一時的に"切り取り"、テオは寝子島を“新世界”とします。
∞
「こ、これは……」
小鳥カフェ&ホテル『TABE=TYA=DAME』の前で、アルバイトの森宮 檎朗は呆然としていました。さすがに喜んでいる場合ではありません。
「森宮さんの企画か何かじゃないんですか~?」
店主の
小鳥遊 風羽が、彼の隣に立って訊ねてきます。外に出る時は、さすがに鳥を連れては来ていません。
「違いますよ! 俺は何も知りません!」
「あら~……」
風羽は小さく首を傾げ、何事かを考えていました。
「ということは、森宮さんに訊いても解決は……」
「できません!」
「ですか~」
風羽の手にあるスマートフォンには、テレビのニュースが映っていました。寝子島のローカルチャンネルです。ニュースでは、島中のいちごがみかんになってしまったと伝えています。
「じゃあ、もしかしてあれは本当の宇宙人……。それとも……?」
神魂の影響かもしれない。
そう、風羽は思いました。
(鳥さんに相談すれば、解決方法が……わかりませんよね~……)
――空間を切り分けた。今のうちに何とかしろ。
テオの声がどこからか聞こえてきたのは、その時でした。
こんにちは、沢樹一海です。
神魂の影響でしょうか。
寝子島に、みかん宇宙人が侵略してきました。中の人はいません。真のみかん宇宙人です。
「み゛か゛ん゛う゛ぉ゛ぉ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」というテンションです。
いちごに支配される12月が許せないのかもしれません。
みかん宇宙人をマスコットとしているみかん農園のオーナー夫婦もこの事態におろおろしています。このままではみかんの人気が落ちてしまいます。本来、1月になればこたつの上で天下を取れるはずのみかんの人気のピンチです。
テオが時空を切り取り、今の寝子島は異空間となっています。
ですが、みかん宇宙人も、寝子島で暮らす一般の人もそのことには気付いていません。
気付いているのは、テオの声を受け取ったもれいびだけです。
―――――― みかん宇宙人の能力 ―――――――――
能力1:みかんビーム
両目からみかんジュースのビームが発射されます。ビームは、攻撃対象の目を狙ってきます。
能力2:みかん食わねえごはいねがー
どこかからみかんを召還し、相手の口に突っ込んできます。
突っ込まれるみかんは、勿論皮つき顔つきです。
しかも、みかん宇宙人の動機的においしくなければいけないのに、超すっぱいです。
皮は苦いです。
能力3:みかんパンチ
ぐーパンチです。
能力4:みかんキック
キックです。
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基本的に攻撃的ですが、言語もしゃべれます。一応意思疎通は可能のようです。
負けを認めると、宇宙人は宇宙(?)へ帰っていきます。
みかん宇宙人の数がある割合まで減る、みかん宇宙人が改心する、という状態になれば、みかん(顔つき)に変化したいちごはおいしいいちごに戻ります。
異常――まちがえた、以上です。よろしくお願いいたします。