月守 輝夜は、目撃した。
あの人、どこかで見たことがあるような――。
寝子高の教師だったかもしれない。
それが当たっているかどうかは別にして、実に教師らしい見た目の男性である。年の頃は三十前後か。
肩幅が広く、全体的に上背があるも体脂肪率の低そうなシャープな姿だ。ぱっと見アスリート風ではあるが、冷徹な印象を与える眼鏡と、やはり頭の回転の速そうななまなざしが、若手の研究員か教師といった知的職業を連想させた。
それもそのはず彼こそは、寝子島高校 1年2組担任にして数学担当、
桐島 義弘その人なのだった。
義弘はにこりともせず、ビシッとスーツを着こなした隙一つないいでたちでそこにいる。
そうして、子ども用と思わしき丸椅子に腰を下ろしている。
繰り返すが……にこりともせず。
舞台は、シーサイドアウトレットのイベントスペース。周囲は子どもたちでいっぱいだ。立って走り回るような低年齢層はあまりないが、それでもきゃあきゃあわいわい、大変な賑わいである。大人の男性もないではないが、それは幼児を連れてきた家族サービスパパばかりで、月曜日午前7時50分みたいなスーツ上下の義弘は、単身氷色のスポットライトを浴びているかのように異次元だった。
輝夜はイベントスペースにかけられた横断幕を見上げた。
躍る文字は『お三夜(みや)まつり じゅんびかい つくろう! ぼくの/わたしのオリジナルコスチューム! コーナー』。
……そうして改めて、賑やかな会場にあってパーソナルスペースを深海みたくしている義弘に目をやった。
あの人がハサミやノリ、紙テープで猫ちゃんの衣装をつくるところは、ちょっと想像がつかない。
けれど――彼、四角いテーブルに黄色の画用紙を置き、フェルトペンで何か描き始めているぞ!
あの男性が家族サービスをしているダディーには到底見えない。そもそも彼の子どもらしき姿が近くにない。ということはやっぱり、衣装を作りに来たのだろうか。
しかも独りで!?
「……!」
輝夜はどきりとした。あまりにじろじろ見すぎたのかもしれない。男性と視線があったのだ。
シャープなのは体つきだけではない。彼はその風貌も、紳士服チェーン『洋服の○○』の広告モデルみたいなハンサム顔だ。
「寄せれば、この場所には空きがあるぞ」
もしかして――。
衣装を作りに来た参加者と思われているのでは!?
どうやってごまかそう。
あるいは、いっそ……?
なおイベントスペースでは手作りのみならず、手っ取り早く衣装を買うことも、レンタルすることもできるのでご心配なく。(そもそも輝夜は衣装を作るためではなく、買おうと思ってここにやってきたのだった)
もうじきやってくる三夜まつりでは、
猫に関する格好での参加が求められるという。もちろん猫オンリーではなく、伝承にのっとって魚やネズミ、はたまたナマズに扮しての参加もオーケーだ。
あなたが衣装を求めてここに来たのか、それともたまたま、天文学的な確率で居合わせてしまっただけなのかは問わない。だがイベントスペースはあなたを拒まない。大いに、歓迎する!
買うか作るかそれとも借りるか、いずれにせよ、備えて三夜まつりを迎えようではないか。迎撃、しようではないか。
さあここにきて、あなただけの衣装を、あるいは有意義な休日を、人生を……をつかもう!
マスターの桂木京介です。よろしくお願いします。
以前、シーサイドアウトレットのイベントスペースでは【ハロウィン】パンプキン・ファンシードレス・キャンペーンという催しが開かれましたが、今回はその『三夜まつり』版といった趣旨になります。
あなたらしい衣装を買ったり作ったり、あるいはこの賑わいにうっかり巻き込まれてみたり新しい出会いに胸ときめかせたり……とさまざまな楽しみかたがあるでしょう。
こんなお話です
11月下旬、とある休日の一日が舞台です。午前10時ごろ(本作導入部はちょうどそのあたり)から、夜10時前後までを想定しております。
衣装作りや購入・レンタルを楽しむために来場した、というアクションだけではなく、偶然この場にいあわせてしまい、興味を引かれて、ないし、渋々参加してみる(させられてしまう)というアクションもウェルカムです。
あるいはイベント参加は口実で、激甘デートを楽しむというカップルさんも是非どうぞ。もちろん、激甘に持って行きたいけれどまだ恋人未満、というお方もゴーですよ。
基本、行動自由なのがPBWの楽しさです。素直に自分のしたいことを書いてしまって下さい。
イベントスペースについて
桐島義弘のいる場所はたまたま密集地帯でしたが、基本的には余裕のある空間ですので、自由に歩き回ることができるでしょう。
購入・レンタルのコーナーには試着室が完備されております。ここだけはちょっと待ち時間があるかもです。
ご存じの通り寝子島というのは仮装には大変寛容な土地柄ですので、買ったばかりの衣装をすぐ着て、そのまま練り歩いても問題ありません。着たまま帰宅してもまあ大丈夫です。
なお、仮装のまま食事を取れるフードコートも近くにあります。18時以降はアルコールも出るので、20歳以上の方はナマズの仮装で飲み会をしてみますか?
盛り上げよう! お三夜祭り
まだまだ全国的にはマイナーなお祭りですので、準備段階のこの時点から、にぎやかしめいた企画もあったりするとのことです。
本日限定の猫耳カチューシャを配るべく、ご存じ観光大使のサンマさんがウロウロしていますし、ハロウィンの仮装大会に登場してごく一部で人気を博したサンマさんのともだちかぼちゃさん(中身は、寝子高教師の相原まゆ。なにしてはるんですか)も猫耳をつけて踊っています。
アルチュール・ダンボーなる芸術科が、その場で段ボール製の巨大お神輿を作って展示する予定です。
本年度寝子島三夜まつりのテーマソングを、アイドルが唄うというステージも用意されています。そのアイドルは誰かって? もちろんあなたですよ。作詞作曲もお任せします。
NPCについて
以下のNPCが登場する可能性があります。
桐島 義弘:実は彼がいるのは子ども&ファミリー向けの制作コーナーなのです(別に大人だけの参加は禁止ではありませんけれど……ちなみに参加費無料)。思いっきり勘違いして参加してしまっただけで、中高生から大人向けの制作コーナーは別にあったりするのですが、彼は気付かずそのまま紙製の衣装作りを行います。
七夜 あおい:ハロウィンで衣装にお金をかけすぎてしまったため、三夜まつりは安価な手作りに挑戦予定です。
詠 寛美:例によって不機嫌そうに、義弘と同じテーブルにつきます。
相原 まゆ:着ぐるみ「かぼちゃさん」の中身をやっています。かぼちゃさんというのは、大きなカボチャのハリボテですが、手がないのでくねくねと踊ることしかできません。
鷹取 洋二と海原 茂:レンタルコーナーに登場。洋二はものすごく真剣にナマズの衣装を選んでおり、その洋二につきあわされた茂は、変な衣装ばかり勧められて顔をしかめています。
寝子 サンマ:サンマさんです。うろうろしていますのでお気軽にお声をおかけ下さい。「声をかけに来なくても俺からあいさつに行っちゃうぜ?」とのこと。
野々 ののこ:サンマさんにちょっかいを出しに行こうか、アイドルのステージを見に行こうか考え中です。
※ご注意
展開によっては登場しないNPCもあります。また、相手があることゆえ必ず希望通りの展開になるとは限りません。ご了承下さい。
NPCと行動を絡めたいかたは、そのNPCとはどんな関係なのか(まったくの初対面なのか知り合い程度なのか友人なのか等)を必ずご記入ください。よろしくお願い申し上げます。
文字数に余裕があればこれまでの経緯等も書いておいて下さると大変助かります。
それでは、あなたのご参加を心から楽しみにお待ちしております!
桂木京介でした。