なんなのだ、これは。
「勇者たちよ! ここに来たのは冒険を求めてのことだろう?」
あなたたちの前に立つのは白衣を着た男である。医療関係者ではなさそうだ。
たぶん青年だが年齢不詳気味、顔色は悪く眼鏡のレンズは分厚く、いかにも千円の床屋で切りましたと言わんばかりの絶妙に無難な髪型をしている。口元が妙にひくついているがこれは昂ぶった笑顔と、対人恐怖症が同時に出たものかもしれない。奇人変人のたぐいのようでもあり、中学校理科の教育実習生のようでもあり、はたまた怪しい店頭販売の達人のようでもあった。とにかく、ぱっと見で推し量るのが難しいタイプの人間であることだけは確かだろう。
「ようこそ、僕の研究室(ラボラトリー)へ!」
僕の名は、と妙なアクセントで白衣の男は語った。
「野上 歩(のがみ・てくる)! 時空物理学の第一人者にして将来のノーベル賞候補だー!」
とまで断言しておきながら、
「あ、ちょっと言い過ぎたかもしれない……」
ぽそっと付け加えていた。恥ずかしいなら断言するなよ。
まあいずれにせよ、あなたたちが思うことはだいたい同じだろう――何この人、怖っ!
場所は平日夜の映画館、格安料金のレイトショーが行われる一室、だったはずだ。
ちょっと懐かしい映画のアンコール再上映が行われるというので、来てみてみれば恐い蟹もとい、こはいかに、シアター内は大きく開けた緑のフィールドだったのである。振り返ってみれば、入ってきた両開きの防音ドアはもうない。ワープホールでも通り抜けたというのか。
屋外だ。真昼の草原、吹く風まで含めてすべて本物っぽくはある。それでも絶妙に嘘くさいのは事実だった。揺れる草はなんだかセロファン紙みたいにペラペラしており、足元もやけに平板だ。岩だってゴツゴツ度に欠けることおびただしい。
総括的に言えば立体物がぜんぶポリゴン風なのである。それも、1990年代後半ごろの家庭用ビデオゲームみたく安い感じの。
あっけにとられたあなたたちの前で、ポリゴン岩のポリっとした岩肌によじ登る姿があった。それこそ、白衣姿の怪しい青年であった。
そうしてここで巻頭言に戻ろう。
「勇者たちよ! ここに来たのは冒険を求めてのことだろう?」
白衣の男(野上歩)はそんなことを言ったわけだが、
「いや全然ちがうし……映画観に来ただけなんだけど……」
というイマイチなレスポンスが来て口を『へ』の字型にしたものの、めげず続けた。
「そんな勇者な諸君のために、ここに冒険の依頼を用意した。依頼というのはそう、RPGの定番『ゴブリン退治』だ! 思い思いの武器を手に、めくるめくファンタジックアクションバトルを繰り広げるといい! どうせここは時空物理電脳空間……要するに懐かしい言葉で言う『バーチャルリアリティ』の世界だ。思う存分やってくれたまえよ」
言っている意味がわからない、という声を無視して歩はその異様なトークをゴーズオンするのである。
「これは僕の実験だ! いいや、僕たちの実験だ! こんな日にこの映画をチョイスした寂しい君たちなら、この世界を思う存分楽しむことができるだろう! いわばコンピュータRPG、それもアクションロープレの世界! 『初級コース:ゴブリンの洞窟』で楽しく遊ぶもよし! 『上級コース:ゴブリン女王の魔神殿』の制覇を目指すもよし!」
なに言ってるの? というツッコミが飛ぶも、突如歩は白衣をはためかせ岩から飛び降りた。
危ない!(物理的な意味で!)と声が上がるもつかの間、白衣の科学者は忽然、姿を消したのである。空中に飲み込まれたよう、と表現するほかない。それも、ブロックノイズみたいなチカチカした消え方で。
そのかわり岩が分水嶺のようになって、ゆくてに二つの構造物が出現したのだった。
ひとつは、巨大な岩山と、そこにぽっかりと口を開けた洞窟の入り口。いかにもコウモリが出そうだ。
もうひとつは、白い岩を切り出して組んだような建造物。アステカ文明っぽいが明らかにインチキな装飾が施されており、マヤ風とかアステカ風がすごくいい加減にミックスされている。なるほどあれが魔神殿だろうか。
おまけに目の前には『ぶきや』という看板が下げられた丸太小屋まで現れた。ファンタジー世界にやたらと木造の建物が出てくるのが日本のRPG風だよね……などと皮肉を言うより先に、ここで装備品を整えたほうがよさそうだ。
たしかにこの大ざっぱさは、昔のアクションRPGらしいものである。
洞窟にせよ魔神殿にせよ、どちらかを制覇してこの世界から脱出せよ――というのが、あの歩とかいう青年からの挑戦なのだろう。
これは、映画を見ている途中で眠りこけてしまって見ている夢かもしれないし、いわゆる神魂のしわざかもしれないし、ひょっとしたら歩の言うように、時空物理がどうたらこうたらして出現した電脳リアリティかもしれない。まあいずれにせよ、この道楽に付き合ってもいいな、という気にあなたはなった。
かくして、あなたたちの冒険が幕を開けたのである。
その結末がどうなるかは……誰も知らない。
なお上映予定の映画は、カルト作として一部好事家にのみ愛されているB級ファンタジーアクション『クイーン・オブ・デストロイヤー3』であったという。(どうでもいい情報)
こんにちは! マスターの桂木京介です。よろしくお願いします!
こんな変則的な話ですが、初心者歓迎なのは本当です! もちろん熟練のかたもどうぞ!
こんなお話です
レトロコンピュータロールプレイングゲーム(1990年代中頃くらいのイメージ)、しかもアクションゲーム風世界で、ちょっとユルかったり理不尽だったりしながらも活劇を、ポリゴンが剥げたりしながら行うというお話です。
初級コースと上級コースに別れていますので、どちらかを選んで進んでみてください。
展開について
最初に武器屋で武器や防具を選びます。
中世ヨーロッパ風ファンタジーRPGに『ありそう』な武器・防具なら大抵そろっています。ただしどれも、妙にリアリティのない造形です(昔のコンピュータゲームですので)。もちろん実弾兵器とかはないので『レイピア』とか『ニンジャソード』とか『ドラゴンアーマー』とか、世界観にそう装備品を勝手に選んじゃって下さい。
※指定がなければ自動的に『銅のつるぎ』と『革の鎧』になります。
いかにも魔法が出てきそうなお話ではありますが、残念ながら『ひと』は魔法を使えません。『もれいび』は自身の『ろっこん』を魔法だと言い張ることで対応するものとしてくださいませ。
あとは、『こういう冒険がしたい』『こういう謎を解きたい』といったアクションをご呈示いただけると、それに添って桂木が話を編み上げていきます。
日常系ゲームにはどう入ったらいいのかわからない、いや、そもそもこういうゲーム(PBWeb)のことがよくわからない……という初心者のあなたを歓迎する目的で作っておりますので、適当に暴れるだけでも活躍できるよう話を組むつもりです。それどころか「わけのわからないところに来てしまってオロオロしている」だけでもOKです。
特に『初級コース:ゴブリンの洞窟』を選んだ場合は、どう転んでも失敗しないシナリオ運びにしたいと思います。
ゴブリン!?
敵として登場しますが、一般的なファンタジーゲームで出てくるような小鬼ではなく、ハンドボール大の緑色の球体に短い手足とまん丸な目が二つ、それと四角い口がついているだけのトボけた顔の連中です(鳴き声は「ヤー」)。
棍棒などの粗末な武器で襲ってきます。剣や弓矢で攻撃するとパチンとはじけて消えます。そのたび『10pts』とかスコアが表示されますが、このスコアには特に深い意味はありません。
初級コースにはあまりいませんが、上級コースには大きくてちょっぴり強い『ホブゴブリン』などの亜種がいます。
ゴブリンにやられて死んだりはしません。あまりボコボコにされるとゲームオーバーとなり、強制的に現実世界へ帰還することになります。
【ゴブリン女王】
なぜか相原 まゆ先生がノリノリで悪の女王をやっています。
※相原まゆと、首謀者(?)の野上歩以外のNPCは出ない予定です。
アドバイス
戸惑うにしろあっさり受け入れるにせよ、異世界の冒険というその場限りのシチュエーションで思う存分、あなたのキャラクターを動かしてみて下さい。
全然わからないっ、という人は、言わせたい台詞をざーっと並べるだけのアクションでも大丈夫ですよー。
偶然一緒になった同士で結構ですので、即席のパーティを組んで行動するといいかもしれません。
それでは、あなたのご参加を心から楽しみにお待ちしております!
桂木京介でした。