時刻表で巡る旅　――妄想編――｜リアクション

時刻表で巡る旅　――妄想編――

◆後木真央＆八神修　～とにかくリッチに～

　新聞部部室。部長の修は、ノートPCの前に座って熱心に記事を作成していた。
「少し文字が多いか？　絵が欲しいな」
　写真ファイルを開こうとする主人のお邪魔虫をするのは、愛猫のミルクである。隙あらばキーボードを踏んで、存在アピールをしようとするミルクをひょいと抱き上げて、喉の下を撫でる。
「退屈か、ミルク。もうすぐひと段落つくから、そうしたら」
　言い終わらぬうちに、部員であり友人の真央があわただしく駆け込んで来た。

「修ちゃん、ヘルプなのだ～！！」
「真央、どうした？」
「やっぱり１度は真央ちゃんちに遊びに来てほしいのだ頑張って新幹線使えば遠くないのだ♪　って思って調べたのだ、でも新横浜→名古屋→内海→バス→師崎港→高速船……バスと船で車椅子だと移動厳しいのだ撃沈なのだぁ！」
　背もたれを揺すりながら、唐突な内容を早口で訴える真央。
「車椅子……ああ、千代子夫人か」
　星ヶ丘に住むマダム千代子。病の床にある彼女を、二人は機を見ては見舞っていた。
「そうなのだ元気になったら一緒に行こうと思ったけど調べたらあれぇだったのだショックなのだ。多幸と福の島だから1度マダムちゃんや薫ちゃんにも来てほしかったのだ計画狂ったのだ～」

　ついに床をゴロゴロ転がり始めた真央を、修が宥めた。
「日間賀島かな？　そういえば真央は、海の生まれだっけ」
「小さいけどいい島なのだでもこの辺で知ってる人あんまり多くないのだ流石は修ちゃんなのだ♪」
　愛知県に属する離島、日間賀島の経済は、蛸やトラフグなどの水資源や、観光をメインに成り立つ。
　どこか寝子島に通じる所があるなと、修は思った。
「にゃふぅ……寝子島でも美味しいお魚食べられるし無理な計画しない方がいいのだ……？　たこ飯は真央ちゃんがここで作っても良いのだ」
　食キングを自称する真央は、食の求道者で、事あるごとにその腕前を披露してくれていた。
　そんな真央が新鮮な海の幸を使って、腕を振るうなら、美味しくならないわけがない。
　けれども、しょんぼりと肩を落とした友人に、修は顎に手を当てて逡巡した。
「旅行か、それもいいな」
「先立つもの欲しいのだ宝くじ当たればいいのに……って買わなきゃ当たらないのだ」
「いっそ二人で、全部買い占めようか？」
　おどける修を、真央は思わずミルクをぎゅっと抱きしめて、二度見した。
「おぉぅ！？　修ちゃん本気で言ってるのだ？」
「はは、勿論ジョークさ。収入と支出の割が合わないからな」
　腕の力を緩めた真央の鼻先を、ミルクがぺろりと舐めた。
　再び興奮する真央をよそに、修もすっかり休憩時間に入ってしまったようで。
　悪戯っぽい瞳でPCを操作すると、画面に大きく表れたのは、九州のクルーズトレインのページ。
　堂々たる風格に、うんと頷いて。修は真央を振り返った。

「折角だから部の皆で、貸し切って九州一周はどうだ？」