【バレンタイン】学生達のValentine's Day!｜リアクション

【バレンタイン】学生達のValentine's Day!

●粒チョコと幸せと

　３年２組の教室に着くと、曖浜瑠樹は早速こっそり持って来たチョコレートの大袋を開いた。
（今日はバレンタインだからねぇ）
　そう、瑠樹はクラスメイトに友チョコを配ろうというのである。
　これは、瑠樹の精一杯。
　一ヶ月千円のお小遣いで、先生とクラスメイト全員にどうやってチョコをあげるか必死に考え……チョコレートの大袋という結論に至ったのである。

「他のクラスの子には、内緒だよぉ？」
　瑠樹はこっそりとクラスメイト達の手のひらにチョコを１粒ずつ載せていく。
　クラスメイト達の反応は様々だ。「ありがとう！」と笑顔を見せる子や、「えー、少ないー」なんて文句を言う子。それでも瑠樹は、
「ごめんなぁ」
と謝りながらも、男の子にも、女の子にも、いつものにこにこ笑顔で配っていく。だって、みんなみんな大事なお友達なのだ。

（……後は先生に残しておけばいいかなぁ？）
　無事クラスメイト達にチョコを配り終え、席に着いた瑠樹は大袋を覗き込む。その時声がかけられた。
「曖浜」
　瑠樹が顔を上げると、机の横に桃井かんながちょっとそっぽを向いて立っていた。
「あー、桃井さん。あれ？　オレ、桃井さんにチョコあげなかったかなぁ？」
　全員に配り歩いていたせいでよく覚えていない。あげそびれていたら大変と大袋に手をつっこもうとした瑠樹を、かんなが慌てて止めた。
「ち、違うって！　曖浜からはもらった！　……ありがと。その、だからこれ」
　ずいっとかんなが片手を出す。その手には可愛らしくラッピングされた小さな包みが握られていた。
「桃井さん、チョコくれるのぉ？」
　瑠樹は驚いて目を丸くする。彼はチョコを配りこそすれ、自分が貰うという事は全く頭になかったのだ。
　瑠樹の驚き顔にかんなはもう完全にそっぽを向きながら顔を赤くして口を尖らせた。
「べ、別に最初から用意してた訳じゃないんだから！　たまたまよ、たまたま！」
　つっけんどんなかんなの言葉に、瑠樹は満面の笑顔で答えた。

「わぁい、嬉しいねぇ……ありがとうなぁ！」
「！　ば、ばっかじゃないの！　たまたまって言ってんじゃん」
「ううん、桃井さんのチョコ、オレとっても嬉しいよぅ」
　にこにこにこにこ。
　瑠樹の笑みにかんなの顔はますます赤くなる。
「……と、とにかく渡したからねっ」
と小さく言うと、かんなは小走りに自分の席に戻ってしまった。
　瑠樹はかんなから貰ったチョコを、大事に大事にランドセルにしまった。持って帰っておいしく食べようと思ったのだ。
　と、ガラリと教室の扉が開いた。
「はーい、席に着きなさーい」
　担任の先生の登場である。
（……先生にはいつ渡そうかねぇ）
　瑠樹は机に入れたチョコの大袋をこっそり触りながら微笑んだ。

　この後学校にいる間中、瑠樹はいつにも増してふわふわほわほわしていた。
　ランドセルを見るたび、嬉しさで心が一杯になってしまうのだ。
　授業中でも考えてしまう。
（ホワイトデーのお返し、何がいいかなぁ……？）
　給食当番でも上の空でおかずをよそってしまい、とうとうクラスメイトに「大丈夫か？」と声をかけられてしまった。
　瑠樹はトングを持ってにっこり笑った。
「大丈夫だよぉ、ちょっと幸せなだけー」

　お返しを考える自分が幸せな気持ちになるのはなぜだろう。
　不思議だなと思いながらも瑠樹は一生懸命考える。
　桃井さんが喜ぶ物は何かなぁ。オレは何をあげたいかなぁ？　そうだ、帰ったらノートに色々書いてみようっと！
　ほわほわ。ふわふわ。
　幸せな気持ちで瑠樹は給食をよそう。
　本日の３年２組の給食は、幸せの隠し味付きとなった。

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