【星幽塔】酒場にて　→飲む　→話す　→外に出る　→脱ぐ｜リアクション

【星幽塔】酒場にて　→飲む　→話す　→外に出る　→脱ぐ

【星幽塔】イチオシはクッキー

　城下町の大通りを２人の女の子が楽しげに歩いていた。

「これで拠点ゲット！　ですねー。ほんとに住むことになるとはなー」
　屋敷野梢が石畳をスキップをしながらくるりと連れの方を見る。壬生由貴奈が彼女にのんびりと笑った。
「そうだねぇ。こんなゲームの中みたいな世界で生活が始まると思うと、なんだかんだワクワクしちゃうよねぇ」
「ですねー。あ、私寝室は別々がいいでーす！　寝相も悪いし結構遅くまでごそごそしてますしー」
「了解。それじゃあ寝室は別々にしよー」
　彼女達は別にホテルに泊まる算段をしている訳ではない。この異世界での住居の話をしているのだ。

　ステラの竜退治の声が聞こえてこの異世界に飛ばされて来た彼ら。だったらもう住居を構えちゃお！　ついでにお店も開いちゃお！　という訳で、手頃な２階建ての空き屋を見繕ったのだ。１階部分は店舗、２階部分は２人の共同住居にする予定だった。
　この契約でだいぶ手持ちの物を渡してしまったが、お店をやるにはまだまだ必要な物がたくさんある。由貴奈と梢は散策を兼ねて大通りに買い出しに来たのである。

「取り急ぎ店の方はクッキーを焼けるようにしたいなぁ。調理器具とオーブン、小麦粉とか色々材料も欲しいねぇ」
　つらつらと考えながらも由貴奈が言葉を続ける。
「そうだ、ついでにパンも焼けるようにしよっか。売り物がクッキーだけじゃ寂しいし、パンもあればベーカリーって名乗れるようになるよぉ」
「おお、ベーカリー！　いい響きですねー」
梢は元気に言うと、背中に担いでいる大剣をくるりと由貴奈に見せた。
「私に宿ったのは剣士の光！　ふふん、お店の用心棒、頑張っちゃいますよー！　その辺のならず者なんてこのクレイモアでクリティカルヒットですー！」
「空き屋が多い地域だとならず者も来るかもしれないし、こずえちゃんみたいな用心棒がいると頼もしいねぇ」
　安心安心と頷く由貴奈の横で、腕を組みながら小さく梢が呟いた。
「……もし何もないときは脛かじりにならないように、定期的にならず者を雇って……」
「―――こずえちゃん？」
　由貴奈の目がすっと細められる。「やだなぁ冗談ですよアハハハハ！」と梢が後ずさりした。

　梢が薬用の植物図鑑が欲しいと言うので２人が本屋を探して歩いていると、思いもかけない人物に出会った。
「あれ、卯木君ー？」
「え、うーちゃん？」
　梢と由貴奈が口々に叫ぶ。人影がその声に答えた。
「おー、梢くんだ！　あれ、由貴奈さんもいるー」
　それは２人の知人の卯木衛だった。彼の隣にいた来島アカリもペコリと２人に頭を下げる。４人は思いがけない出会いを喜んだ。

「え、うーちゃん達宿屋するの？　うちらはベーカリーやろうと思ってるんだぁ」
「へぇ、凄いですね！」
　現状を伝え合うと、お互いの店があまり遠くないことがわかり、ますます話が弾む。すると梢の目がキラリと光った。
「卯木君、宿屋の食事にパンはどうかなー」
「え？」
「壬生先輩はクッキーも作る予定だし、私ハーブティーなんかも試してみようかと思ってるんだよね－。お茶、大事だよー？」
　突然の展開に戸惑う衛に、アカリが苦笑しながら囁いた。
「……営業かけられてるんだよ、卯木」
「ご名答！　来島君」
　パチンと梢がウインクをする。４人は思わずアハハと笑い合った。

　詳しい話はまた後日という事で、衛とアカリは準備のために宿屋に戻り、由貴奈と梢はまた大通りを歩き始めた。
「お得意様も捕まえられそうだし、何だか忙しくなりそうだねぇ」
「ほんとですねー、頑張らないと！
　どうやら異世界での暮らしも順調に進みそうだ。２人の心も知らず知らずに弾んでくる。するとふと何か気が付いた梢が由貴奈に言った。
「お店が忙しくなると、２人でやるのはキツいかもですねー。バイトさん探してもいいかもしれませんよねー」
「確かにそうだね……今度の城攻めのときに、誰か女の子を勧誘してみよっか。そこでうちらの名声を上げれば、きっとお店も繁盛するだろうしねぇ」
「そしたら周りの商業施設とタイアップしてみたりして！　夢が広がりますね！」
「うんうん、楽しみだねぇ」
　異世界での小さな足がかりが、どれだけ大きくなるだろう。それにはまず、この暗い空に太陽の光を呼び込んでからだ。

「……城攻め、頑張らないとね」
「ハイ！」
　気持ちが引き締まる２人であった。