「結局のところ、この世はラーメンみたいなモンなのさ」
と、その男は言った。
旧市街、真昼の賑やかな大衆食堂でそのボサボサ髪の男は、ズルズルとラーメンをすする。湯気をかいくぐって、深いコクを持ったスープの味わいと共につるりとした喉越しを与えてくれる細麺が、口の中に次々と飛び込んでいく。少しこけた頬をモグモグ動かしながら、喋り続けた。
「いや、みたいなモンどころじゃない……ラーメンそのものだな、世の中ってヤツは。それともひょっとしたら、ラーメンが世の中――人生――世界ってヤツなのかも知れない。ラーメンが世界なのか、世界がラーメンなのか……」
ビジネスには向かないブラックカラーのヨレヨレになったスーツを着たその男は、チャーシューをかじりながら語った。薄いながらもしっかりとした噛みごたえを感じるチャーシューだ。
確かな味のラーメンと対比して、その男が何を言っているのかはさっぱり分らない。ただ困ったことに、ずり落ちたサングラスの奥の視線は真剣そのものだ。
「ああ……悪いな」
ネクタイをゆるく首に巻いたその男は、残ったスープを一気に飲み干して、テーブルに置かれたボックスからティッシュを1枚抜き取って鼻をかんだ。水が入ったガラスのコップもついでとばかりに空にして。
「学生さんにゃ難しかったか……。ところで、ネコを見なかったか」
この寝子島で猫を見ないで一日を過ごすことは、けっこう難しいのではないだろうか。
うっすらと剃り残した無精ひげを撫でながら、その男は懐から一枚の写真を取り出す。それは疑う余地もないほどに猫だった。
「すまんすまん、特徴はこんなネコだ……見覚えないか」
よく見るとサングラスの向こうには、意外と深い彫りとくっきりとした二重まぶたを確認することができる。
顔の造形だけ見るとひょっとしたらイケメンの素質を持っているのかも知れないその男は、手にした紙の裏側に携帯電話の番号を書き写した。黒地に少しだけ金のラインが走る、ちょっとだけ高級そうなボールペン。猫の写真と交換に紙を手渡す。
「そのネコを探している。もしソレっぽいのを見かけたらそこに電話してくれないか」
その細長い感熱紙を表替えすと、近所のスーパーのレシートだった。缶コーヒー、81円。
踵の磨り減った黒い革靴をシワの寄ったスラックスの裾から覗かせたその男は立ち上がり、伝票が風で飛ばないように勘定を文鎮のように置く。ついでに鼻をかんだティッシュをレジ横のダストボックスに放り投げた。ナイスシュート。
「まぁ、気が向いたら頼むぜ学生さん。……え? ラーメンの話はどうしたって?」
その、ボサボサ髪でヨレヨレのブラックのスーツを着てネクタイをキッチリ締めない無精ひげを剃り残した顔の造形だけはイケメンの靴だけは良く手入れされてピカピカの全体的に残念な四十がらみの男――私立探偵、天利 二十(あまり にとお)はスーツから煙草の紙箱を取り出した。美しい濃紺を背景にした、黄金の猫のエンブレム。
火をつけずに1本咥えた。口角を上げずに、くっと笑う。
「女子供にゃわかんねぇよ」
下手な笑顔だった。
初めまして、まるよしと申します。
今回新しくゲームマスターとして登録いたしました。
皆様の日常生活の隙間をちょっとした出来事で埋めるお手伝いをしたいと思います。
今後とも、よろしくお願いします。
◆今回は日常シナリオです。
特に特殊な事件などは起こらない(予定)の、のんびりとした日常シナリオの予定です。寝子島の雰囲気や皆様の日常生活がどのようなものであるか、ぜひ教えていただきたいと思います。
時間帯と場所は金曜日の昼から夜、深夜を経由して土曜日の朝までの旧市街を予定しています。こういう時間帯に皆さんは何をして過ごしているのでしょうか。学生PCであれば旧市街に遊びに来ているかもしれませんし、社会人PCであれば旧市街に仕事やお店があるかもしれませんね。
◆私立探偵 天利 二十について。
旧市街の古い雑居ビルに自室兼事務所を構える私立探偵で、寝子島に移り住んでまだ数年のようです。見るからに胡散臭いこの男ですが、意外と細かい依頼を受けています。
その理由は、彼がまともに依頼料を取らないからです。
学生の小遣い程度の金額か、何らかの軽い約束でしか報酬を受け取らないので、よく近所の子供や高校生から相談を受けたり、探し物をしたりしているようです。もちろん、旧市街の住人からも細々と仕事(?)を受けています。
ゆえに、仕事をしているワリに金回りは悪いです。
ボロい国産の軽自動車を所持しています。
『学生さん』『店主』『お嬢さん』など、相手の名前を呼ばず、肩書きで呼ぶ癖があります。
今回の彼は迷子になった猫探しの依頼を受けているようです。皆さんのところに情報を求めて接触してくるかもしれません。
◆依頼人になることができます。
天利に猫探しの依頼をすることができます。設定上猫を飼っているPCであれば、姿が見えなくなった愛猫を探したり、心配したりする様子を楽しむことができるでしょう。
また、探すのは必ずしも自分の飼い猫でなくとも構いません。犬や鳥、いつも見る野良猫を最近見ない、など適当な依頼を作ることができます。
結果として複数の依頼人が現れてもおそらく問題ありませんので、ご遠慮なくどうぞ。
◆猫を探すことができます。
天利に接触を受けたPCは、その気になったら天利を手伝うような形で猫を探してみても面白いかもしれません。猫は街のあちこちを自由に走り回りますので、捕まえるためにPCのろっこんを使用して特殊なアクションを楽しむことができるでしょう。
また、天利が探している猫(犬、鳥など)を見かけたことにしても構いません。その場合、天利か猫を探すPCに情報提供を行うことができます。
◆ラーメン……?
天利は仕事をする時、(ガイド冒頭のような)彼にしか理解できない理論で行動します。端から見ると遊んでいるように見えるかもしれませんが、そうすることでいつの間にか依頼や事件が解決したり、収束する方向に向かっていったりします。
これが彼の何らかの能力によるものなのか、技術によるものなのかは不明です。聞いても、まともに返答はしないでしょう。
それが今回はラーメンであり、彼はあちこちでラーメンを食べ歩くことでしょう。寝子島のオススメラーメンやラーメン屋さんがありましたら、ぜひ教えてください。
◆その他
キャラクターの台詞によるアクションを交えてくださると、キャラクターの雰囲気を掴みやすいです。
もちろん、猫探しとは関係なく旧市街で独自の日常を過ごしても構いません。
物語の主役は、PCの皆様です。
皆様の楽しいアクションをお待ちしています。よろしくお願いいたします。