「……ねぇ、知ってる?」
正月特有の気だるさも取れてきた、ある日のことだ。
学校帰り。
キャットロードを歩いていた時に、耳に入ってきた女子高生のたわいもない話。
少し前にも聞いた声のような気がする、そんな会話。
「面白い喫茶店が、この辺にあるんだって」
「あー、あのなんか入れる人と入れない人がいるってやつ?」
すぐ後ろを歩いているらしき彼女らの、声のやりとりに、ほんの少し、意識が向いた。
「あれでしょ、なんかやたらイケメンの坊主?」
意味がわからん。
「え、私よぼよぼのお坊さんだって聞いたけど」
……寺と聞き間違えたかな。
「それでね、聞いた話だと過去だか平行世界だかに行ける扉があって――なんかそこでやりなおしができる、みたいな?」
「あやふやー」
片割れが呆れた声を上げる。
「わかんないっていったじゃん! でね、フツウは喫茶店なんだけど、お坊さんが扉へ案内した人は――あ、ここだー! 昨日言ってた美味しいパフェの店!」
「お、まじで!? イケメン坊主いるかな!」
「ここじゃないってばー!」
相変わらず、話の途中で消える子達だな……。
気になって振り返るも当然そこに先ほどまでいたはずの女子高生たちの姿はなく。
俺もどっかに入るかな――。
ふと周りを見渡すと、初めて見る通りがあった。
――こんな小路があったんだ?
気まぐれで、その小路へ入る。よく知っているはずの学校帰りの道のはずなのに、不思議と一つの店も見覚えがない。
歩いていると、不思議と喉が渇いてくる。
ニャア、と小さな声がした。
猫……?
鳴き声のした方に目をやると、猫の姿はない。
代わりに「珈琲 紅茶 600円~」と簡素なメニューが書かれた、三角足のブラックボード看板が足元に置かれているのが目に入る。
目線の高さへ戻した視界には、横書きに達筆で書かれた店名が飛び込んできた。
回向亭
――まさか、ね。
カラン、と音を響かせ入った俺の目に入ったのは、2人かけのテーブルセットが二つ、少し高いスツールが並んだ4人ほどが座れる幅のカウンター。
そして、作務衣を来た、坊さんだった。
イケメン、でも爺さんでもなく、どことなく老成した感じを抱かせるものの、40代を少しすぎたばかり、に見える坊主が一人。
「おや、いらっしゃい。――何にするかね? 珈琲も紅茶もおすすめだよ……それとも、――幼いころに戻りたい、かな?」
……なんでそれがわかるのか、というのはきっと無駄なんだろう。
「ここに来たんだ、一通り説明してやろう。扉をくぐるかどうかは、お前さん次第だよ」
すべてを見透かしてくるような、深海の底の色の瞳が、包み込むような視線を向けてくる。
とりあえず、珈琲でも頼みながら聞くとしようか。
こんにちは、あるいはこんばんは。
二つ目のシナリオをご提供させていただきにまいりました。
喫茶「回向亭」では二つの趣向をお楽しみいただけます。
アクションにおいては冒頭において、1、もしくは2を記載ください。
両方の合わせ技は内容が薄くなってしまう可能性が高くございますので、
片方のみで、よろしくお願いできればと思います。
(1)マスターとお話
うっかりお店に出会っちゃったあなた。
紅茶や珈琲を楽しみながら、マスターとお話しすることができます。
ただこの坊主、入ってきた人によって見える年齢が違います。
20代のイケメンであることもあれば、老人であることもあります。
何か悩みを相談すれば、何かしらの道を指し示すことがあるかもしれません。
単にうまいコーヒーの淹れ方を教えてくれるだけかもしれません。
お話したい内容をアクションに記入いただくとともに、
特段の希望があれば、どのような指針を示してほしいのか、
プレイヤーの目的・意図の欄でも結構ですし、行動・手段の欄でもいいのでお聞かせください。
(2)扉をくぐって望む自分の姿を垣間見てみる
過去の選択を後悔しているのでそこへ戻りたい、
あるいは過去を覚えていない、
あるいはこうだったらよかったのにとそもそもの自分の生い立ちのパラレルを見たい
あるいはまったく全然別の世界に生きてる自分をみたいというあなた。
マスターの説明を聞いたこととして、扉をくぐることができます。
なお、リアクションにおいては扉をくぐった後のif世界が描かれます
「いつの時期のことか」「どんな状況か」「扉の先の自分は、こちらの自分と何が違うのか」
を必ずお書きください。
グループで参加されても結構ですが、その場合お二人のアクションに矛盾の生じない範囲内で、最大公約数の描写となると思われます。
そのうえで、何らかのきっかけで必ず現実世界へ戻ってきますので、「何がきっかけで現実の世界へ戻ろうと思うのか」を記載してください。
また、PC様の設定に係る登場人物は、イメージをプレイングの末尾などにおいてお伝えいただければと思います。可能な限り対応したいと思います。
※参加していないPC様は登場できません。また、参加されているPC様でも、GAとして指定されていない限り、基本的に登場いたしません。
基本的に坊主マスター相手に妄想として語っていただき、それをもとにマスターが四方山話をすることとなります。
(例:●○さんと恋人になった未来がみたい! →●○さんがGAで対応するアクションを書いていると判断できない限り、上記取り扱いとなります)
※登録されているNPCは正式名称で指定してください。
記載がない場合、「その世界で寝る」などの描写がされて意識を失った際に、気づくと扉の前に戻ってきている描写になります。
(※必ずしも扉の向こうでは1日しか過ごせないわけではありませんが、描写として意識を失うのは極力1度とする想定です。いわば夢を見ているような状態となります)
現実世界とは全然別の、夢想する世界に過ごしてみることも可能です。
ただし、らっかみや現実世界とまったく異なる世界観の場合、アクションでイメージがどれだけ伝えていただけるかどうかによってブレ幅が大きくなると思います。
根本的にPCとPLとGMの想像力の限界が、異世界ないし夢想世界の限界となろうかと思います。アドリブ分も多めになると思われます。
そうした世界にいるPCの姿を希望される場合は、その点ご了承の上ご要望いただければ幸いです。
基本的に、扉の向こうは夢の世界と思っていただいて構いません。
過去の再体験も可能ですし、未来にこうなっている自分の姿! でも結構です。
ただ、「何のためにその世界で生きているPCが見たいのか」、それをしっかりお伝えいただければそこに重点を置いて補完も可能かと思います。
なお、お店は一度店の外に出たら、振り返っても何もありません。むしろ元々いたキャットロードの一角に立っています。
運命が許せば、また再訪も可能かもしれませんが……。