杏仁豆腐日和｜リアクション

杏仁豆腐日和

　突然現れた赤い髪のお兄さんは、お姉ちゃんと同じくらいの年に見えた。
（でもなんだか頼りなさそう……）
　奏子は思う。
　体はそれなりにたくましいけど、眠そうな目だし、話し方ものんびりしている。
（ドラゴンと戦えそうには見えない……）　
　
　幸い杏仁ドラゴンは襲ってくる様子はない。
　日向は慌てずプールに近寄り、指で水面をすくってとりあえず一口。
「うん、杏仁豆腐だ」
　食べながら対策を考えることにした。
（神魂の影響かな……話では寝子高の豆腐プール事件は聞いてたけど、僕は立ち会ってなかったんだよね）
「杏仁豆腐は好きだしホットケーキやパンがあれば長く美味しく楽しめるんだけどなー、問題は量か……加工するにも豆腐と違って甘いから味変もしにくいし、加熱したら溶けるから、最終手段は飲むとか冷やしてアイスにするのもいいかも」
「食べることばっかりね。その前に」
　呆れた様子の奏子に、日向は答えた。
「うん……どうやって運ぶかが問題だけど」
「そうじゃなくて！」
「ああ、杏仁ドラゴンもいるし何とかするのが先決かな。でもどうやったら倒せる？」
　あれこれ考えるが、日向のろっこんは戦闘向きではなく、とっさにいい考えが出てこない。
「ボディが杏仁豆腐なら体当たりをかましたら案外簡単に倒せるんじゃない？」
「なるほど」
　奏子の案に頷いた日向だが、のんびりした様子は相変わらずで。
「やってみる！」
　思い立ったら即実行、というわけで奏子は言うなり走り出した。
「え、ちょっと待って危ない！」
　日向は止めたが、奏子はすでに杏仁豆腐の上にいた。
　固まった水面は奏子の体重ではさほど沈まないようだ。
「えいっ！」
　突撃をかましてみたが。
　ビュー！
「わっ」
　口から吐き出される杏仁豆腐の塊に危うくぶつかりそうになり、よけた拍子に足元の杏仁豆腐がつるんと滑る。
「うわ、足元が」
　体重がかかった杏仁豆腐はぐずぐずに崩れ、結構攻めづらい。

「大丈夫か？　今行く！」
　日向は服を脱いで、ボクサーパンツ一枚でプールに飛び込んだ。
　半分くらい杏仁豆腐に沈みながら、かき分けてドラゴンへと向かう。
　奏子が無事なのを確認して、日向はまっすぐドラゴンを見つめた。
「ねえ、暴れるのはやめてほしい。ここじゃ子供たちがケガをしてしまう」
　ダメ元で声を上げ、杏仁ドラゴンに訴える。
　だが反応はない。
　こちらの言葉は通じないのだろうか。
（言うこと聞かないなら、手近なホースで口を括って大人しくさせるか）
　そう考えた日向だが。
（でも妹や低学年の子には見せたくない姿だよね……どこかに隠さないと。というか僕も隠れないと……かな！？　先生に見つかる前に）
　しばらく時間が経っているから、そろそろ先生も駆けつけてきそうだ。
（兄だから大丈夫のような気もするけど……）
　日向はホースを取りにプールを上がろうとする。
　その動きを、ドラゴンが追ってきた。

　転んで杏仁豆腐まみれになった奏子だが、スク水姿なので気にしないことにする。
　気にすべきなのかもしれないが。
（ドラゴン放置しても埒が明かないし）
　プールサイドに近づいたドラゴンを見て、急いでプールから上がり、背後に回って思い切って助走をつけた。

　その様子に気づき、日向は焦る。
「無茶だ！」
　手に取ったホースを振り回し、ドラゴンの首を薙ぐ。
「グアッ！」
　日向の攻撃によりドラゴンが揺らぐ。
「えいっ！」
　その隙に、奏子が後ろから体当たりをかました。
「グアア……！」
　小さな叫びと共に、杏仁ドラゴンの体がトロトロと崩れていった。

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