【星幽塔】第一階層　お花見しよう♪｜リアクション

【星幽塔】第一階層　お花見しよう♪

「……ん……」
　ティオレ・ユリウェイスは屋根裏部屋で目を覚ましました。
「外が騒々しいな」
　裸で寝るのが習慣のティオレは、髪をかき上げながら一糸まとわぬ姿でベッドから降り、外の様子を見ることにしました。
　冬の間はさすがに寒いですが、最近はすっかり暖かくなっており、窓からは花の甘い香りが漂ってきました。
　サジタリオ城下町の裏路地に建つ集合住宅から窓の外を眺めると、いつもより多くの人々が行きかい賑わっています。
「ああ、そういえば『花まつり』だった。忘れてた」
　ゆうべも遅かったのでもう少し寝ていたかったのですが。
（こうも騒がしいし目が開いたらどうにもならない）
　そんなわけで城下町の西側にある公衆浴場で身支度をして、適当に着飾り、城下町をぶらぶらすることにしたのでした。

（ブランの花が咲き誇っている）
　並木通りを歩くと目に飛び込んでくる、樹に咲いた白や桃色、黄色の花。
「こうして花を愛でるのも悪くないねえ」
　甘い香りを放つ満開の花を眺めながら、ティオレは思います。
（何百年も前から変わらぬ光景だ。変わったのはそこにいる面々の顔ぶれだけか）
　とはいえ、ほしびとは長命種もおり、不老不死の呪いをかけられたティオレのように変わらない姿の者もいるわけですが。
　見た目20歳くらいのティオレは、すでに900年近い時を生きているのでした。
「腹が減ったな」
　花だけではお腹を満たすことができないのも当然のことで。
　道の横に出ている屋台に近づき物色します。
「水星トウモロコシ焼きを１つ。それからワニゲイツの串焼き」
「へい、毎度」
　星型の粒が黄色と水色のグラデーションを描いている水星トウモロコシは、ジューシーで美味です。
　ワニゲイツは第一階層の沼に生息するワニで、鶏肉っぽい感じでなかなかの味でした。
　その注文を皮切りに、手に持ったものを平らげながら、次々とティオレは注文を重ねます。
「浜栗の酒蒸しと蟹汁を」
　浜栗はウニのようなトゲトゲに包まれた貝で、蟹汁は第四階層の凶暴な蟹をふんだんに使った鍋です。
　ティオレは実は下戸ですが、酒蒸しからはとてもいい香りが漂っていたので気にせず平らげました。
「ヴォラティルの玉子焼き、ドラゴンキャベツソテー、それからサファイア・リリードリンク」
　凶暴な怪鳥ヴォラティルの大きな卵をだし巻き卵にした玉子焼きに、竜の肉とも例えられるほどジューシーなキャベツのソテー。
　水晶のように透き通る花から採れたリリージュースを飲みながら、腹を満たし酔いの回ったティオレはすっかりいい気持になり、並木通りを千鳥足でうろつきました。

「……ん？」
　何か光るものが目についたのは、酔っているとはいえ盗賊の眼力でしょうか。
　少し高い梢にあるその枝に手を伸ばすべく、ティオレは塀にあしをかけ、スルスルと樹に登りました。
　光っていたのは、４枚の花弁を持つブラン。
　そっと手にしたら、なぜか酔いが醒めました。
（なんだか元気が湧いてきた……？）
　

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