ウォルター先生と豪華客船クルージング　倉前くんと丹羽さん編｜リアクション

ウォルター先生と豪華客船クルージング　倉前くんと丹羽さん編

　美味しい料理があれば、会話も弾む。
「お、丹羽はもう進路が決まったんだねぇ」
「はい。フランスのバレエ学校、日本でいうところの音大の舞踏科にあたるところかしら。そこへ入学することになったんです」
「それはすごいねぇ、おめでとう！」
　ハイスペック教師なウォルター先生に素直な称賛を送られると、なんだか気恥ずかしくもあり、誇らしくもある。
「ありがとうございます、でもまだまだ、課題が山積みで……語学の勉強も進めないと」
「授業についていくためにはもちろん、晴れてバレエダンサーになった暁には、世界中で公演をするわけだからねぇ」
「そうですよね。フランス語だけじゃなくて、英語ももっともっと勉強しなきゃ」
「うん。丹羽ならきっと上手くいくよ。それだけ頑張ってるんだからねぇ」
　いつか一人前のバレリーナになったなら、きっと日本で公演をすることだってあるだろう。ウォルター先生や、七瀬だって見に来てくれるかもしれない。
　そんな日はまだまだ先のことだろうが、それでも紅葉は身が引き締まる思いがした。
「へええ……紅葉はすごいなぁ。おめでとう」
「うん、ありがと。七瀬君は？」
　尋ねると、七瀬はきょとんとして首を傾げた。将来のことはまだおぼろげらしい。
「先のことは、正直良く分からんのですけど……ああ。ウォルター先生みたいな、素敵な人になりたいなって思います」
「はは。光栄だけど倉前、それは進路とは言わないねぇ」
「あ、じゃあ先生になりたいとか？　七瀬君、本が好きだし向いてるかも？」
「う～ん……？」
　本が好き、というよりは活字そのものを愛する七瀬である。
　やっぱり首を傾けた。好みやのんきな性格もあり、どうも教師は向いていないような気がする。
「あ……そうだ。先生は先生でも、学校の司書教諭とか目指してみようかな？　それなら、ウォルター先生と一緒の学校で働けるかもしれないし」
「ふふ、七瀬君の進路の基準ってそれなの？」
　紅葉の言葉にからからと笑ったウォルター先生だが、気分屋ながら生徒に対しては意外と面倒見も良いらしく、いろいろとアドバイスをくれた。
「学校司書か。確かに倉前には向いているかもしれないねぇ。図書室で、早川先生にも話を聞いてみるといいよぉ。きっと親身に教えてくれるはずだから」
「はい、そうしますー。でも、困ったときは……」
「もちろん僕も、できる限りサポートするよぉ。こういうことこそ、教師をうんと頼るといい」
　その言葉が聞けただけで、七瀬はもうにっこりだ。

「さて、そろそろ締めのスイーツといこうかぁ」
「おお、美味しそうですー」
「！　ああ……イスパハンにフレジエ、サントノレ・ピスタッシュ……！」
　絶品スイーツを三人仲良くシェアしながら、おしゃべりは飽くことなく続いた。

　お腹が満たされた後は、アクティブなウォルター先生に付き合って、船内の施設をはしごして満喫した。
　プールとフィットネスで腹ごなしをしてから、劇場で観劇。演目がちょうどオペラであったので、紅葉はプロのバレエダンサーを見ることもできた。
「すっかり夕暮れ時ですねー」
　そして今は、甲板をゆるりと散策している。黄金色の空を眺めて七瀬が言うと、ウォルター先生も紅葉も目を細め、見入った。
「そうだ。写真撮りましょう、三人で」
「おっ、いいねぇ」
　紅葉は通りすがりの乗客にお願いして、夕日と海をバックに写真を撮ってもらった。三人並んで、良い笑顔だ。
　ちなみに出来上がった写真は、デジタルフォトフレームに収めて七瀬と先生へ渡すつもりだ。きっと素晴らしい思い出となるだろう。
　金色の雲がゆったり、赤い水平線を目指して泳いでゆく。さざなみまでもオレンジに染まり、まるで黄金の海を遊覧しているかのようだ。
「今日はとっても楽しかったです。先生」
　彼方を見つめながら、七瀬がぽつりつぶやく。
「またこんなふうに過ごせる日がきたらいいな、って思いますー」
「私もです。ありがとうございました、ウォルター先生」
　紅葉もそう伝えると、先生はいつものように、大人ような子どものような、あの何とも魅力的な笑みを浮かべてくれた。
「二人とも。自分の夢を諦めちゃいけないよ。君たちは可能性の塊だ。それを磨くのが、僕ら教師の仕事。いつでも頼ってくれていいからねぇ」

　そんな言葉を胸に刻めば、二人はどこへだっていける気がしてくるのだ。
　クルーズ船はそろそろ、東京へと到着する。
　三人は並び立ち、心地良く吹き抜けてゆく風に身を委ねた。

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あとがき

担当マスター：網透介
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　網です、こんにちは。
　倉前さん、丹羽さんのプライベートシナリオを担当させていただきました。

　今回は、ウォルター先生と行く日帰りクルーズ船の旅でした。
　僕はそういったセレブな体験をしたことはないので、下調べと想像に基づく描写ではあるのですが、とにかく楽しんでいただけることを念頭に執筆しました。
　リアリティのない描写がありましたら、笑って許してもらえたら嬉しいです。
　一度乗ってみたいものですね、クルーズ船。

　ウォルター先生は魅力的な人物だと思います。
　気まぐれで子どもっぽいところもありながら、酸いも甘いも噛み分けるまぎれもない大人であり、きっと学生という立場から見れば相談しやすく、頼りがいのある先生なんじゃないでしょうか。
　倉前さんや丹羽さんが慕うのも分かりますね。
　またお三人の交流を描かせていただけましたらありがたいです。

　それでは、この度はご参加ありがとうございました。
　今後ともよろしくお願いします。

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