寝子高制服☆トリエンナーレ！｜リアクション

寝子高制服☆トリエンナーレ！

●制服：エントリーNo.06　佐々寿美礼
　
　佐々寿美礼は嬉しかった。
　「出場おめでとう」のカードが入っていたのを見て、兄を置いて来てしまうくらいに。
　だからつい、キャットウォークをうきうきスキップ。
　長袖カッターシャツの上に制服のブレザー、スカートはチェックのものをセレクトし、黒のハイソックスを合わせている。それから、スニーカーにのえんじ色の学校指定カバン。
　スカートの中にはロールアップのハーフパンツを穿いているのが、寿美礼のいつもの着こなしだ。
　
「みんなー！　創立記念感謝祭だよー盛り上がってますかー！
　2年10組佐々寿美礼、出場になりましたーっ」

　そういって手を振ると、わあっと会場が盛り上がる。

「さっそくですが、あたしの着こなしは……コレ！」
　と、寿美礼は、上着を脱いで腰に巻き、シャツを腕まくりした。

「急な気温変化にも対応できる春から梅雨あたり限定2WAYコーデでーす！」
　半袖シャツじゃダメなの、長袖じゃないとね。と寿美礼はこだわりを見せる。
「夏服に着替えるのもあってもうすぐこのスタイルともお別れだけど、秋にはまた復活するよー」

　もう一つのこだわりはこちら、と寿美礼は、学校指定カバンを高々と掲げた。
「カバンについてるネームプレート、見えますかー！
　『S･SASA』ってすみれ色で書いてありまーす」
　と、カバンを下し、手に持って、ネームプレートを愛おしげに撫でる。
「自分のだってすぐわかるようにプレートを買ってきて安全ピンをつけたハンドメイド！
　猫型でピンクなのはこの髪飾りとお揃いにするためのこだわりだよ」
　たしかに、寿美礼の赤みがかった長い髪は丁寧に三つ編みにされていて、そのさきっぽをピンクのネコの髪飾りで留めてあった。
「髪飾りは中学生の頃に兄からもらったので、今でも大切にしてるんだ。
　兄は口調は荒っぽいけどホントはすっごく優しくてー」
　と、噂をすればなんとやら。視線の先に話題の兄、佐々藤寿の姿を見つけて手を振る。
「あ、藤兄ー！　来てたのー？」

　驚いたのは兄の方だ。
「っておい寿美礼！　なんでそんなところに立ってんだよ！」
「妹さん、トリエンナーレに当たったんだろ？」
　そう声を掛けてきたのは、たまたま傍にいた真辺敬子だ。
「当たった？　それでパンフレット開いた途端慌てて走って行ったのか」
「よっぽど嬉しかったんだね」
　この兄妹のやりとりが目に浮かぶようで、敬子はくすくす笑ってしまう。
　ステージの上からはまだ寿美礼が「藤兄ー！」と呼んでいて、藤寿はやたら恥ずかしくなった。
「こっち見るな！　呼ぶな！　俺は特に目立ちたくねーんだよ！」
　それを見て敬子はさらにカラカラと笑った。

「あ、うちの弟がちょうど次に出てきたよ」

●制服：エントリーNo.07 真辺伸幸

　ぬんぬんと笑みを浮かべて現れた弟の姿に、姉はあちゃーと顔を押さえた。
「寝癖、ぜんぜん直ってないじゃないか……」

　そんな姉の気も知らず、真辺伸幸はてくてく歩いて来て、端のところでくるんっと回る。
「着こなし？　やあ、いつも通りだけれどーそうだねぇ……このカーディガンとかー……若草色好きでつい買っちゃうんだけれどー」
　ずるり、とカーディガンが肩からずり落ちる。よいしょ、とそれを直しながら、伸幸は続けた。
「あと真ん中止めてるのはスカーフ止めって言うのかなぁ。ほら、あのすっごく大きい安全ピンみたいなやつ。装飾可愛いらしいの多くて思わず買っちゃうのよー。好きなモノって何だかウキウキしちゃうよねぇ」
　へにゃり。
　気の抜けるような伸幸の笑顔。
「んも～！」
　なんて、姉の敬子はやきもきするけれど、伸幸の笑顔を見ていると、なんだかほっこりするような、縁側で番茶でも欲しくなるような、そんな気持ちになるから不思議だ。
　伸幸は姉の姿をみつけるとぱたぱたと手を振った。
「いい弟じゃん」
　藤寿がぽつりとこぼす。
　敬子は寝癖のこととかあれこれ反論したい気にもなったが、けっきょく笑って「そうね」とだけ答えた。

　伸幸がステージから去ると、ＢＧＭはズンドコズンドコという奇妙なリズムに変わった。