泉の女神様｜リアクション

泉の女神様

金髪のショートヘアに白いワンピース姿。
　自称女神様である。
「ただし、私との追いかけっこに勝てたら」
佐藤瀬莉はいきなり現れた女神様の言葉にぽかんとした。大事な懐中時計を拾ってもらったわけだが、そもそも女神様同様にいきなり現れたこの泉が原因だ。
それでいきなり勝負とは？
「ふふ、どうします？」
　懐中時計を取り戻すにはそれしかないのなら、受けるしかないだろう。
「うん、わかった。いいよ」
　瀬莉が頷くと、女神はにやりと笑い、宙に浮かび上がった。すると泉が消えて、元のアスファルトへと戻る。
「では、スタートです」
　女神様はそう宣言して、瀬莉の横をすり抜けて行った。
「……」

　とりあえず、何もせず、放置することにした。

　女神様は瀬莉の懐中時計をカタに取ることで、自分にとって有利なゲームに引きずり込もうとしている。だったら、ゲームに乗らないことでこちらが不利な状況をひっくり返すことができるかもしれない。
　そう決めて自販機で冷たい飲み物を購入した。
日陰のベンチを探していると、前方から飛んでくる女神様の姿が。しかし、金色のロングへアだ。追いかけっこ中の女神様とは別人だろうか。
　彼女は瀬莉を横目に通り過ぎて行った。
　と、すぐに響タルトが走ってくる。
「あ、そこのキミー。女神っぽい人見なかった？」
「女神っぽい人？　向こうに飛んで行った人かな。白い服の」
「そう、それ。ありがと♪」
　タルトはそのまま去って行った。
「ふう」
　空を見上げると、雲一つない青空が。今朝まで雨が降っていたが、すっかり晴れていた。
　ベンチに座ると、
「みゃあぁ」
「あっ、おいで」
　その下から出て来た子猫を抱き上げる。
「あはは、かわいー」
　膝に乗せたり、頭を撫でたり、懐中時計でじゃれつかせてみたり。
　すると、
「ちょっと」
　瀬莉は声をかけられて、自分の前に立った人物を見上げる。
「思ったより早く出て来たね！」
　猫と戯れながらにっこりと笑う瀬莉。
　女神様は顔を引きつらせていた。追いかけてこないことに気づいて、彼女の方からやってきたらしい。
「追いかけっこだって言いましたよね？　わかってます？」
「女神様が追いかけてきたんだから、追いかけっこになってるよ？」
「あなたが追いかけるんです。捕まえられたら、この時計を返しましょう」
「それじゃ」
　猫を抱きながら女神様へ手を伸ばすと、素早い動きで近くの水たまりへと潜ってしまった。
「……」
「にゃー」
　瀬莉は子猫に視線を戻した。
「あ、ごめんね。よしよし」
　猫を撫でつつ、別に持っていた懐中時計を取り出す。それを耳に当て目を閉じる。なんとも落ち着く時間だ。
「またあなたはっ、私を追いかけなさいと言ってるのに」
　女神様は水たまりから出てきて、拳を震わせていた。
「え？」
「え？　じゃないです！」
　瀬莉はベンチから立ち上がった。苦笑を浮かべる。
「ちょっと落ち着こうよ。じゃあ、一つ提案」
「提案？」
　瀬莉は人差し指を立て、女神様に歩み寄った。
「うん。これで終わりにしようって」
　瀬莉は女神様の肩にぽんと手を置いた。
「へ……？」
「引っかかったね、女神さま。ゲームは仕掛けた方が圧倒的に有利でしょ。だからゲームに乗らなかったの」
　満面の笑みを浮かべた。

このページにイラストを設定する