●いつもの朝
旧市街に住む青年、平助は絶叫と共に目を覚ました。
「やべ――っ! うっかり二度寝してた、時間……あと5分!?」
がばりとベッドから跳ね起きて、身支度をする。
この際ファッションなど、気にしておれない。
取るものもとりあえず飛び出そうとドアノブを掴めば、ふと玄関の鏡に映った自身の寝癖頭が目に入った。
「ぎゃー!! 急いでる時に限って」
足をもつれさせ、したたかにむこうずねを打ちつけながらも取って返し、洗面所で寝癖用フォームをガシガシ。
「な、直らねーじゃねえかよ……かくなる上は……」
思い切り良くすくったヘアワックスを手の中で摺りあわせると、ぐしゃぐしゃり。
「いいの、もうこういう髪型っ!! さあいそ……」
ぺしゃ。
足の下で、いやに頼りない感触がした……。
そーっと足を持ち上げてみると、見事に潰れた、愛犬ポチのウン●。
「ポ、ポチッ――!!」
平和な旧市街に、再び絶叫が響き渡った。
場所は変わって旧市街参道商店街(地図K-3)。
大田原 いいなの叔母が営む『うさぎ屋』の名物は、直径20cm近くある、超ジャンボな豚玉だ。
すぐ近くだから届けてあげて、と頼まれた いいなは、ぶつくさ文句を言いながらも豚玉を抱えて歩いていた。
「まったく、叔母上は人使いが荒いのじゃ! 休みの日くらい、ゆっくり……」
――ドカッ!!
言い終わらないうちに、角から猛ダッシュしてきた青年と、ぶつかった。
元々小柄で体重も軽い いいなは、勢いで派手に吹っ飛ばされた。
悲鳴と共に、香ばしいソースの匂いを立ち上らせながら、熱々の豚玉も地面に投げ出され、これでは売り物にならない。
「あああっ~!! どうしてくれるのじゃ!」
「うわわ、ごめんなさい、きれいなお姉さんっ! えっと、うさぎ屋さんのバイトさんかな? 俺、旧市街に住んでる加藤平助です! 後で、後で必ず弁償に行くから、今だけ見逃してっ!!」
きれいなお姉さん? 言われて、いいなは自分がろっこんの力で大人の女性に変身してしまったことを悟る。
いいなは過去の経験から、男性がトラウマレベルで苦手で、サシで話す緊張から心拍数が100を超えると、変身してしまうのだ。
すんなり伸びた健康的な手足に、さらさらの長い髪。
変身したことで丈が短くなったシャツの下では、ツンと上を向いた張りのあるバストが窮屈そう。
「ぐぬぬ……男……な、なんて、気にしてる場合じゃないのじゃ……。ここで取り逃がしては、叔母上に顔向け出来ん。仕方ないのう、追いかけるか……」
平助と名乗った青年を、追ういいなであったが。
しばらく彼の後ろを、そろそろとついて行って気づいた。
平助は圧倒的に運が悪く、そのくせ意志が弱くて、頼まれたら嫌と言えないタチだった。
今も、大きな荷物をしょったお婆さんを背負って歩……いや、駆けている。
「お、お婆ちゃん。こ、ここまででいい? じゃあ俺はこれで!」
お婆さんを降ろすと、またダッシュ。
「松子――! 待ってろー、いや、待っててくださーい!!」
「なんなんじゃ、あやつは……?」
なんだか気が抜けてしまった。
側溝に足を取られては転び、急いでいるのに観光客に道を尋ねられたら、親切に教え始める。
きっと、後で弁償するという約束も、嘘ではないのだろう。
だって、いい人すぎる……。
そして。なんとなく遠巻きに見守るいいなの視線の先で、平助はスライディング土下座を決めた。
「ご、ごめん、松子!! その、寝坊して……映画……今からじゃ、もう間に合わないよな!? えっと、えっと……」
汗だくになりながら、息も絶え絶えに言い繕う平助を、土下座されている女性は無言で見下ろしている。
(む、『でえと』の待ち合わせか?)
『りあじゅう』を目の敵にするいいなは、思わず後ろ手でロケット花火を握り締めたが……。
「……テンメェ!! 平助、いい加減にしろよゴルァ!!!」
彼女、松子の怒声に一瞬で硬直した。
松子の黒髪が、一瞬で金色に輝いた。
更に隆起した筋肉で、服が引き裂けそうだ!
なにあれ、こわい。
まるでどこぞのアニメの、野菜っぽい名前のヒーローじゃないか。
「おい。あの二人、またやってるよ」
「どうやってるの、あれ?」
「さあ、このところ週末になると必ずやってるよな。パフォーマンスの一種なのかな……?」
通りがかる人たちのヒソヒソ話が、いいなの耳にも入ってくる。
それと同時に、松子の声も。
「平助、これが最後よ! あんたが毎回遅刻するから、いつも私がこうして島まで出向いてるのに! 次また遅刻したら許さない、本当に別れるからねっ!!」
平助が地面に額をこすりつけ、松子はやがて平助の首ねっこを掴むと、鼻息も荒く歩き出した。
とりあえず、今日のところは丸く収まったようだ。……多分。
しかし「次」は、どうなるだろう。
「彼女、先週も先々週も、あれ言ってたよなー」
感心したように頷きながら、周囲の人が言った。
毎週やってんのか、アレ。
このまま放っておいて、もれいびとしての力を衆目にさらし続けるのも、どうかという気がしなくもない。
いいなは、ジト目で唇を尖らせた。
NPCの名前の付け方に、愛情が感じられない方のマスター、メシータです。
お馬鹿な話を想定しています。
PCの皆さんは、平助、松子の両者に自由に関わる事が出来ます。
二人は毎週同じような痴話喧嘩をしているので、旧市街で噂になり始めています。
旧市街に住んでいるPCさんは、以前から平助を知っているとして構いません。
●場所
旧市街の外れから、デートの待ち合わせの寝子島駅まで。
休日の昼間、晴れ。人目ありとして扱います。
●登場NPC
・平助
旧市街に住む青年です。基本的に時間にルーズ。
厄介な体質で(ろっこんではありません)道中、シナリオガイドで示された様なトラブルに、きっちりぶち当たり、デートに毎回遅刻しています。(トラブルの内容でっちあげ歓迎です 例:不良に絡まれるなど)
松子の変化を、遅刻した自分への脅しのための、パフォーマンスだと思っています。
松子ラブなので、激しく叱られても彼女への愛は変わりません。
大変身が軽く、足も速いです。
・松子
平助の彼女で、もれいびです。
彼に会うために、毎週休日ごとに寝子電にのって寝子島にやって来ています。
毎回、遅刻してくる平助に、最初こそ笑って許していたものの、今では怒りが爆発しっぱなしです。
平助に怒りをぶつけますが、憎んではいません。
ろっこんを得てから、激怒すると身体がゴリマッチョの外国人に変化してしまいますが、本人はそれに気づいておらず、また自分がもれいびである自覚はありません。
以上、よろしければご参加くださいませ。